fc2ブログ
RSS

ブラシ掛けが嫌いな馬

20220722_Blog_HC016_HateBeGroomed_Pict1.jpg

ブラシ掛けが嫌いな馬に、どう対処すべきかと悩んでいるホースマンもいらっしゃるかもしれません。

馬はブラシ掛けによる皮膚のケアが重要な動物です。馬は他の家畜と異なり、騎乗運動することで発汗をする上、体毛が短い状態で飼養されることが多いという特徴があります。このため、皮膚や体毛を清潔に保つことは、馬の飼養管理にとって大事な一要素であると言えます。しかし、馬によっては、体をブラシ掛けされるのを顕著に嫌がる個体もあり、暴れたり咬み付いたりしてホースマンに危険を生じたり、壁を蹴って馬自身が怪我をしてしまう可能性もあります。そのような馬に対しては、ブラシ掛けを嫌悪する理由を探り、それに応じた対処を取ってあげるのが良いと言われています。

参考資料:
Elizabeth Moyer. Tips for When a Horse Hates Being Groomed. Horse Illustrated, Horse Care, Horse Health, Apr2, 2022.



馬の健康上の問題

馬がブラシ掛けを嫌がる要因として、馬体のどこかに痛みを持っていないかを精査してあげるのが良策です。特に、今まで平気だったのに、急に馬がブラシ掛けを嫌悪した場合には、健康上の可能性がありえます。大事なポイントは、ブラシが接触する箇所に痛みがある場合だけでなく、馬体の他の部位に疼痛を持っている馬でも、ブラシ掛けに対する嫌悪行動を示すことがあるという点です。ですので、獣医師による健康診断や精密検査を受けて、健康上の問題を精査することが推奨されます。

具体的には、ブラシが触れる背部や腰臀部の筋肉痛はもちろん、歯が痛かったり、胃潰瘍で胸ヤケのような鈍痛を感じている場合にも、馬がナーバスになり、ブラシ掛けを嫌がる行動を取ることが知られています。また、馬によっては、細菌性や真菌性の皮膚炎、シラミやダニによる痒み、牝馬の生殖器疾患、末梢の神経痛などのケースでも、ブラシ掛けを嫌悪するようになるとも言われています。



20220722_Blog_HC016_HateBeGroomed_Pict2.jpg

使用しているブラシの問題

馬の皮膚は非常に敏感であり、馬体のどの箇所をどのように触れることで、不快感や違和感を感じるかにも個体差があります。ですので、ブラシ掛けのときに暴れる馬というのは、単に、肌触りの異なるブラシに変更するだけで解決する場合もあります。ゴム製の固いブラシを好む馬もいれば、プラスチック製の細い毛先のブラシでないと不快に感じる馬もいるかもしれません。ですので、色々な種類のブラシを試用してみて、馬の反応や表情を観察してみるのが良いと思われます。一般的には、一本一本のブラシの線維が長くて柔らかいほうが、嫌がる馬は少ないと言われています。



ブラシの掛け方の問題

馬によっては、ブラシを皮膚に走らせる強さに関しても、好みに多様性があります。軽い力で優しくブラシを動かした方が良いという馬が多い反面、皮膚が敏感な馬では、むしろ少し強めの力でブラシを押し当てながら使ったほうが、くすぐったさを感じないという場合もありえます。一方、私たちがブラシ掛けする時には、頚部→胸部→腹部→臀部という順番で手入れをしていく事が一般的です。しかし、皮膚が敏感な馬では、筋肉の厚い臀部のほうが不快感は少ない可能性もありますので、試しに逆の順序でブラシ掛けしてみるのも一案です。動物行動学的には、いきなり顔の近くを触られることで、自分のパーソナルスペースに侵入されたと感じて、神経質になる馬もいると言われています。



20220722_Blog_HC016_HateBeGroomed_Pict3.jpg

ブラシ掛けをする場所の問題

馬の性格によっては、手入れを行なう場所を変えるだけで、ブラシ掛けをあまり嫌がらなくなる可能性もあります。馬という動物は、優れた連想学習者(Associative learners)であることが知られており、過去に好ましくない記憶がある場所やシチュエーションでは、極度に不安や不機嫌になるケースもあります。ですので、ブラシ掛けを嫌がる馬では、一般的な手入れ場所(蹄洗場など)ではなく、たとえば、馬房や放牧場、厩舎の通路など、様々な場所でブラシ掛けをしてみて、馬が安心して手入れ作業を受け入れてくれるシチュエーションがないかを探してみるのも良いのかもしれません。



スイートスポットを探してあげる

ブラシ掛けが嫌いな馬に対しては、馬が触られて喜ぶスイートスポットを見つけて、そこを最初に手入れし始めたり、そこを多めにブラシ掛けする、というのも良策です。たとえば、放牧地で馬同士がグルーミングする際には、お互いのキ甲の辺りを触り合うことが知られていますし、そのような行動が、愛情関係を構築するプロセス(Relationship-building process)になると言われています。勿論、そのような触られて喜ぶ部位は、此処の馬によって異なるかもしれません。しかし、スイートスポットを見つけてあげられれば、手入れやブラシ掛けを、馬体の汚れを取るだけの退屈な時間ではなく、馬にとってもエンジョイできる遊戯の時間に変えてあげることが出来る筈です。

20220722_Blog_HC016_HateBeGroomed_Pict4.jpg



ブラシ掛けを嫌がる馬に関して重要なこと

馬がブラシ掛けを嫌がって暴れたり反抗すれば、気性や性格が悪くなったり、ホースマンとの信頼関係が損なわれて、ついには、競技能力やパフォーマンスの低下にも繋がりかねません。そう考えると、快適なブラシ掛けの環境や方法を工夫してあげる事は、騎乗して馬を調教するのと同じくらい重要ですし、そうすることが、馬に対するホースマンの愛情ではないでしょうか。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.

関連記事:
・馬の退屈さを無くす6つの対策
・乾草を浸して食べる馬
・馬の行動と腸内細菌叢の関連性
・馬の旋回癖への対処法
・馬装で不機嫌になる馬
・馬のボロ食いを止めさせる7つの対策
・牝馬のフケ対策
関連記事
このエントリーのタグ: 飼養管理 動物学 厩舎管理 行動学 皮膚病

プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: アラフィフ
住所: 北関東
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

質問、御意見、記事の要望等は下記まで
E-mail: rowdyponies@gmail.com

最新記事

ブログメニュー

馬の話題カテゴリー

馬の病気の話題
・蹄葉炎, 切腱術
・ナビキュラー症候群
・蹄病一般, 装蹄
・腱靭帯疾患
・背部/腰部/仙腸部疾患
・プアパフォーマンス
・消化器疾患一般
・胃潰瘍
・虚血再灌流障害
・呼吸器の医療
・神経疾患, 神経学検査
・クッシング病
・繁殖疾患と繁殖学
・皮膚病の医療
・眼科疾患, 眼科治療
・歯科疾患, 歯科治療
・寄生虫病
・高齢馬の医療
・子馬の病気や管理法
・子馬/若齢馬の長期的影響
・突然死
・症例シリーズ

馬の医療の話題
・疝痛の検査
・経鼻チューブ
・腹水検査
・疝痛の予防
・疝痛の手術判断と予後予測
・開腹術の手技や合併症
・疝痛の外科的処置
・疝痛の獣医療での地域差
・跛行検査, 画像診断
・関節鏡
・去勢, 泌尿生殖器
・抗生物質
・局所肢灌流
・COX-2限定阻害薬
・破骨細胞抑制剤
・ショックウェーブ
・パーグ治療
・馬のハンドリング, 投薬
・バイオマーカー
・麻酔
・整形外科
・キャスト, ピンキャスト
・再生医療
・先端医療
・良い死(Euthanasia)
・馬の獣医療一般

馬の一般的話題
・馬の飼養管理一般
・飼養管理での病気/怪我の予防
・馬学一般
・ウマ社会の話題
・獣医学一般, 日常
・馬の飼料
・跛行と運動
・調馬索
・サク癖
・馬の行動学や悪癖
・ハミや馬具
・輸送
・怪我や事故の予防,対処法
・ホースマンの怪我と事故
・競馬での事故死や骨折
・馬とヒト, 伝染病, 馬動物学

馬の診療シリーズ

サイト内タグ一覧

FC2カウンター

リンク

カレンダー

03 | 2024/04 | 05
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -

推薦図書

月別アーカイブ

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

カテゴリ

全記事表示リンク

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
27位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
2位
アクセスランキングを見る>>

FC2ブログランキング

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

検索フォーム

QRコード

QR