馬の病気:胃食滞
馬の消化器病 - 2013年04月09日 (火)

胃食滞(Gastric impaction)について。
胃の内部において摂食物が圧縮および硬化(Feed compaction/consolidation)を起こして、消化障害を呈する疾患です。胃食滞を生じ易い飼料としては、砂糖大根(Beet pulp)、フスマ(Bran)、ワラ(Straw)、小麦(Wheat)、大麦(Barley)などが挙げられていますが、過食(Overeating)、急激な摂食(Rapid ingestion)、乾燥した飼料(Dry food)、咀嚼不全(Poor mastication)、胃の排出障害(Gastric emptying disorder)等の様々な要因が重なって、飼料の硬化に至ることが病因であると考えられています。また、馬自律神経異常症(Equine dysautonomia)(いわゆるグラスシックネス)に続発する腸管運動性の減退(Reduction of gut motility)に伴って、胃内容物の停滞から胃食滞に至る病態も報告されています。
胃食滞の症状は、通常の疝痛(Colic)に類似し、確定診断(Definitive diagnosis)は困難な場合もありますが、三時間以上にわたって摂食していないにも関わらず、多量の消化不良な飼料(Poorly digested feed)が胃カテーテルから排出される所見で、胃食滞および胃排出障害の推定診断(Presumptive diagnosis)が可能な症例もあります。また、直腸検査(Rectal examination)では、胃拡張(Gastric dilatation)に伴う脾臓の内尾側変位(Caudomedial displacement of spleen)が触知されます。胃内視鏡検査(Gastroscopy)では、胃食滞と充満した胃内容物との識別が困難なことも多いですが、絶食をさせ24~48時間後に内視鏡の再検査を行うことで、胃内容物が殆ど排出されていない所見や、胃内容物が減少することで硬化した食物塊(Compacted bolus)が発見される場合もあります。
胃食滞の治療では、胃カテーテルを介して4~6リットルのジオクチルソディウムサクシネート溶液(Dioctyl sodium succinate solution)を胃内に注入することで、硬化食物塊の軟化(Bolus softening)が試みられ、数リットルの水で胃内容物の洗浄を連続的に行う手法も有効です。大結腸や小腸の便秘(Colon/small intestinal impaction)とは異なり、ミネラルオイルは食物塊の周囲をすり抜け内部にまで浸透できないため、あまり有用ではありません。検査的開腹術(Exploratory celiotomy)の際に、胃内の硬化食物塊が原因であることが触知された場合には、胃壁を介して2~4リットルの生食を注入して(Transmural saline injection)、胃のマッサージを行って、便秘物の遊離を試みます。
胃食滞の予後は一般的に良好ですが、術後には副交感神経刺激薬(Parasympathomimetic drug: Bethanechol, etc)の投与によって、上部消化管蠕動の促進が行われる場合もあります。胃食滞の回復後には、再発予防(Prevention of recurrence)のため、給餌内容の改善(Dietary management)、定期的な歯科管理(Periodic dental management)の実施、胃排出障害などの潜在性原発疾患(Subclinical primary disorder)の検査を行うことが推奨されています。
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