馬の文献:喉嚢蓄膿症(Smyth et al. 1999)
文献 - 2022年07月28日 (木)

「蓄膿症から続発した喉嚢外側区画の原発性膨満」
Smyth DA, Baptiste KE, Cruz AM, Naylor JM. Primary distension of the guttural pouch lateral compartment secondary to empyema. Can Vet J. 1999; 40(11): 802-804.
この研究論文では、喉嚢蓄膿症(Guttural pouch empyema)に起因して、喉嚢外側区画(Lateral compartment of guttural pouch)の原発性膨満(Primary distension)を呈した馬の一症例が報告されています。
患馬は、六歳齢のクォーターホース去勢馬(Gelding)で、二ヶ月にわたる鼻汁排出(Nasal discharge)、嚥下困難(Difficulty Swallowing)、呼吸困難の発症歴(Episodes of dyspnea)、運動時の呼吸器雑音(Respiratory noise during exercise)の病歴で来院しました。診断としては、レントゲン検査(Radiography)において、喉嚢から背側鼻咽頭領域へと連続する多量の不透明物質(Large amount of opaque material dorsal to the nasopharynx and continuous with the right guttural pouch)が認められ、また、内視鏡検査(Endoscopy)において、鼻咽頭域の背外側からの圧潰(Dorso-lateral compression of nasopharyngeal area)が示されましたが、右側喉嚢への内視鏡挿入は出来ず、左側喉嚢内には三~四個の類軟骨(Chondroids)が発見されました。
治療としては、内視鏡下で喉嚢内に挿入した留置カテーテル(Indwelling catheter)を介した喉嚢洗浄(Guttural pouch lavage)が試みられましたが、類軟骨は完全には排出されなかったため、全身麻酔下(Under general anesthesia)での外科的療法が選択されました。手術では、ホワイトハウス変法(Modified Whitehouse approach)によって右側喉嚢の内側区画床部(Floor of the medial compartment of the right guttural pouch)へとアプローチされた後、大量の粘液膿性浸出物(Mucopurulent exudate)と類軟骨が除去されました。その後、内側区画粘膜の重度の炎症および肥厚化(Severe inflammation and thickening)のため、外側区画への進入は困難であったため、そのまま切開創が縫合閉鎖され、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)されました。
しかし、手術翌日の内視鏡検査では、鼻咽頭領域の圧潰は改善されていなかったため、患馬には再び全身麻酔が導入され、今度は環椎翼(Wing of atlas)の頭側を切開するアプローチ法(いわゆる鼻骨椎骨部切開術:“Hyovertebrotomy”)を介して外側区画へと到達されました。そして、ホワイトハウス変法の切開創から挿入したカテーテルを通して洗浄液を注入することで、Hyovertebrotomy の切開創から1-kgに及ぶ濃縮された膿(Inspissated pus)および類軟骨が排出されました。術後の内視鏡検査では、右側喉嚢の外側区画が内側区画よりも大きく膨張している所見が確認され、残存していた粘液膿性浸出液および類軟骨がアリゲーター鉗子で除去されました。患馬は、五日間にわたる喉嚢洗浄の後、無事に退院し、その後は症状の再発(Recurrence of clinical signs)を示すことなく、良好な予後を示した事が報告されています。
この研究の症例では、一般的な喉嚢蓄膿症の罹患馬と異なり、右側喉嚢の外側区画が主に罹患した結果、外観的な腫脹を示すことなく、膨満した外側区画が鼻咽頭領域を狭窄化することで、嚥下困難および呼吸困難に至るという、珍しい病態経過が認められました(なぜ、このような病態を呈したのかの理由は、考察されていない)。このため、罹患側の喉嚢では、内側区画から外側区画への連絡が遮断され、一度目の手術におけるホワイトハウス変法では、充分な外科的アプローチは困難であり、治療も奏功しておらず、二度目の手術におけるHyovertebrotomyによるアプローチを要しました。しかし、この二度目の手術の際には、外科的侵襲(Surgical invasion)が大きく、外頚動脈(External carotid artery)が医原性損傷(Iatrogenic damage)されて、多量の術中出血(Profuse intra-operative hemorrhage)を呈しており、脳神経(Cranial nerve)の損傷による致死的な神経症状(Fatal neurologic signs)を続発する危険性もある、という警鐘が鳴らされています。
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