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馬の跛行検査 その11

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前肢の滑液嚢麻酔(Synovial bursa block)および腱鞘麻酔(Tendon sheath block)について

舟嚢(Navicular bursa)(=肢滑車滑液嚢:Podotrochlear bursa)の診断麻酔では、掌側軸中アプローチが用いられる事が一般的です(上図)。この手法では、起立位または楔型ブロックに蹄を保定した状態で、内外側の蹄球(Lateral and medial heel bulb)のあいだを局所麻酔してから、軸中線上の体毛の生え際のすぐ上部から、蹄底面に平行になるように背側方向に向かって9cm-20Gの注射針を穿刺させて滑液嚢腔に到達する手法が用いられます(上図a)(蹄冠線に平行になるように穿刺するという記述もあります)。通常は皮膚表面から4~5cmの深さで、注射針の先端が舟状骨の屈腱面(Flexor surface of navicular bone)に達します。穿刺後にはレントゲン撮影によって、針先が舟状骨屈腱面の中央部に位置していることを確認してから、3~5mLの麻酔薬を注射して、5~10分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察します。舟嚢は体重負荷時には、深屈腱によって圧迫されているため、針穿刺後に蹄を挙上させることで、麻酔薬の注入を容易にする手法が用いられる事もあります。舟嚢への他のアプローチ法としては、蹄球間陥没の最深部から遠位方向へ30度の角度で針を挿入する近位掌側アプローチ(上図b)や、蹄骨側副軟骨(Collateral cartilage of coffin bone)すぐ上部から遠軸側方向に向かって針を挿入する外側アプローチも試みられています。

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舟嚢麻酔は、舟状骨および舟嚢を極めて特異的に無痛化する診断麻酔法であるため(上表)、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)に陽性反応を示した症例において、舟状骨症候群(Navicular syndrome)や舟嚢炎(Navicular bursitis)の確定診断を下すため、蹄関節麻酔(Coffin joint block)より先に舟嚢麻酔を行う指針が示されています。しかし、実施にはレントゲン撮影を要し、蹄関節や遠位肢腱鞘に誤って麻酔薬を注入してしまう可能性もあるため、全ての症例に対して通例的に行われる診断麻酔法ではありません。このため、掌側指神経麻酔に陽性の場合には、舟状骨症候群の推定診断を下すため、少量(<6mL)の麻酔薬による蹄関節麻酔を行い、五分以内に跛行改善が起きない所見で、蹄関節内の疾患を除外診断した後、冠関節麻酔(Pastern joint block)によっても跛行改善が起きない所見で、掌側指神経麻酔の実施時に、近位側への麻酔薬浸潤が生じなかったことを確かめる指針が用いられる場合もあります。



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球節腱鞘(Fetlock tendon sheath)(=肢屈腱鞘:Digital flexor tendon sheath)の診断麻酔では、近位掌側アプローチもしくは遠位掌側アプローチが用いられる事が一般的です(上図)。近位掌側アプローチでは、通常は起立位において、掌側輪状靭帯(Palmar annular ligament)のすぐ上部の軸中線上から、遠位背側方向(Distodorsal direction)に向かって2.5cm-20Gの注射針を穿刺させて腱鞘腔に到達する手法が用いられます(上図a)。一方、遠位掌側アプローチでは、通常は起立位において、近位指骨輪状靭帯(Proximal digital annular ligament)と遠位指骨輪状靭帯(Distal digital annular ligament)のあいだの軸中線上から、近位背側方向(Proximodorsal direction)に向かって2.5cm-20Gの注射針を穿刺させて腱鞘腔に到達する手法が用いられます(上図b)。いずれの手法においても、滑液検体を吸引して針先が腱鞘腔に達したことを確認してから、10~15mLの麻酔薬を注射して、10~15分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察します。

球節腱鞘麻酔では、腱鞘炎(Tenosynovitis)、深屈腱炎(Deep digital flexor tendinitis)、輪状靭帯症候群(Annular ligament syndrome)などの疾患において陽性反応を示します。遠位掌側アプローチでは、近位掌側アプローチと比較して、過剰増生した滑膜絨毛(Villous hypertrophy)に邪魔されて、滑液検体の吸引が困難となり易い可能性が示唆されています。一般的に球節腱鞘麻酔は、遠軸種子骨麻酔(Abaxial sesamoid nerve block)や低四点神経麻酔(Low four-point nerve block)に陽性反応を示し、冠関節麻酔(Pastern joint block)や球節関節麻酔(Fetlock joint block)に陰性反応を示した症例において、腱鞘内疾患を除外診断することで、種子骨遠位靭帯炎(Distal sesamoidean ligament desmitis)や球節軟骨下骨嚢胞(Fetlock subchondral bone cyst)などの推定診断を下す目的で実施されます。球節腱鞘への他のアプローチ法としては、掌側輪状靭帯と近位指骨輪状靭帯のあいだから注射針を穿刺する遠位掌側球節アプローチ法や、種子骨間隙(Inter-sesamoidean space)に向かって掌側輪状靭帯を貫通させながら注射針を穿刺する掌側軸側種子骨アプローチ法も試みられています。



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手根管(Carpal sheath、Carpal canal)(=手根屈腱鞘:Carpal flexor tendon sheath)の診断麻酔では、近位掌側アプローチもしくは遠位掌側アプローチが用いられる事が一般的です(上図)。これらの手法では、通常は起立位において、副手根骨(Accessory carpal bone)の上部(上図c)もしくは下部(上図d)の軸中線からやや外側部において、遠位背側方向もしくは近位背側方向に向かって2.5cm-20Gの注射針を穿刺させて腱鞘腔に到達する手法が用いられます。滑液検体を吸引して針先が腱鞘腔に達したことを確認してから、10~15mLの麻酔薬を注射して、10~15分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察します。

手根管麻酔では、手根管内における深屈腱炎、遠位橈骨骨軟骨腫(Distal radial osteochondroma)、副手根骨骨折(Accessory carpal bone fracture)、上位支持靭帯炎(Superior check ligament desmitis)などの疾患において陽性反応を示します。しかし、これらの病態では顕著な手根管滑液増量と膨満(Synovial effusion)を呈し、比較的容易に推定診断が下される事から、手根管麻酔による確定診断を要する症例はあまり多くありません。



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結節間滑液嚢(Intertubercular bursa)(=二頭筋滑液嚢:Bicipital bursa)の診断麻酔では、外側アプローチが用いられる事が一般的です(上図)。この手法では、上腕骨の頭側部位(Cranial to humerus)で三角筋粗面 (Deltoid tuberosity)から近位側へ3~4cmの位置から、近位頭内側方向(Proximal craniomedial direction)に向かって9cm-18Gの注射針を穿刺させて滑液嚢腔に到達する手法が用いられます(上図e)。滑液検体を吸引して針先が滑液嚢腔に達したことを確認してから、10~20mLの麻酔薬を注射して、10~15分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察します。

結節間滑液嚢麻酔では、結節間滑液嚢炎(Intertubercular bursitis)、二頭筋腱骨化症(Ossification of biceps brachii tendon)、上腕二頭筋腱炎(Biceps brachii tendinitis)などの疾患において陽性反応を示します。しかし、稀に結節間滑液嚢と肩関節包(Shoulder joint capsule)が連絡している個体においては、両方の滑膜組織が同時に無痛化されてしまう可能性も示されています。一般に肩関節に起こる疾患の方が結節間滑液嚢の疾患よりも発症率が高いため、通常は肩関節麻酔(Shoulder joint block)を先に実施して、陰性反応を示した症例に対して結節間滑液嚢麻酔が行われます。滑液増量と膨満を呈していない結節間滑液嚢において、針穿刺による滑液嚢腔への到達が困難な場合には、超音波誘導(Ultrasound-guidance)を介してのアプローチが行われる事もあります。

Photo courtesy of Adam’s Lameness in Horses, 5th edition. Eds: Stashak TS, 2002, Lippincott Williams & Wilkins (ISBN 0-6830-7981-6), and Diagnosis and Management of Lameness in the Horse. Eds: Ross MW and Dyson SJ, 2003, WB Sounders (ISBN 0-7216-8342-8).

馬の跛行検査シリーズ
馬の跛行検査 その1
馬の跛行検査 その2
馬の跛行検査 その3
馬の跛行検査 その4
馬の跛行検査 その5
馬の跛行検査 その6
馬の跛行検査 その7
馬の跛行検査 その8
馬の跛行検査 その9
馬の跛行検査 その10
馬の跛行検査 その11
馬の跛行検査 その12
馬の跛行検査 その13
馬の跛行検査 その14
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