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馬の跛行検査5:近位肢の触診

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近位肢の触診(Proximal limb palpation)について

肢を挙上させた状態での背側部手根関節(Dorsal aspect of carpal joint)の触診では、総指伸筋腱(Common digital extensor tendon)と橈側手根伸筋腱(Extensor carpi radialis tendon)のあいだから、中間手根関節(Mid-carpal joint)および前腕手根関節(Antebrachial-carpal joint)にアプローチしながら、各手根骨の腫脹や圧痛が検査され(上図)、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)や手根骨盤状骨折(Carpal slab fracture)では、深部圧痛(Pain on deep palpation)や関節膨満(Joint effusion)が触知されます。病態の進行した症例においては、手根関節の屈曲そのものに対して疼痛反応(Pain response)を示したり、関節可動域(Range of joint motion)の減退が認められる場合もあります。また、手根嚢水腫(Carpal hygroma)では、手根背側部の軟性腫脹が認められ、手根骨の形状が触知できない場合もあります。

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肢を挙上させた状態での掌側部手根関節(Palmar aspect of carpal joint)の触診では、副手根骨(Accessory carpal bone)の熱感(Heat)、腫脹(Swelling)、圧痛(Pain on palpation)の検査、および手根管(Carpal canal)の熱感および腫脹の検査が行われ(上図)、副手根骨骨折(Accessory carpal bone fracture)では患部の圧痛が触知されます。また、手根管症候群(Carpal canal syndrome)では手根管の熱感や軟性膨満が触知され、遠位橈骨骨軟骨腫(Distal radial osteochondroma)に起因する病態では、遠位橈骨成長板(Distal radial growth plate)の掌側部位において、硬化性骨性膨隆(Firm bony protrusion)と深部圧痛が認められる場合もあります。



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肘関節(Elbow joint)の触診では、関節部の熱感、腫脹、圧痛等の検査に加えて、遠位肢を挙上させて肘関節伸展(Elbow joint extension)を起こさせる操作が行われ(上図)、尺骨骨折(Ulna fracture)では関節伸展時に三頭筋(Triceps muscle)の緊張による中程度~顕著な疼痛反応が認められ、肘関節炎(Elbow arthritis)では関節伸展時の軽度の疼痛反応、および関節包の熱感および膨満が触知されます。

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肢を挙上させた状態での肘関節の内転および外転操作(Abductive/Adductive manipulation)においては、肘関節の側副靭帯損傷(Collateral ligament injury)において顕著な疼痛反応が触知されますが、この操作は肘関節に特異的な検査ではないため、手根関節の側副靭帯損傷においても類似の疼痛反応を呈する場合もあります。



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頭側部肩関節(Cranial aspect of shoulder joint)の触診では、熱感、腫脹、圧痛等の検査が行われ(上図)、肩関節炎(Shoulder joint arthritis)、結節間滑液嚢炎(Intertubercular bursitis)、二頭筋腱骨化症(Ossification of biceps brachii tendon)などの病態においては、肩関節頭側面の軟性膨満や圧痛が触知されます。また、肩甲骨の関節窩上結節骨折(Supraglenoid tubercle fracture)では、重度の熱感と深部圧痛が触知され、肩関節の不安定性(Shoulder joint instability)が認められる場合もあります。

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また、肩関節部の異常が疑われた症例においては、肘頭に片手をあてがった状態で遠位肢を尾側に牽引することで肩関節頭側面に緊張負荷を掛ける操作も有効で(上図)、特に結節間滑液嚢炎や関節窩上結節骨折において顕著な疼痛反応が認められます。



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飛節内側面(Medial aspect of tarsus)の触診では、遠位足根関節部における、熱感、腫脹、圧痛等の検査が行われ(上図)、飛節内腫(Bone spavin)では硬化性の骨性膨隆が触知され、人差し指と中指で第二中足骨の底側面(Planter aspect of second metatarsal bone)を強く圧迫することで疼痛反応を検査するチャーチル圧迫試験(Churchill pressure test)が試みられることもあります。

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飛節近位部(Proximal aspect of tarsus)の触診では、内外側面における熱感、腫脹、圧痛等の検査が行われ(上図)、サラピン(“Thorough-pin”)や載距突起骨髄炎(Osteomyelitis of sustentaculum tali)では、足根外筒(Tarsal sheath)の熱感と膨満が触知されます。また、離断性骨軟骨炎(Osteochondritis dissecans)に続発する飛節軟腫(Bog spavin)では底側関節嚢(Planter joint pouch)の膨満によって類似の軟性腫脹が触知されますが、足根外筒病態においては、指圧を介しての滑液の動態を観察して、内外側に生じた二つの嚢胞が連絡している所見で鑑別診断が行われます。

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飛節底側部(Planter aspect of tarsus)の触診では、踵骨の近位底側面(Proximal planter surface of calcaneus)における熱感、腫脹、圧痛等の検査が行われ(上図)、飛節後腫(“Curb”)では、腱周囲炎(Peritendonous inflammation)、靭帯周囲炎(Periligamentous inflammation)、浅屈腱炎(Superficial digital flexor tendinitis)、深屈腱炎(Deep digital flexor tendinitis)、長底側靭帯炎(Long planter desmitis)などに起因する、踵骨底側面の熱感、硬化性膨隆、圧痛等が触知されます。また、飛端腫(“Capped hock”)では皮下踵骨滑液嚢(Subcutaneous calcaneal bursa)および腱間踵骨滑液嚢(Intertendinous calcaneal bursa)の膨満に起因する、踵骨底側面の軟性腫脹と圧痛が触知され、浅屈腱転位(Superficial digital flexor tendon dislocation)では、踵骨内側面の軟性腫脹に加えて、飛節の伸展&屈曲に際して、変位した浅屈腱の異常動揺が触知される場合もあります。



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飛節よりも近位部における後肢は多くの筋肉郡に囲まれているため、詳細な触診による病態発見は困難な場合が多いですが、が試みられます。また、膝関節部の特殊操作としては、十字靭帯試験(Cruciate ligament test)や内側側副靭帯試験(Medial collateral ligament test)が行われる場合もあります。

触診における異常所見は、いずれも跛行との因果関係を証明するものではないため、必ず診断麻酔(Diagnostic anesthesia)によって跛行が改善&消失する所見を確認して、熱感、腫脹、圧痛などの発生が、一次性疾患(Primary disorder)に起因することを証明することが重要であるという警鐘が鳴らされています。

Photo courtesy of Adam’s Lameness in Horses, 5th edition. Eds: Stashak TS, 2002, Lippincott Williams & Wilkins (ISBN 0-6830-7981-6), and Diagnosis and Management of Lameness in the Horse. Eds: Ross MW and Dyson SJ, 2003, WB Sounders (ISBN 0-7216-8342-8).


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