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鼻ネジは諸刃の剣

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馬に対する鼻ネジの使い方や注意点についてシッカリ理解しておきましょう。

鼻ネジ(鼻捻棒とも言う)とは、馬の物理的保定に用いられる器具で、通常は、木製の棒の先端に金属チェーン又はロープがループ状に取り付けられており、このループを馬の上唇に巻き付けて締めるように使用します。鼻ネジは、痛みや不快感を伴う獣医療行為を実施するときによく使用され、また、毛刈りや交配などの場面で、馬を安全に制御するために用いられることもあります。

参考資料:
Alexandra Beckstett. How Does Nose Twitching Affect a Horse? The Horse, Oct2, 2015.
Sue McDonnell. Using the Twitch Properly. The Horse Topics, Behavior, Nov1, 2004.



鼻ネジの種類や装着方法

馬に鼻ネジを装着する時には、ループの内側に左手を通して(右利きの場合)、人差し指だけループの外側に出しておくことで、鼻ネジ全体が前腕へとズリ落ちないようにしておき、右手で柄の部分を保持します。そのまま、馬の左側から馬に近づき、ループに通した左手で、馬の上唇とシッカリ掴んでから(下図の左)、右手を使ってループを上唇の根元まで滑り下ろします。そして、左手で上唇を掴んだまま、右手で鼻ネジの柄を回転させることで上唇を締め付け、ループが充分に食い込んでいる事を確認してから左手を放します。その後は、適度な力で柄を捻じりながら鼻ネジを保持しておきます。鼻ネジを左手で保持しながら、右手で無口を保定することもあります(下図の右)。
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鼻ネジは、先端にロープが付いているタイプのほうが、金属チェーンのタイプに比べて、馬が暴れた時に上唇や歯肉を傷付けるリスクが低いと言えます(下写真)。また、ポニーなどの上唇が小さい個体では、ロープのほうが締める時にズレにくいという利点もあります。ただ、ロープが唾液などで汚れると、柔軟性が無くなり、うまく締め付けられなくなるので、使用後の洗浄を欠かさないことがコツです。

ロープ式の鼻ネジ(写真クリックで販売元へ)



また、鼻ネジには、クランプ状の形で、二つを金属棒のあいだに上唇を挟むように使用するタイプもあり(下写真)、痛みが少ないので、“人道的な”鼻ネジとも呼ばれます。このタイプの鼻ネジは、扱いが容易であるだけでなく、閉じた柄に付属のヒモを巻き付け固定したあと、ヒモ先についたクリップを無口に取り付けることで、鼻ネジを保持する必要が無くなる、というメリットがあります。

クランプ状の鼻ネジ(写真クリックで販売元へ)




鼻ネジによって馬を制御できる理由

鼻ネジを装着することで、その馬は制御することが容易になりますが、それには3つの理由があります。一つ目は、シンプルな理由ですが、鼻ネジで上唇を掴むことで、馬は頭部を動かしにくくなります。二つ目の理由は、鼻ネジで上唇を捻じると馬は痛いので、そちらに注意が向けられて、獣医療などの方を許容してくれやすくなる事です。また、馬自身が、鼻ネジの装着された上唇をかばって、強く暴れるのを躊躇するためとも言われています。

そして、三つ目の理由としては、鼻ネジを付けられた馬は、体内にエンドルフィンという快楽物質が分泌されて気分が落ち着く、というメカニズムが働くことが知られています。エンドルフィンは脳内麻薬とも言われ、幸福感や鎮痛作用を得られる物質です。鼻ネジの装着時に、馬が夢見心地のような表情を示すのはこのためです。しかし、このエンドルフィンの分泌には、鼻ネジを装着してから通常3~5分間を要することが知られています。



鼻ネジを使うときの注意点

鼻ネジは、決して力づくで馬を拘束する器具ではなく、馬の気分を落ち着かせる効能のほうが重要です。もし、馬がパニックになって本気で暴れると、それを鼻ネジで制御することは出来ません。このため、馬が突発的に暴れることを想定して、ヒトの安全に配慮しながら鼻ネジを使用することが重要であり、以下の注意点は守るようにしましょう。

注意点1:鼻ネジの保持者は、必ずヘルメットを被り、手袋をはめましょう。鼻ネジを装着した馬が暴れると、外れて飛んできた鼻ネジで、保持者が大怪我することもあり得るからです。

注意点2:鼻ネジの保持者は、馬の正面には絶対に立たないようにしましょう。急に馬が立ち上がったり、前肢を振り回してくる事もあるからです。

注意点3:鼻ネジの保持者は、先端のループの部分が、歯肉に接触して、粘膜を傷付けないよう気をつけましょう。

注意点4:鼻ネジ装着から5分間は待ってから、目的の処置を開始するようにしましょう(上述のように、エンドルフィン分泌までにはある程度の時間が掛かるため)。

注意点5:鼻ネジ装着中には、穏やかな声をかけ、優しく馬をなだめるように接することを心がけましょう。乱暴に接したり、威圧的に大きな声を上げたりすると、せっかく馬が脳内麻薬で夢見心地になっているのを覚ましてしまうからです。

注意点6:鼻ネジ装着中には、馬の表情や仕草を慎重に観察して、もし馬が興奮してきている場合には、激しく暴れてしまう前に、他の方策を取るべきか否かを早めに判断しましょう(鎮静剤を投与するなど)。



鼻ネジに関して重要なこと

鼻ネジは、人間が馬を支配するための道具ではなく、必要な処置を行なっていく中で、馬と人間の安全を守ることを目的とした器具です。そして、間違った方法で鼻ネジを使えば、馬とホースマンの両方を危険に晒す諸刃の剣になりうる、という事を忘れないようにしましょう。

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