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馬の文献:喉嚢蓄膿症(Judy et al. 1999)

「馬の喉嚢(耳管憩室)の蓄膿症:1977~1997年の91症例」
Judy CE, Chaffin MK, Cohen ND. Empyema of the guttural pouch (auditory tube diverticulum) in horses: 91 cases (1977-1997). J Am Vet Med Assoc. 1999; 215(11): 1666-1670.

この研究論文では、馬の喉嚢蓄膿症(Guttural pouch empyema)に対する有用な治療法を検討するため、1977~1997年にかけて、喉嚢蓄膿症の診断が下された91頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

この研究では、91頭の患馬に見られた臨床症状(Clinical signs)としては、鼻汁排出(Nasal discharge)が77%と最も多く、次いで、咳嗽(Coughing)が37%、発熱(Fever)が17%、咽頭後腫脹(Retropharyngeal swelling)が17%、食欲不振(Anorexia)が17%、呼吸器雑音(Respiratory noise)が15%、抑鬱(Depression)が14%、呼吸困難(Dyspnea)が12%、嚥下困難(Dysphagia)が11%、肺炎(Pneumonia)が9%、等となっていました。そして、内視鏡検査において、喉嚢内の膿貯留(Pus accumulation)が認められた馬は64%で、喉嚢の開口部からの排膿が認められた馬は56%でした。また、レントゲン検査(Radiography)において、喉嚢内の水平液体線(Horizontal fluid line)が認められた馬は83%、咽頭後腫脹が認められた馬は40%、および、類軟骨(Chondroids)が発見できた馬は13%であった事が報告されています。

この研究では、喉嚢からの浸出液(Exudate from guttural pouch)および拭取り検体(Swab samples)の微生物学検査(Microbiological examination)では、96%が細菌培養(Bacterial culture)に陽性を示し、82%においてストレプトコッカス属菌が分離されました。一方、細菌培養が可能であった症例における、抗生物質感受性(Anti-microbial susceptibility)の試験結果としては、Amoxicillin、Chloramphenicil、Cephalothin、Ceftiofur、Erythromycin、Methucillin、Rifampinなどが良好な感受性(93~100%)を示し、Ampicillin、Penicillin、Gentamicin、Tetracyclineなどが中程度の感受性(62~83%)を示したものの、Kanamycin、Sulfadimethoxine、Trimethiprim-Sulfamethoxazoieなどは低い感受性(11~32%)を示していました。

この研究では、91頭の患馬に対する治療としては、喉嚢洗浄が行われた馬は85%(77/91頭)で、このうち、抗生物質や消毒剤を含んだ洗浄液(Lavage solution containing anti-microbial or anti-septics)が使われた症例は61%でした。また、外科的処置(Surgical intervention)が行われた馬は17%(15/91頭)で、この術式としては、ホワイトハウス変法(Modified Whitehouse approach)が九頭と最も多く、その他には、ヴァイボーグ三角域(Viborg’s triangle region)の切開およびホワイトハウス法なども応用されました。

この研究では、喉嚢内に類軟骨が形成されていた馬は21%で、これらの症例のうち、内視鏡検査で類軟骨が発見された馬は36%、レントゲン検査で類軟骨が発見された馬は36%でした。また、類軟骨が形成されていた症例においては、そうでなかった馬に比べて、喉嚢腫脹(Guttural pouch swelling)もしくは咽頭後腫脹(Retro-pharyngeal swelling)の症状を示していたり、内視鏡下で咽頭狭窄化(Pharyngeal narrowing under endoscope)が認められた馬の割合が、有意に高かった事が示されました。

この研究の治療成績としては、退院した馬は93%(85/91頭)で、このうち、病態が完治した馬は66%、病態が改善したものの完治しなかった馬は19%、病態の改善が見られなかった馬は15%でした。また、退院した馬のうち、症状の再発(Recurrence)または悪化(Exacerbation)によって、再入院した馬は22%に上っていました。また、喉嚢内に類軟骨が形成されていた18頭の患馬のうち、類軟骨の除去が達成された馬は89%(16/18頭)でしたが、類軟骨の除去のために手術を要した馬は56%で、手術を要しなかった馬は44%でした。しかし、類軟骨が形成されていた症例郡と、形成されていなかった症例郡のあいだで、病態が完治した馬の割合、病態が改善した馬の割合は、いずれも有意差が無かったことが報告されています。

この研究では、馬の喉嚢蓄膿症に対する治療では、内視鏡を介した喉嚢洗浄を第一の治療指針(Primary choice of treatment)とするべきであると推奨されており、外科的療法を選択するべきなのは、瘢痕形成(Scar formation)のために喉嚢開口部からのアプローチが不可能な場合や、長期間にわたる喉嚢洗浄によっても貯留物や類軟骨が排出できない場合に限定されるべきである、という提唱がなされています。また、内視鏡下において、ワイヤー製器具を用いて類軟骨を切砕したり掴み出したりする手法を試みることで(Seahorn and Schumacher. JAVMA. 1991;199:368, Adkins et al. Aust Vet J. 1997;75:332)、外科的侵襲(Surgical invasion)が大きく全身麻酔(General anesthesia)を要する手術の適応を出来るだけ避けるように努めることが望ましい、という考察がなされています。

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