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効き目が丸一日も続く局所麻酔薬

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効き目が24時間も続く局所麻酔薬が、馬の遠位肢に応用されています。

通常、局所麻酔薬を馬の神経周囲浸潤麻酔として使った場合、感覚神経の刺激伝導を一時的に遮断して、30分~1時間のあいだ、注射箇所より遠位側の痛覚を取り除くことが出来ます。馬の遠位肢に対しても、跛行検査での診断麻酔として用いられ、疼痛の発生箇所をピンポイントで特定したり、全身麻酔下での骨折手術に併用することで、手術中および麻酔覚醒中の疼痛を管理する目的で使われています。しかし、近年では、効果が丸一日~数日間も継続する局所麻酔薬が開発され、ヒトの医学領域で臨床応用されているそうで、その効き目の長さから、これまでとは異なった用途で適用できる可能性があります。



徐放性の局所麻酔薬による馬の神経ブロックの試験

馬の局所麻酔としては、メピバカインやリドカインが多く用いられますが、その他に、効き目が6~8時間と長めに継続するブピバカインという局所麻酔薬もあります。上記の研究論文では、そのブピバカインを更に改良した、「リポソームブピバカイン」という麻酔薬が試験されており、これは、ブピバカインの粒子を脂質膜カプセルで包むことで、その薬剤が徐放性に緩やかに組織内に遊離されていき、ブピバカインによる局所麻酔作用が、長時間にわたって得られるという仕組みになっています。

参考文献:
「馬における調節型蹄底圧迫跛行モデルに対してリポソームブピバカインは塩酸ブピバカインよりも長い鎮痛効果を示した」
Valerie J Moorman, Lynn M Pezzanite, Gregg M Griffenhagen. Liposomal bupivacaine provides longer duration analgesia than bupivacaine hydrochloride in an adjustable sole-pressure model of equine lameness. Am J Vet Res. 2022; 83(4): 298-304.

上記の研究論文では、特殊蹄鉄によって実験的に作り出した前肢跛行モデルを用いて、リポソームブピバカインの浸潤麻酔によって掌側神経ブロック(球節より遠位側の麻酔作用)が施された後、跛行肢への荷重を力学的歩様解析法で計測することで、疼痛緩和の度合いや時間的長さが評価されました。その結果、通常のブピバカインと比較して、リポソームブピバカインによる神経ブロックでは、麻酔から24時間後にも有意に優れた疼痛緩和が得られることが示されました(跛行スコアの減少、垂直地面反力の増加など)。また、注射箇所の腫れや熱感などの副作用も確認されませんでした。



丸一日も効く局所麻酔薬の臨床応用

今回の研究で実証されたように、リポソームブピバカインによる神経ブロックを介して、24時間に及ぶ局所麻酔効果が達成できるのであれば、一日一回の浸潤麻酔によって、長期間にわたる特定部位の疼痛管理が行なえることになります。そうすると、今までの、数時間しか効かなかった局所麻酔薬と異なり、様々な用途での臨床応用の可能性が出てきます。

例えば、骨折や蹄底膿瘍、フレグモーネ等を発症した馬において、罹患肢の痛みを持続的に軽減することで、対側肢の負重性蹄葉炎を予防できるかもしれません。また、骨折の内固定術、外傷縫合、眼科手術、抜歯、去勢などの術創部位の痛みを、術後の数週間に渡って軽減することで、食欲低下や自傷などを防いだり、鎮痛のための内服薬(フェニルブタゾン等)の投与量および副作用を抑えられるかもしれません。



徐放性麻酔薬に関する今後の課題

徐放性の局所麻酔薬の臨床応用に際しては、幾つかの問題点も指摘されています。たとえば、今回の研究で用いられた中程度グレードの跛行モデルにおいては、計測値に統計的な有意差はあったものの、徐放性ブピバカインによって、蹄底の痛みを完全に取り除けた訳ではなかったようです。このため、今後の研究では、馬の運動器疾患等で起こりうる激痛に対して、十分な鎮痛効果が長時間にわたって得られるのか否かを、実際の臨床症例を用いて評価する必要があると言えそうです。

また、他の先行研究では、リポソームブピバカインを掌側指神経ブロックに用いたところ、48時間後までに注射部位の腫脹が見られたという知見もあります(McCracken et al. AJVR;2020;81:400)。ですので、本研究で注射された薬剤量(3mL/nerve, 6mL/limb)を何日間も連続で投与したり、もっと多い薬剤量を注射したときに、どのような副作用があるのかを検証する必要があるかもしれません。ヒトの研究では、リポソームブピバカインの投与量が充分であれば、48~72時間にわたる鎮痛が可能であるという知見もあるようです。

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