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ヘンダーソン去勢の利点と欠点

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ヘンダーソン去勢にも利点と欠点がありますので、その両方を理解しておきましょう。

馬の去勢の方法には、大きく分けて挫滅法と捻転法の2種類があり、古典的には、挫滅法が一般的に実施されてきました(結紮法を併用する場合もあり)。一方、近年では、成牛の去勢で多く実施されてきたヘンダーソン式の捻転法が、器具を少し改良(組織把持する部分の幅を長めにした器具)することで、馬の去勢にも応用されるようになっています。ここでは、ヘンダーソン去勢の手技やコツ、および、利点と欠点についてまとめてみます。

参考文献:
Alycia Crandall, Klaus Hopster, Annie Grove, David Levine. Intratesticular mepivacaine versus lidocaine in anaesthetised horses undergoing Henderson castration. Equine Vet J. 2020; 52(6): 805-810.
S Hinton, O Schroeder, H W Aceto, S Berkowitz, D Levine. Prevalence of complications associated with use of the Henderson equine castrating instrument. Equine Vet J. 2019; 51(2): 163-166.
Julien Racine, Beatriz Vidondo, Alessandra Ramseyer, Christoph Koch. Complications associated with closed castration using the Henderson equine castration instrument in 300 standing equids. Vet Surg. 2019; 48(1): 21-28.



ヘンダーソン去勢の手法

ヘンダーソン去勢は、全身麻酔下または起立位のいずれでも施術可能です。適切な麻酔や鎮静を施した後、陰嚢皮膚を消毒(必要であれば局所麻酔も実施)してから切開します。精巣を総鞘膜に包まれた状態で、タオル鉗子で掴んで引き出し、周囲組織を剥離した後、総鞘膜ごしに精索をヘンダーソン去勢用の把持器具で挟んで、それをドリル機器に連結します。ドリルの電源を入れて、最初の4~5回転は緩やかに回転させることが重要で、その際、精巣を引っ張り過ぎないように注意します(精巣の動きにドリルの方を付いていかせるように保持する)。その後、徐々にドリルの回転数を上げていき、通常、20~25回転で精索と総鞘膜は捻じり切れるので、断端から出血していない事を確認してから、反対側の精巣を同じように切除します。

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参考動画:
YouTube: The Henderson Tool - The Equine Castration Revolution.

機器の販売元リンク:
Henderson Castrating Tool. Nasco Education, Veterinary Supplies.
Henderson Castrating Tool-Equine. Heritage Animal Health
捻転式去勢器243式。富士平工業株式会社(畜産関連商品)



ヘンダーソン去勢の利点

馬におけるヘンダーソン去勢の利点としては、創部の出血および術後の腫脹が少なく、短時間で実施可能であることが挙げられます。この要因としては、挫滅式の去勢(開放式手法)に比較して、ヘンダーソン去勢は総鞘膜を切開せずに施術できる(閉鎖式手法)ため、挫滅式で見られる総鞘膜の切開端から出血が起こりにくいことが挙げられます。また、挫滅式に比べて、精巣周囲組織を切開や剥離する作業が少なくて済むことが、術後の腫れが小さくなる要因だと推測されています。さらに、ヘンダーソン去勢用の把持器具は、閉じる時にあまり握力が要らないので、女性の獣医師でも実施しやすい、というのもメリットかもしれません(挫滅式の去勢器具を閉じるには相当の握力が要ることもある)。

一般的に、去勢の合併症で一番怖いのは、鼠経ヘルニアからの脱腸(小腸などが鼠経管を通って体外に飛び出してしまうこと)であると言えます。しかし、ヘンダーソン去勢では、精索の周辺に総鞘膜が巻き付くようにして捻じり切れるので、精巣動静脈からの出血が少ないことに加えて、腹膜の連続である総鞘膜が閉鎖されているため、大網や小腸などの腹腔臓器が逸脱するリスクが少なくなるというメリットがあります。また、挫滅式の去勢に比べて、器具で精索を挟む前に、精巣を体外へと引っ張り出す度合いが少なくて済むので、腹腔内構造物を内鼠経輪の付近へと引き寄せてしまう危険性が少ないのも利点だと言えます。



ヘンダーソン去勢の欠点

馬におけるヘンダーソン去勢にも、幾つかの欠点が指摘されています。術中に発生する問題としては、精索と総鞘膜が捻じり切られる前に千切れてしまって、断端からの出血が起こってしまう危険性があります。これは、ドリル回転させている最中に、精索と総鞘膜を引っ張り過ぎてしまう事に起因すると言われています。幸いにも、その断端が鼠経管の内部に引き込まれてしまう事は稀で、速やかに出血箇所を特定して、挫滅や結紮などの止血処置を行ないます。また、過去の文献では、ヘンダーソン去勢の際に、精巣内にメピバカインを注射すると、優れた精巣挙筋の弛緩が起こることが報告されていますので、このような筋弛緩を施すことで、精索と総鞘膜が千切れてしまう危険性を減らせると考えられます。

一方、ヘンダーソン去勢は、ロバには適さないことが報告されており、その理由は、ロバの精索や肉様膜は、馬よりも太いからであると言われています。実際、ヘンダーソン去勢後に合併症を起こすリスクは、四歳以上の馬のほうが、三歳以下の馬に比較して、3倍近くも高かったという知見が示されています。そう考えると、体格の大きい馬や、四歳以上になってから去勢する馬において、精索や肉様膜が通常の個体よりも太いと思われる場合には、他の手法(挫滅+結紮など)を選択するのが無難だと言えます。

もう一つの欠点としては、万が一、ドリル機器が故障したり、バッテリー切れしてしまった場合には去勢が完了できない、という可能性があります。ですので、施術の際には、予備のバッテリー又はコード式のドリル機器を準備しておくのが望ましいと言えます。ドリル機器を使わずに、手で回すような器具もありますが、回転が一定しなかったり、トルクが不足するなどの点がデメリットになるかもしれません。



ヘンダーソン去勢で重要なこと

ヘンダーソン去勢も含め、馬の去勢法には100%完璧な術式は存在しませんので、長所と短所をシッカリ理解して手技を選択すると同時に、術中に問題が発生した時にどう対処するかの準備および心積もりをしておくのが大切だと言えます。また、去勢の一番の目的は、安全かつ確実に精巣を切除することであり、術式よりも術者の熟練のほうが重要ですので、挫滅式の去勢法に慣れていて、正確かつ迅速に施術できるのであれば、無理に捻転式に変更する必要はないのだと思います。

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