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馬の跛行検査3:蹄鉗子検査

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蹄鉗子検査(Hoof tester examination)について

蹄鉗子による蹄部の圧痛試験は、蹄疾患の診断のために重要な検査で、基線歩様検査(Baseline visual gait examination)で跛行のグレードを決定した後に行われます。実施に際して術者は、蹄を堅固に保持し過ぎて疼痛反応(Pain response)による肢の動きを妨げないように注意し、突然の圧迫で馬を驚かせないように、同一部位に弱→中→強のように数回にわたって圧迫を掛けることが大切です。場合によっては、跛行を示した肢の対側肢(Contralateral limb)の蹄から検査を始め、患馬の性格や気性による蹄鉗子への反応度合いを判定して、実際に生じた疼痛反応との見極めを行なうこともあります。



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蹄底面(Solar surface)の蹄鉗子検査では、蹄叉側溝(Lateral sulci)の掌側端(Sole angle)から検査を始め、蹄叉尖(Frog tip)に向かって背側方向へと圧迫を進めていく方法が一般的です(上記写真)。蹄鉗子による蹄底面の圧痛は、蹄底膿瘍(Subsolar abscess)(主に蹄底端において)、蹄葉炎(Laminitis)(主に蹄叉尖部において)、末節骨骨折(Distal phalanx fracture)、蹄骨炎(Pedal ostitis)などの症例において認められます。特に蹄底膿瘍において、軽度の疼痛反応が見られた場合には、圧痛部位の蹄底を数ミリ削切してから再び蹄鉗子検査を行うことで、正確な膿瘍発症部位を特定できる場合もありますが、効果的な排膿(Pass drainage)は隣接する白線部位の削切によって達成されることもあります。



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蹄叉部の蹄鉗子検査では、外側蹄壁(Lateral hoof wall)に向かって蹄叉内側面(Medial aspect of frog)の圧迫を行い、逆に、内側蹄壁(Medial hoof wall)に向かって蹄叉外側面(Lateral aspect of frog)の圧迫を行います(上記写真)。この際、蹄壁側の蹄鉗子端が蹄冠(Coronary band)に接触して、偽陽性反応(False positive response)を示さないように注意することが大切です。蹄叉の背側三分の二における圧痛は、舟状骨症候群(Navicular syndrome)および舟嚢炎(Navicular bursitis)の症例において多く見られますが、これらの疾患に特異的な反応ではありません。



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蹄踵部の蹄鉗子検査では、蹄球(Heel bulb)の内外側にまたがるように圧迫を加えるため、上記写真のように開閉可能な蹄鉗子(Adjustable hoof tester)によって容易に検査を実施できます。蹄踵部の圧痛は、蹄球や蹄枕の疾患、および舟状骨症候群において見られることがありますが、特異性(Specificity)はあまり高くありません。また、裂蹄(Hoof wall crack)が認められた症例においては、裂離部位の両側の蹄壁における蹄鉗子検査による圧痛反応を確かめることで、裂蹄の深度を確かめる手法も有効です。



広汎性の蹄異常によって、限局性疼痛部位(Focal painful lesion)が見つからなかった場合においても、羅患蹄の蹄鉗子検査の終了後にすぐさま速歩をさせることで、基線の跛行グレードよりも悪化している所見が認められたり、蹄鉗子検査の直後の触診によって、肢動脈拍動の亢進(Increased digital pulse)が触知される場合もあります。

蹄鉗子による圧痛のみでは、蹄病が跛行の一次性疾患(Primary disorder)である事を証明することは出来ないため、蹄鉗子検査によって明らかな疼痛反応が確認された場合においても、必ず遠位肢の診断麻酔(Diagnostic anesthesia)によって跛行が改善&消失する所見を確かめて、跛行との因果関係を証明することが重要であるという警鐘が鳴らされています。

Photo courtesy of Adam’s Lameness in Horses, 5th edition. Eds: Stashak TS, 2002, Lippincott Williams & Wilkins (ISBN 0-6830-7981-6), and Diagnosis and Management of Lameness in the Horse. Eds: Ross MW and Dyson SJ, 2003, WB Sounders (ISBN 0-7216-8342-8).

関連記事:
・馬の屈曲試験での影響範囲
・馬獣医による蹄鉗子の使い方

馬の跛行検査シリーズ
馬の跛行検査1:歩様検査
馬の跛行検査2:肢勢検査
馬の跛行検査3:蹄鉗子検査
馬の跛行検査4:遠位肢の触診
馬の跛行検査5:近位肢の触診
馬の跛行検査6:前肢の屈曲試験
馬の跛行検査7:後肢の屈曲試験
馬の跛行検査8:診断麻酔指針
馬の跛行検査9:前肢の神経麻酔
馬の跛行検査10:前肢の関節麻酔
馬の跛行検査11:前肢の滑液嚢麻酔
馬の跛行検査12:後肢の神経麻酔
馬の跛行検査13:後肢の関節麻酔
馬の跛行検査14:後肢の滑液嚢麻酔
馬の跛行検査15:歩様解析
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