馬の蕁麻疹への対策は根気強く
馬の飼養管理 - 2022年07月20日 (水)

馬の体表に「点字」のように現れる蕁麻疹は、馬体からの警戒のメッセージですが、それを読み解くのは、点字を読むのと同じくらい難しいのかもしれません。
蕁麻疹とは、アレルギー性過敏反応の結果として皮膚に生じた発疹のことを指し、病名としては、アトピー性皮膚炎という用語に当たります。馬に蕁麻疹を引き起こすアレルゲンとしては、乾草中のカビ、畜舎ダスト、牧草の花粉、などが知られています。また、薬品が原因となる場合は、抗生剤のペニシリンや、鎮静剤のキシラジンがアレルゲンになり易いと言われています。さらに、馬の蕁麻疹は、昆虫(ハエ、ブヨ、ヌカカ等)の唾液成分に対するアレルギーに起因することもあり、この場合、昆虫刺咬性過敏症(IBH: Insect bite hypersensitivity)、または、ヌカカ過敏症という病名が使われます。
参考資料:
Clair Thunes. How To Manage a Horse With Seasonal Allergies. The Horse, Topics, Horse Care, Hives & Skin Allergies, May26, 2022.
Equine Disease Quarterly. Atopic Dermatitis in Horses. The Horse, Topics, Hives & Skin Allergies, May19, 2022
Alayne Blickle. Dealing With Insect-Bite Hypersensitivity. The Horse, Topics, Horse Care, Insect Control, Skin Problems, May14, 2022.
Nancy S Loving. Hives in Horses. The Horse, Topics, Basic Care, Hives & Skin Allergies, Horse Care, The Horse, Topics, May10, 2022.
Clair Thunes. Clair Thunes. Will an Omega-3 Fat Supplement Help My Horse’s Allergies? The Horse, Topics, Nutrition, Apr18, 2022.
Susan L White. Hives in Horses: Symptoms and Treatment. The Horse, Topics, Hives & Skin Allergies, Skin Problems, May12, 2021.
馬の蕁麻疹の診断法
馬の蕁麻疹の原因、つまりアレルゲンを明確に特定するのは難しい場合が多いと言えます。獣医師による診断では、まず非アレルギー性の皮膚炎を消去する必要があり、病原体(細菌、真菌、シラミ、ダニ等)を鏡検や培養で除外診断した後、皮膚腫瘍や寄生虫による皮膚炎かどうかも確認します。幸いにも、病変の特徴や病歴から、アレルギー性の皮膚炎であると判断するのは難しくありませんが、アレルゲンを突き止めるためには、血液検査で免疫性蛋白質を測定したり、皮内反応試験で原因物質への過敏反応を視認する必要が出てきます。
しかし、いずれの検査法も、馬体がどのアレルゲンに対して過敏に反応するかを見つける事しかできず、現時点で起こっている蕁麻疹との因果関係を証明することは出来ません。また、血液検査の結果として、非常に多種類のアレルゲンが見つかることが多いですが、どのアレルゲンが一番強い過敏反応を起こしているかの順位付けは不明瞭になりがちで、年間の異なった時期に複数回の皮内検査を実施して、その再現性を確認しなくてはいけません。
これらの理由から、馬の蕁麻疹への対策としては、原因となるアレルゲンを特定してから排除する、という方針は取りにくいと言えます。その代わり、アレルゲンの候補を試験的に除去してみて、馬の蕁麻疹が消えるか否かを観察して推定診断を下すしかない、という状況が一般的です。もし、蕁麻疹が消えなければ、次は別の候補を除去してまた観察してみる、というステップを繰り返し、根気強く原因究明を続けていきます。
具体的にアレルゲン候補を除去する方策としては、たとえば、乾草中のカビが疑われる場合は、乾草の種類を変更したり、乾草を温水に浸してから給餌してみる等があり、また、畜舎ダストが疑われる場合は、その馬を風通しの良い厩舎の端っこの馬房に移動させたり、思い切って放牧飼いに変更してみる等が挙げられます。逆に、牧草の花粉が疑われる場合には、放牧を中止して、舎飼いのみの飼養に変更してみます。また、昆虫の唾液成分が疑われる場合には、週に三回以上、薬用シャンプーでの洗体を行なったり、虫除け用の馬着を常時装着させてみる等になります。
馬の蕁麻疹の治療法
馬の蕁麻疹への対策としては、上述のようにしてアレルゲンを予測して、それを排除することで、症状が治まるのを待つというのが基本になります。しかし、なかなかアレルゲンが特定できず、蕁麻疹が体中に広がって、痒みによる自傷や、自壊して感染するなどの深刻な問題が起こったときには、クスリによる加療が必要になります。馬の蕁麻疹に対しては、ステロイド剤や抗ヒスタミン剤などが有効ですが、副作用の心配もあり、また、服用を止めると蕁麻疹が再発することも多いので、あくまで応急処置的な対処法であると認識しておくのが重要です。その他には、必須脂肪酸を含むサプリを飼料添加して、馬体の炎症反応を健常範囲に制御することで、アレルギー性皮膚炎の症状が緩和されることも知られています。
馬の蕁麻疹を根治させるのは難しいものの、減感作療法が試みられることもあります(原理はヒトの医学と同様)。この治療法は、前述の皮内検査等でアレルゲンと特定した後、その物質を薄めた溶液を、数日おきに注射して馬体を慣らしていく方法です。通常は、12ヶ月に渡ってアレルゲン注射を実施するという忍耐の要る手法であり、治療期間中に重篤な蕁麻疹が突発的に生じてしまう事もあります。ただ、原因となるアレルゲンが正しく選択され注射されれば、馬のアレルギー性皮膚炎に対する減感作療法の成功率は七割にのぼるとも言われています。
馬の蕁麻疹で重要なこと
残念ながら、馬の蕁麻疹を起こしているアレルゲンは、簡単には特定できませんので、蕁麻疹を無くす対処法も簡単ではありません。しかし、ヒトのアトピー性皮膚炎などと同様に、根気強く原因を探して、その馬に合った飼養管理法にしてあげれば、たとえアレルギー体質は消えなくても、蕁麻疹は消すことが出来るようになるのかもしれません。
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