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牝馬のフケ対策

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牝馬のフケには、頭を悩ませているホースマンも多いようです。

馬用語で言うところの「フケ」とは、発情が来ているメス馬が、アグレッシブな異常行動を取ることを指します。具体的には、不機嫌で怒りっぽくなる、他の馬に向かって大声でいななく、激しく尻尾を振り回す、ヒトの扶助に従わない、壁を蹴とばす、後肢の挙上を嫌がる、突発的に予測不能な行動を取る、などが挙げられます。

このため、ホースマンにとっては、馬の扱いや管理が難しくなるだけでなく、トレーニングに支障をきたしたり、競技能力の低下につながるなど、大きな悩みの種となりうる問題です。初心者が牝馬を扱うときには、怪我するリスクにつながる事さえあります。実は、フケ行動は、昔から馬とホースマンのあいだで持ち上がっていた、歴史の長い課題でもあります。ここでは、牝馬のフケにおける基本事項と対策をまとめてみます。

参考資料:
Heather Smith Thomas. Mares Behaving Badly: Is it Estrus or Something Else? The Horse, Topics, Mare Care, Apr16, 2019.
Alexandra Beckstett. Problematic Behavior in Nonpregnant Mares: Is it Reproduction-Related? The Horse, Topics, Mar2, 2019.
Ahmed Tibary. AAEP Veterinarians Discuss Estrus Suppression in Mares. AAEP Convention, Mare Care, Dec16, 2013.



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牝馬のフケに関する基本事項

馬は季節繁殖動物であり、牝馬は春や秋に繁殖活動を行なうために、五月から十月にかけて発情周期を示します。この周期は、7日間の発情期、および、14日間の発情休止期の繰り返しであり、通常は、牝馬が発情期に入っているときに、フケ行動が見られます。ですので、前述のようなアグレッシブな牝馬の行動が、21日間のサイクルで認められない、または、7日間以上連続している場合には、実はそれはフケではなく、他の問題に起因する可能性が出てきます。ですので、まずは、キチンと異常行動の頻度を記録して、周期性を確認することが大切です。

フケ行動に周期性があると判断された場合には、フケと発情周期の関係性を確かめるため、獣医師による身体検査やエコー検査を受けることが必要です。通常、発情期では、卵巣には卵胞が存在し、子宮は浮腫を呈して、子宮頚管が弛緩しているのに対して、発情休止期では、卵巣には黄体があり、子宮には浮腫がなく、子宮頚管は収縮しています。また、発情休止期の血液検査では、プロゲステロン濃度が上昇しています。このような生殖器の所見と、実際のフケ行動が一致している場合には、発情に起因したフケ行動であると判断されます。



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フケに類似した異常行動を示す原因

牝馬のフケに似た異常行動は、卵巣に腫瘍があるときにも認められます。顆粒膜細胞腫と呼ばれるこの腫瘍では、テストステロン等のホルモン分泌が亢進して、持続性発情および種牡馬様の行動を示すことが知られています。この病気は、エコー検査や血液検査で診断され、罹患したほうの卵巣を外科的摘出すれば、異常行動も消失します。その後は、6~9ヶ月は発情が来なくなりますが、長期的には、卵巣が一個しかなくても、子馬を産むには問題ありません。

牝馬のなかには、尿道炎や膀胱炎によって、フケに類似した異常行動を示す個体もあります。また、尿腟や気腟などの疾患でも、やはり陰部の不快感や違和感を起こすため、フケのような行動を示すことがあります。これらの病気は、生殖器の膣鏡検査や尿検査で診断され、抗生物質投与や外科的療法が行なわれた後、病気が治癒すれば、フケ行動も消失します。さらに、運動器の疼痛(跛行)や、排卵時の痛みによっても、フケ様の行動を示すこともあるので、獣医師の精密検査で、これらを除外診断することも大切です。



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牝馬のフケにおける対処法

牝馬のフケ行動が、発情周期によるものと判断された場合には、薬剤による発情コントロールが試みられる事もあります。通常は、アルトレノゲスト(商品名:レギュメイト)という発情抑制作用のある経口薬が30日間投与され、フケ行動の減退を確認することで、確定診断になります。アルトレノゲストは、フケ行動を抑えるには有効ですが、女性が触ると、皮膚から吸収されて、生理不順や流産を起こすので注意が必要です。また、英国では、レギュメイトに禁止薬物の成分が含まれていたため、競走馬への投与が禁止となっているため、この点にも注意が必要です。基本的に、牝馬の健常なホルモン動態を妨げるクスリであるため、持続的に投与されることはなく、フケ行動によって飼養管理が困難になるなど、止むを得ない状況においてのみ投与が選択されます。一方、オキシトシン筋注によって黄体遺残(偽妊娠状態)を誘導する手法も有効ですが、排卵後に筋注を開始するため、排卵日を特定する手間が掛かります。

また、手術で卵巣を摘出することで、牝馬のフケ行動を無くす治療法もありますが、卵巣摘出後も卵胞形成が続いてしまうという現象も確認されており、その治療効果には疑問符が付いています。何より、牝馬への外科的侵襲が生じるため、この手術を選択するのは、フケ行動によって馬のウェルフェアとホースマンの安全が深刻に脅かされた時に限定するべきだ、という提唱もなされています。施術に先立っては、卵巣機能が季節性に休止している1~2月に検査を行なって、異常行動の有無や卵巣のエコー所見によって、手術の有効性が精査されます。近年この手術は、起立位にて腹腔鏡で実施されることが多くなっています。

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他の手法としては、フケ行動を止めるワクチンも試用されており、発情周期に関与するホルモン(GnRH)への抗体を誘導する仕組みですが、安全性試験の問題で一部の国でしか認可されていません。また、牝馬の子宮内に、ピーナッツオイルやガラス球、ホルモン徐放器具などを挿入する古典的方法もありますが、効能が疑わしく副作用も多いので、現時点では推奨されていません。そして、フケ行動を和らげるサプリメントも市販されていますが(下記リンク)、効能には個体差が大きいと言われています。



牝馬のフケにおいて重要なこと

私たちが考えなければいけない事は、フケ行動は病気でも悪癖でもなく、正常なホルモン周期に起因する生理的現象であり、いたって自然かつ健康な発情行動のひとつである、という事実です。牝馬が発情しなければ、馬は子孫繁栄が出来ません。そう考えると、牝馬の発情をコントロールすること自体が、本当に馬のためになっているのか?という点は、もう一度、熟慮すべき問題なのかもしれません。

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