馬の文献:喉嚢蓄膿症(Newton et al. 1997)
文献 - 2022年07月21日 (木)
「馬の喉嚢における自然発生的なストレプトコッカス・エクイの持続性および不症候性感染」
Newton JR, Wood JL, Dunn KA, DeBrauwere MN, Chanter N. Naturally occurring persistent and asymptomatic infection of the guttural pouches of horses with Streptococcus equi. Vet Rec. 1997; 140(4): 84-90.
この研究論文では、約1500頭に起こった腺疫(Strangles)の流行(Outbreak)において、連続的な鼻腔咽頭の拭き取り検査(Repeated nasopharyngeal swabbing)、および、喉嚢洗浄(Guttural pouch lavage)を介した、喉嚢における自然発生的なストレプトコッカス・エクイの持続性および不症候性感染(Naturally occurring persistent and asymptomatic infection)の評価が行われました。
結果としては、六頭の見かけ上は健康な回復期の馬(clinically healthy convalescent horses)において、長期的な保菌(Long-term carriage:7~39ヶ月)が確認され、単一回の検査においては、鼻腔咽頭の拭き取り検査による診断の感度(Sensitivity)は45%であったのに対して、喉嚢洗浄検査による診断の感度は88%に上っていました。また、喉嚢洗浄によって保菌が確認された馬では、蓄膿症(Empyema)の有無に関わらず、洗浄検体に多量の好中球(Neutrophils)が認められました。さらに、造影レントゲン検査(Contrast radiography)においては、不規則かつ境界不明瞭な充填欠損箇所(Irregular and ill-defined filling)や、喉嚢壁の湾入(Indentation)などが見られました。このため、不症候性に長期保菌する馬は、鼻腔咽頭の拭き取り検査に陰性を示したり、喉嚢蓄膿症には至らない場合が多いことから、腺疫の拡散を生じる重要な危険性を秘めている事が示唆されました。
一般的に、腺疫の罹患馬においては、咽頭後リンパ節(Retropharyngeal lymph nodes)に生じた膿瘍(Abscess)が喉嚢内へと排液(Drainage)することで、慢性の喉嚢蓄膿症(Chronic guttural pouch empyema)の合併症を生じることが知られています(Knight et al. Vet Med SA Clin. 1975;70:1194)。しかし、今回の研究では、喉嚢内への蓄膿の有無と、ストレプトコッカス・エクイ菌の慢性感染とは必ずしも相関しておらず、持続性の喉嚢蓄膿の発現が、常に持続性の不症候性感染を示唆するとは限らず、慢性保菌馬のスクリーニングにおける信頼性のある指標にもなりえない、という知見が示されました。一方、喉嚢の洗浄液が検査された場合には、例えストレプトコッカス・エクイ菌が検知されなかった場合でも、多量の好中球が含まれている所見によって、持続性の感染を推定診断(Presumptive diagnosis)できる症例もあると推測されています。
一般的に、馬におけるストレプトコッカス・エクイの感染では、臨床症状を示さずに菌排出(Subclinical shedding of the organism)する馬の割合は二割近くに達することが知られており(Sweeney et al. JAVMA. 1989;194:1281)、また、半数以上の流行事例においては、一頭もしくは複数の回復期の馬が、一ヶ月以上にわたって不症候性のまま菌排出を起こすと推測されています。そして、平均的な菌排出の持続期間は、六ヶ月から十ヶ月まで様々で(Timoney. Proc ICEID. 1988:28, George et al. JAVMA. 1983;183:80)、馬体内で保菌が持続している箇所としては扁桃腺(Tonsils)が挙げられていますが、今回の研究では、持続性の不症候性感染を呈していた六頭のうち五頭において、喉嚢内からストレプトコッカス・エクイ菌が検知されており、喉嚢が保菌箇所の一つになっている可能性が示唆されています。
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この研究論文では、約1500頭に起こった腺疫(Strangles)の流行(Outbreak)において、連続的な鼻腔咽頭の拭き取り検査(Repeated nasopharyngeal swabbing)、および、喉嚢洗浄(Guttural pouch lavage)を介した、喉嚢における自然発生的なストレプトコッカス・エクイの持続性および不症候性感染(Naturally occurring persistent and asymptomatic infection)の評価が行われました。
結果としては、六頭の見かけ上は健康な回復期の馬(clinically healthy convalescent horses)において、長期的な保菌(Long-term carriage:7~39ヶ月)が確認され、単一回の検査においては、鼻腔咽頭の拭き取り検査による診断の感度(Sensitivity)は45%であったのに対して、喉嚢洗浄検査による診断の感度は88%に上っていました。また、喉嚢洗浄によって保菌が確認された馬では、蓄膿症(Empyema)の有無に関わらず、洗浄検体に多量の好中球(Neutrophils)が認められました。さらに、造影レントゲン検査(Contrast radiography)においては、不規則かつ境界不明瞭な充填欠損箇所(Irregular and ill-defined filling)や、喉嚢壁の湾入(Indentation)などが見られました。このため、不症候性に長期保菌する馬は、鼻腔咽頭の拭き取り検査に陰性を示したり、喉嚢蓄膿症には至らない場合が多いことから、腺疫の拡散を生じる重要な危険性を秘めている事が示唆されました。
一般的に、腺疫の罹患馬においては、咽頭後リンパ節(Retropharyngeal lymph nodes)に生じた膿瘍(Abscess)が喉嚢内へと排液(Drainage)することで、慢性の喉嚢蓄膿症(Chronic guttural pouch empyema)の合併症を生じることが知られています(Knight et al. Vet Med SA Clin. 1975;70:1194)。しかし、今回の研究では、喉嚢内への蓄膿の有無と、ストレプトコッカス・エクイ菌の慢性感染とは必ずしも相関しておらず、持続性の喉嚢蓄膿の発現が、常に持続性の不症候性感染を示唆するとは限らず、慢性保菌馬のスクリーニングにおける信頼性のある指標にもなりえない、という知見が示されました。一方、喉嚢の洗浄液が検査された場合には、例えストレプトコッカス・エクイ菌が検知されなかった場合でも、多量の好中球が含まれている所見によって、持続性の感染を推定診断(Presumptive diagnosis)できる症例もあると推測されています。
一般的に、馬におけるストレプトコッカス・エクイの感染では、臨床症状を示さずに菌排出(Subclinical shedding of the organism)する馬の割合は二割近くに達することが知られており(Sweeney et al. JAVMA. 1989;194:1281)、また、半数以上の流行事例においては、一頭もしくは複数の回復期の馬が、一ヶ月以上にわたって不症候性のまま菌排出を起こすと推測されています。そして、平均的な菌排出の持続期間は、六ヶ月から十ヶ月まで様々で(Timoney. Proc ICEID. 1988:28, George et al. JAVMA. 1983;183:80)、馬体内で保菌が持続している箇所としては扁桃腺(Tonsils)が挙げられていますが、今回の研究では、持続性の不症候性感染を呈していた六頭のうち五頭において、喉嚢内からストレプトコッカス・エクイ菌が検知されており、喉嚢が保菌箇所の一つになっている可能性が示唆されています。
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