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馬の跛行検査8:診断麻酔指針

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診断麻酔(Forelimb diagnostic anesthesia)について

診断麻酔(Diagnostic anesthesia)は、感覚神経の周囲、関節内部、滑液嚢内部などに局所麻酔薬を注射して、患肢を限局的に無痛化(Local analgesia)することで、基線グレード(Baseline grade)と比較して跛行が改善または消失(Lameness improvement/elimination)する所見を観察する検査法で、馬の跛行診断に際しては最も有用な手法であることが提唱されています。また、触診(Palpation)や屈曲試験(Flexion test)で認められた疼痛反応(Pain response)、および、レントゲン(Radiography)、超音波(Ultrasonography)、CT、MRI等の画像診断法(Diagnostic imaging)によって発見された異常所見が、実際に跛行の原因となっているかどうかの因果関係を証明するには、その異常が疑われる部位の無痛化によって跛行症状が改善するのを確かめる事が必要です。

そのため理論上は、跛行の確定診断(Definitive diagnosis)には診断麻酔が必須である、とも言えますが、病歴から不完全骨折(Incomplete fracture)が疑われる症例、跛行グレードが軽度過ぎて一定していない症例、粉砕骨折(Comminuted fracture)や感染性関節炎(Septic arthritis)など一次性疾患が明らかな症例、などにおいては、診断麻酔を介することなく検査&治療をすすめるのが適当であると判断される場合もあります。



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上図は、前肢および後肢における診断麻酔の指針を示したもので、局所麻酔薬の注射は最も遠位肢(Distal limb)から開始して、各診断麻酔の結果に応じて、徐々に近位側へと検査を進めていくことが基本となります。各部位の診断麻酔の実施に際しては、局所麻酔薬を注射後に5~10分間待ち、予測される無痛化領域の皮膚を鉗子(Hemostatic forceps)やボールペンの先などでつつくことで、皮膚感覚の消失(Loss of skin sensation)が達成されていることを確認します。その後、すぐさま直線上を速歩させて、麻酔前と比較しての跛行の変化を観察します。



診断麻酔の結果判定としては、神経麻酔(Nerve block)では70~80%の跛行改善、関節麻酔では50~60%の跛行改善を、臨床的に有意な陽性反応(Positive response)と見なす指針が示されています。また、両側性跛行(Bilateral lameness)を起こしていた症例においては、一方の肢の無痛化によって、跛行が対側肢(Contralateral limb)へと移動する所見(いわゆるSwitching lameness)が認められる事もあります。基線跛行が軽度であった場合には、診断麻酔による無痛化を施した後に、屈曲試験を再度行うこともありますが(無痛化部位の屈曲による一時的跛行悪化を示さなくなる)、その有用性や必要性に関しては賛否両論があります。

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