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馬の肢の冷やし方

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馬の肢はどうやって冷やすのが一番良いのか?という質問は、多くのホースマンが持たれているようです。

馬の運動器疾患には、多種類の組織の損傷が含まれますが(筋肉、骨、関節、腱、靭帯、蹄など)、急性期には冷却療法、慢性期には温熱療法を行なうことが基本となります。このうち冷却療法は、特に損傷発生後の24~72時間では重要であり、罹患部を冷やして血流を減らすことで、痛みや腫れを抑えると同時に、炎症メディエイターの生成を減らして、退行反応に関連する酵素の活性を低下させることで、組織の分解や変性を抑制する作用が期待されます。

参考資料:
Lydia Gray. Hot or Cold? The Methodology Behind Heat and Ice Therapy Explained. Horse Illustrated, Horse Care, Dec22, 2016.
Katie Navarra. Which Cryotherapy Method Works Best for Cooling Hooves? The Horse, Topics, Hoof Care, Jan18, 2015.



流水で冷やす方法

馬の肢を冷やす方法として、まず、水をかける方法が挙げられます。この場合、用手にてホースで流水をかけたり(写真A)、コイル状のチューブを肢に巻き付けて水を流す方法もあります(写真B,C)。流水で冷やす方法は、古典的ではありますが、馬の肢端の温度を素早く下げる手段としては、最も優れた方法になります。この場合、皮膚表面を流水が走っていく事によって、連続的に組織内の熱を奪うことが可能であり、また、解剖学的に言って、馬の遠位肢には筋肉組織が殆どないため、体表に流水が触れるだけでも相当の冷却効果を得ることが出来ます。

馬の肢を流水で冷やす場合には、通常、20分間の水冷を一日3~4回は実施することが推奨されており、重篤な病態では、20分間の水冷を3時間おきに行なうこともあります。この際には、キチンと体毛のあいだを水が通過するよう、肢に付着した砂や汚れを水洗した後に水冷を開始するのが望ましいと言われています。また、コイル状のチューブを巻くときには、冷却したい箇所の表面を流水が走っていることを確認し、もし、水が跳ねてしまう場合にはタオルを一緒に巻くと効果的です。なお、これらの原則は、温熱療法のために、肢に温水をかける際も同様です。

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写真B:二肢用スパイラルレッグクーラー
写真C:JackS Leg Soakers

馬の肢に水をかける位置は、冷却したい箇所よりも関節2個分ほど近位側にすることが推奨されます。たとえば、球節や管部の腱・靭帯を冷やしたい場合には、管部そのものではなく、肘の辺りから水をかけるようにします。そうすることで、前腕部にある太い動脈にも流水がかかり、管部に流れていく血液も同時に冷やされますので、皮膚表面からだけでなく、深部からの冷却作用を付与することが可能となります。同様に、もし、蹄や繋ぎを冷やしたい時は、前膝のすぐ上から水をかける事になります。

また、近年では、肢に直接的に水をかけるのではなく、バンテージの中を冷水が還流するシステムも開発されています(写真D,E)。この場合、冷やした水に圧をかけて送り出す装置が用いられ、その装置とバンテージをホースで繋ぐことで、持続的に冷水を還流させることができます。この手法は、機器は高価であるものの、長時間にわたる冷却療法が実施可能で、濡れた肢を乾かす手間も不要になるというメリットがあります。

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写真D:Ice Horse System, Continuous Flow Cold Water Therapy
写真E:Horse Hot And Cold Therapy Stable Unit by ZAMAR



アイスパックで冷やす方法

馬の肢を冷やす方法としては、アイスパックを巻くのも有効です(写真F,G,H)。この場合、冷凍庫で凍らせたアイスパックを、専用バンテージの内側にある布製ポケットに入れて、冷やしたい箇所に巻き付けます。流水と異なり、何時間も連続で冷却することが可能であり、馬房の中でも実施でき、かつ、濡れた肢を乾かす手間が要らないという利点があります。しかし、アイスパックは最初の一時間以内に冷たさを失ってしまい、漸減性に冷却効果が落ちてしまう、という欠点もあります。このため、もし可能であれば、2~3時間おきにアイスパックを交換することが推奨されています。

アイスパックによる冷却療法では、様々な形状や大きさの専用バンテージが市販されていますが、いずれも、アイスパックと皮膚が密着しなければ、冷却効果は不十分になります。このため、使用するアイスパックは、柔軟性があるほうが好ましいと言えます。また、アイスパックとの密着性の点から、肢が窪んでいる箇所(管部や繋ぎ)のほうが、関節の真上を冷やす場合(球節、腕節、飛節)よりも冷却効果は上がりやすくなります。なお、密着させようとして、バンテージを強く巻きすぎると、腱組織が圧迫性に腫れてしまうので注意が必要です。

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写真F:膝/管骨/球節部位用ファーストアイスセット
写真G:Hose Ice Pack Cooling Leg Wraps for Ankle
写真H:World-BIO Ice Pack Cooling Wrap for Horse



蹄を冷却させる方法

馬の蹄に対する冷却療法は、蹄葉炎の初期病態に対する内科治療として有効であり、蹄組織を“冬眠”状態におくことで、蹄葉組織を変性・分解させる酵素活性を低下させ、蹄骨の遊離や変位を防げることが知られています。通常は、重度疝痛や胸膜炎、胎盤停滞などで生じる全身性炎症反応症候群から、蹄葉炎が続発するのを予防するために実施されます。また、挫跖(蹄底血腫)においても、蹄の冷却療法が有効な場合もありますが、蹄底膿瘍に進行した場合には、蹄の温熱療法に変更されることが一般的です。

蹄葉炎の予防に際しては、蹄の温度を5~10℃まで下げた状態を、48~72時間続けることが必要であるため、前述の流水やアイスパックによる手法では、冷却効果が不十分だと考えられます。このため、蹄の冷却療法では、プラスチック製の袋(補液バッグ等)に氷を詰めて、それに水を加えて馬に履かせる手法が取られており(写真I)、この氷水のバッグは、3~4時間おきに交換されます。一方、挫跖に対しては、アイスパックを蹄冷却用ブーツのなかに入れて、罹患蹄に装着させる方法が取られることもあります(写真J,K)。

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写真J:メディカル ビニール クーラーセット
写真K:Horse Hoof Wrapped Soaking Boots



馬の肢を冷却するときに重要なこと

馬の肢に起こる多くの運動器疾患では、初期段階で管部の炎症反応を緩和することで、病態悪化を防ぐことが出来ることが多いため、適切な手法を選択して、十分な冷却療法を実施することが重要です。このため、馬の飼養管理者は、毎日必ず馬の肢を丁寧に触って、その馬の正常な皮膚温度を熟知しておき、僅かな熱感や腫脹を見逃さないように努め、また、冷却療法によって、うまく罹患部が冷えているかの判断を下せるようにしておく事が大切です。馬の肢が熱を持つことは、最も初期に見られる病気のサインですので、跛行を呈するより前に、異常を早期発見する上で非常に重要になってきます。

なお、近年では、馬を特殊チェンバーの中に立たせて、マイナス100℃の液体窒素ガスを吹き付けることで、全身を冷却する装置も使用され始めています(写真L,M)。このシステムでは、四肢全体を短時間で冷却できる利点はありますが、同時に体躯の筋肉群も冷却されて、血流低下を起こすことなりますので、筋疲労を誘発するなどの副作用が懸念されるかもしれません。今後の研究によって、全身冷却による効能と弊害を科学的に評価することが必要だと言えます。

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写真L:Extreme Cold Cryotherapy to Treat Racehorses
写真M:動物用冷却療法病院用可動ユニットCRYO JUMP

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