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馬の軟便:実は怖い病気の前兆かも

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馬の軟便については、軽く考えてしまうことは禁物です。

軟便や下痢症とは、糞便に含まれる水分量が正常よりも多い状態を指し、消化管での水分吸収が減っている場合と、分泌が増えている場合とがあります。幸いにも、馬の軟便は、深刻ではないケースが殆どです。しかし、軟便の原因によっては、命に関わることもあり、油断のできない病気です。また、深刻でない軟便であっても、それが長引いてしまうことで、命取りの下痢症へと進行してしまうこともあります。そういう意味では、軽く考え過ぎることなく、タイムリーに適切な対処を施してあげることが大切だと言えます。

参考資料:
Diane E Rice. The Scoop on Runny Poop: Diarrhea in Horses. The Horse, Topics, Horse Care, Digestive Tract Problems, Aug27, 2019.

一般的に、軟便や下痢の症状は、消化管の中でも、水分吸収の役割を担う大腸の病態を反映することが知られています。幸いにも、飼料変更や内服薬によって、一過性に軟便になっているケースでは、殆ど心配する必要はありません。しかし、馬は草食動物であり、大腸の細菌叢による発酵機能が生命維持のうえで非常に重要であるため、軟便を示すような大腸の病気によって、腸内細菌叢のバランスが崩れると、全身の健康状態に悪影響を与えてしまう度合いが、馬はヒトよりも大きくなります。そして、軟便や下痢症が深刻なものか否かは、便の柔らかさだけでなく、その原因によって大きく異なります。



馬の軟便の原因

馬における感染性の軟便は、慎重に対応しなければいけない病態であり、細菌性、ウイルス性、寄生虫性の原因があります。このうち、細菌性の原因には、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium等)、クロストリディウム菌(Clostridium perfringens等)、および、ロドコッカス菌(Rhodococcus equi)が挙げられます。これらの中には、もともと腸内細菌として体内にいる菌もありますが、馬自身の体調不良や給餌内容の急激な変化などによって、異常増殖してしまうことで病的な軟便を引き起こしてしまいます。ですので、抗生物質の内服薬によって、これらの悪玉菌を制御する必要が出てくることもあります。特に、クロストリディウム菌は毒素を出すため、致死的なX大腸炎に至ってしまうケースもあり、その致死率は六割以上にのぼることが知られています。ですので、軽い軟便から深刻な下痢に悪化して、X大腸炎を続発しないよう、速やかに適切な対処を取ることが大切になってきます。

一方、ウイルス性の原因には、ロタウイルスが挙げられ、子馬に軟便を引き起こすことが多いことが知られています。このウイルスは、大腸ではなく小腸に作用して、腸絨毛窩を破壊して母乳の吸収を妨げることで軟便に至ります。そして、寄生虫性の原因としては円虫(Small strongyle)があり、やはり子馬に下痢症を起こすことが多く、特に、近年では、駆虫剤に耐性を持った円虫による病気が増加傾向にあることが知られています。治療には、駆虫剤投与が必須ですが、正しい駆虫プログラムを実施して予防に努めることが重要であると言えます。

次によく見られるのは、炎症性の軟便であり、非ステロイド系抗炎症剤(フェニルブタゾン等)を長期間にわたって内服したときに発生する右背側結腸炎のほか、消化管にアレルギー反応に起因する浸潤性腸疾患や、内臓性リンパ肉腫という腫瘍性の病気もあります。これらに対しては、炎症反応やアレルギー反応を制御する内服薬が投与されます。また、大腸のなかに砂が貯留してしまった場合にも、砂粒が物理的に腸粘膜を刺激することで、軟便や下痢症状に至ることがあります。これらの病気は、炎症性の下痢症状を呈するため、ステロイド系の抗炎症剤を投与したり、砂貯留の場合には、砂を排出する飼料添加剤が投与されることもあります。



馬の軟便の対処法

馬の軟便および下痢便への対処法は、根治療法と対症療法があり、前者としては、上述のような各々の原因に対する投薬などが含まれます。しかし、馬の健康状態を回復させるためには、実は後者のほうが重要であり、原因を直接的に除去することに加えて、全身状態および大腸環境の健常化を試みることが重要である、と提唱されています。そのような対症療法としては、脱水の改善が最も大切であり、電解質を混和した飲料水を提供したり、頻繁な用手給水によって損失した水分の補給を行ないます。また、脱水が重篤な場合には、獣医師による補液が実施され、電解質や蛋白質の補給が併用されることもあります。

もう一つ、軟便や下痢症の対症療法としては、内毒素(=エンドトキシン)への対策も重要です。内毒素とは、大腸にいる腸内細菌の細胞壁成分であり、馬1頭の腸内細菌が持っている内毒素は、馬100頭分の致死量に相当すると言われています。幸いにも、腸粘膜バリアがあるため、全身血流に回る内毒素は少量ですが、それでも、その毒素が敗血症や蹄葉炎を引き起こさないよう、全身性の炎症反応を抑える投薬や、蹄の氷冷療法などが施される事になります。また、木炭粉やベントナイト粘土を経鼻カテーテルで投与することで、内毒素の吸着が試みられることもあります。

そして、軟便や下痢症への対処法として、腸内細菌叢の正常な組成を回復させることも重要であり、このためには、生菌剤の投与によって善玉菌を補給する方針も有用だと言われています。市場には、非常に多種類の生菌剤が販売されており、含有される菌のタイプや量は様々であるため、必ずしも全ての生菌剤が、馬の軟便や下痢症に対する効能を証明されている訳ではない、という警鐘も鳴らされています。また、健常な馬の腸内細菌を、軟便を起こしている個体に移植する手法もありますが、これは、病態が非常に重篤になった症例にのみ応用されることが知られています。



馬の軟便に関して重要なこと

以上のように、馬の軟便や下痢症には色々な原因があり、此処に対する根治療法が存在することに加えて、軟便症状の重篤度に応じて、適切な対症療法を施すことも重要です。上記の参考文献の中でも、筆者の言葉として、ホースマンの中には、馬の軟便を軽く考えてしまう方もある、という指摘もなされています。馬はヒトよりも下痢に弱いという特徴を理解して、糞便の状態だけに着目するのではなく、馬の容態を慎重かつ継続的に監視して、適切な対処を遅延なく実施することが大切なのではないでしょうか。

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