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馬の駆虫に関する7つの間違い

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馬の駆虫についての固定観念や俗説のなかには、色々と間違いがあるようです。

寄生虫による馬の病気は、過去も現在も散発的に起こっており、適切な駆虫を行なうことは、馬の飼養管理の大事な一要素であると言えます。日本で馬に起こる寄生虫病としては、馬回虫(Parascaris equorum)によって起こる空腸閉塞、普通円虫(Strongylus vulgaris)によって起こる腸間膜動脈血栓症、馬糸状虫(Setaria equina)によって起こる混晴虫症、指状糸状虫(Setaria digitata)によって起こる脳脊髄糸状虫症、葉状条虫(Anoplocephala perforliata)によって起こる盲腸便秘症や回腸盲腸重責症、および、ウマバエ幼虫(Gasterophilus infestinalis)によって起こる胃潰瘍などが挙げられます。

これらの寄生虫病のなかでも、特に馬回虫に起因する空腸閉塞は、子馬に起こる外科的疝痛の一つとして重要であり、経済的損失も大きな病気になっています。このため、疝痛を発症してから治療するよりも、正しい手法とタイミングで駆虫を実施して、消化管への寄生虫感染を未然に抑えることが重要だと言えます。不適切な駆虫を繰り返して、牧場の土壌が重度汚染され、寄生虫病が頻発して風土病の様になってしまうと、馬繁殖ビジネスそのものへの大きな打撃になってしまう危険性もあると思います。

参考資料:
David Ramey. 7 Deworming myths that have been debunked. Horse Network, Horse Health, May29, 2021.



間違い その1:寄生虫は根絶させなくてはいけない

ホースマンの中には、キチンと駆虫剤を投与していれば、寄生虫は根絶できる(少なくとも自分の牧場からは)という固定観念を持ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、馬の寄生虫は根絶することは困難であり、どんな馬でも、常に寄生虫卵の体内侵入を受け続けながら一生を送っていく、という認識が大切です。なぜなら、駆虫剤を投与しても馬の体内にいる寄生虫を全て死滅させることは出来ませんし、当然ながら、馬に飲ませた駆虫剤が土壌や敷料に含まれる虫卵を死滅させることは出来ないからです。



間違い その2:毎年、最初の霜が下りたら駆虫をするべきだ

これも、昔からホースマンに知られている俗説で、初冬の時期に最初の霜が下りたら、馬に駆虫剤を飲ませるという方針です。この背景には、土壌中の虫卵やウマバエの成虫は、霜が下りるほどの寒さで全滅するので、そのタイミングで、馬の体内の寄生虫を駆虫剤で死滅させれば、寄生虫を完全に根絶できる、という論理があります。

何だか一理ありそうにも聞こえますが、これはまったく無意味な方策です。残念ながら、どんなに寒い冬でも、土壌中の虫卵は生存できますし、前述のとおり、駆虫剤で馬の体内の寄生虫を完全に死滅させることも出来ません。この間違いも、馬の寄生虫を根絶させることがゴールである、と思い込んでいる事から生まれています。



間違い その3:駆虫剤を飲ませたあとの数日間は馬を放牧しない

これは、特に放牧飼いしている馬において言われてきた俗説です。つまり、駆虫剤を飲ませた後の数日間は、排出される糞便にたくさんの寄生虫が含まれているので、それを土壌環境に撒き散らさないようにする、という理論に基づいています。しかしこれも、殆ど無意味な方策です。

確かに、駆虫直後の糞便には、駆虫剤によって死んだ虫体が含まれていますが、そのような成虫の死骸が環境中に出ても、他の馬へと寄生する心配はありません。また、駆虫直後の糞便にも虫卵は含まれており、その虫卵数は有意には変わりません。ですので、駆虫剤を飲ませた馬を、一定期間のあいだ舎飼いにする必要はまったくありません。



間違い その4:多数の寄生虫がいそうな馬は、駆虫剤を半量だけ飲ませる

この固定観念は、多量の寄生虫が体内にいそうな馬(ボロに混じった寄生虫を頻繁に見るなど)に対しては、多数の寄生虫が急激に死ぬと腸に詰まるので、駆虫剤を半量だけ飲ませて、体内の寄生虫のうち半分だけを死滅させるほうが安全である、という論理です。残念ながら、これも完全な間違いです。

薬理学的に考えて、投与する駆虫剤を半量にすると、寄生虫が半分だけ死ぬという事はありません。薬剤は有効濃度に達しなければ、本来の駆虫作用を示しませんので、必要投与量の半分だけ投与した場合には、寄生虫は殆ど死なないと考えられます。つまり、多数の寄生虫が腸管内にいる個体であっても、駆虫剤の投与量を減らすことで、寄生虫の死骸が腸に詰まってしまう心配が減る、というエビデンスはありません。



間違い その5:表記されている投与量なら寄生虫は全て死滅する

これも前述の間違いに通ずる固定観念ですが、駆虫剤の取説に記載されている量を投与しても、全ての寄生虫が死滅する訳ではありません。薬剤への感受性は、寄生虫の一匹一匹で個体差がありますし、近年では、耐性を持っている寄生虫も出てきています。また、記載されている投与量は、その薬剤が販売開始した数十年前の実験結果に基づいたものであり、現在では、駆虫効果は下がっていると考えるのが自然です。そもそも、駆虫をした馬であっても、次の日から、また環境中の虫卵を体内に取り込んでしまう事に変わりは無いので、体内の虫を駆虫剤で100%死滅させる意味は無いことになります。



間違い その6:駆虫剤は毎年、違った種類を飲ませるべき

これも前述の間違いに近い考え方であり、ある種類の駆虫剤を飲ませることで、そのクスリが効く寄生虫は全滅するので、翌年は違う種類の駆虫剤を飲ませて、一つ目のクスリが効かなかった寄生虫を死滅させる、という論理です。しかしながら、上述の項にもある通り、どんな駆虫剤であっても、耐性を持っている寄生虫は生き残ります。ですので、毎年、違う種類の駆虫剤を使えば、いつかは体内の寄生虫が根絶される、という事はあり得ないことになります。

ただ、現在でも、複数のタイプの駆虫剤をローテーションで投与することで、耐性寄生虫の出現を抑制するという方針は推奨されています。具体的には、たとえば、当歳馬の駆虫プログラムとしては、二ヶ月の間隔で、イベルメクチン→フェンベンダゾール→ピランテルという順序で投与して、条虫駆除のためのプラジクアンテルを年一回(秋季)に投与するという方針が示されています。



間違い その7:駆虫剤だけでなく“ナチュラル”成分の駆虫サプリを使うべき

この俗説は、近年の馬業界のマーケットに、駆虫効果を謳ったサプリメントが市販されているため、クスリだけに頼るのではなく、そのような自然な成分(珪藻やハーブ等)を含むサプリで駆虫をした方が、馬の健康に優しいという考え方です。これもまったくの無意味であり、サプリメントの飼料添加によって、馬の寄生虫の感染を制御できるという科学的エビデンスはありません。また、野生の馬にも寄生虫はいますので、“自然な成分”が寄生虫に効くという発想もナンセンスです。



馬の駆虫に関して重要なこと

前述のとおり、近年の馬飼養環境においては、駆虫剤に耐性を持つ寄生虫も増加しており、そのような耐性寄生虫がドンドン増加してしまう事も懸念されています。そこで、耐性寄生虫の割合を減らすために、薬剤感受性が高い寄生虫(=駆虫剤が効く寄生虫)を、ワザと一定割合だけ生存させておくいう、「ターゲテッド・ワーミング・プログラム(Targeted worming program)」も推奨されています。

言い換えると、私たちは、健康被害を起こさない程度に寄生虫を減らすことに取り組むべきであり、いま有効な駆虫剤を使い過ぎるのは出来るだけ避ける、という意識が大切です。私たちの目指すのは、馬の寄生虫をゼロにする事ではなく、馬に起こる寄生虫病のリスクをゼロに近づける事である、という理解が大切ではないでしょうか。

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