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背弯した高齢馬は乗っても大丈夫?

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背弯姿勢になった高齢の馬は、騎乗しても問題ないのでしょうか。

背弯とは、胸椎から腰椎までの背骨が下方に沈み、馬の背中がUの字に弯曲した馬体の状態を指します。英語では、スウェイバックまたはロードシスと呼ばれ、通常、高齢馬によく見られますが、若齢馬に起こることもあり、発生率は約1%になることが知られています。ホースマンにとっては、自らが座る位置である背中が凹んでいるため、騎乗することへの不安を持つことが多いですが、正しく管理すれば、普通の馬と同じように騎乗使役できることが知られています。

参考資料:
Kim H. Swayback Horses: Ride or Retire? It Depends. HorseRookie, Horse Care, Riding Tips, Jul2, 2022.
Five Ways to Strengthen a Swayback Horse. BeneFab, Horse Health and Wellness, Oct9, 2014.



馬が背弯する理由と運動メニュー

一般的に、背弯した馬であっても、普通どおりの生活を送ることが出来ますし、騎乗したり、競技会に参加したり、また、子馬を産むことも問題ありません。馬が背弯姿勢になる理由としては、背部と腹部の筋肉が弱くなること、および、椎骨周囲の靭帯が弛緩することが挙げられます。通常、背弯であることだけで、馬が痛みを感じることはありませんが、体躯の筋肉量が少ない分、休養時期を置いた後に騎乗された場合には、筋肉痛になり易いと言われています。

このため、背弯姿勢になった馬は、むしろ規則正しく運動させて、筋力低下を防ぐことが大切であると言えます。背部や腹部の筋肉を鍛え、背骨の靭帯を安定化させる運動メニューとしては、①調馬索によって背中とお腹の筋肉を使いながら馬体を弾ませる動きを促すこと、②人参ストレッチによってこれらの筋肉の柔軟性を保つこと、③地上横木またはキャバレティを通過させることで後肢の踏み込みを促進させること、④ソリを曳かせる運動(Ground driving)をさせること、などが挙げられています。また、休馬日でも、完休や放牧で済ませず、短時間の曳き馬や常歩運動を課すことで、筋力低下の防止に努めることが有用です。



背弯した馬に乗るときに気をつけること

背弯姿勢は、体躯の運動器疾患から二次的に起こることもあるので、この姿勢の馬は、定期的に獣医師の検査を受けて、健康状態に問題が無いかをチェックしましょう。背弯している馬においては、筋挫傷や椎骨周囲の靭帯損傷のみならず、骨の疾患(棘突起衝突など)を起こしている場合もありえます。もし、背部に疾患を患っていることが判明したケースでは、前述の運動メニューのうち、特に①と④を積極的に行なうことで、騎乗することなく(背中に荷重を加えることなく)、筋力強化を図ることが推奨されています。

また、背弯した馬に騎乗するときには、鞍が正しく装着されている事が重要になってきます。一般的に、背弯した馬の背中に鞍をのせると、鞍が低い方へと滑り落ちてしまいますので、適度なサイズや厚みのパッドを鞍の下に挿入することで、均等した荷重が鞍から馬の背中に作用するように努めます。また、背弯の結果、相対的にキ甲が高くなって鞍傷を生じる可能性もありますので、鞍の前部がキ甲に当たらないようなパッド挿入、または、鞍そのものの変更を検討しましょう。

そして、背弯した馬においては、背弯姿勢の更なる悪化を招かないよう、不必要な体重増加に気をつけながら、筋量低下を起こさないような栄養管理を行なうことが大切です。基本的には、蛋白質含有量の高い粗飼料(アルファルファ等)、および、良質のアミノ酸を摂取できる濃厚飼料を与え、高齢な馬に適合した成分のサプリメントを併用することも有効です。また、クッシング病などの代謝性疾患によっても、背弯姿勢が進行することもあるので、獣医師による健康チェックで除外診断しておきましょう。



背弯した馬に関して重要なこと

幸いにも、背弯姿勢だけで馬の命取りになることは、通常ありません。規則正しい運動と定期的な健康診断、体型に適合した馬装、および、適切な飼養管理によって、背弯姿勢を上手にマネージメントしていけば、通常の姿勢の馬と変わりない、素晴らしいホースマンライフを送ることが出来ます。

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