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馬の跛行検査 その13

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後肢の関節麻酔(Hindlimb joint block)について

後肢の遠位部における疼痛部位の限局化に用いられる、遠位指骨間関節麻酔(Distal interphalangeal joint block)、近位指骨間関節麻酔(Proximal interphalangeal joint block)、中足指骨間関節麻酔(Metatarso-phalangeal joint block)の三種類の診断麻酔は、前肢における手技と同様に実施されます。

足根中足関節(Tarsometatarsal joint)の診断麻酔では、通常は起立位において、第四中足骨(Fourth metatarsal bone)(=外側副管骨:Lateral splint bone)の近位端のすぐ上部において、頭内側方向(Craniomedial direction)に向かって2.5cm-20Gの注射針を穿刺させて底側関節嚢(Plantar joint pouch)に到達する手法が用いられます(上図a)。滑液検体を吸引して針先が関節腔に達したことを確認してから、4~8mLの麻酔薬を注射して、10~15分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察します。

足根中足関節麻酔では、飛節内腫(Bone spavin)や関節内骨折(Intra-articular fracture)などの疾患において陽性反応を示します。しかし、足根中足関節の底側関節嚢(Plantar pouch of tarsometacarpal joint)は、管骨近位底側面(Palmar aspect of proximal cannon bone)まで伸展しており、繋靭帯付着部の浸潤麻酔(Infiltration anesthesia of suspensory origin)によって誤って足根中足関節が無痛化されてしまう危険があります。そのため、高四点神経麻酔に陰性反応を示した症例においては、先に足根中足関節麻酔を行って陰性反応を確かめてから、繋靭帯付着部の浸潤麻酔を行う指針が示されています。また、稀に足根中足関節の底側関節嚢へと浸潤した麻酔薬によって、内外側の底側中足神経(Lateral/Medial plantar nerve)が麻酔されて、付着部繋靭帯炎(Suspensory origin desmitis)において偽陽性を示してしまう可能性があるため、足根中足関節麻酔に陽性を示した症例おいては、繋靭帯付着部の浸潤麻酔によって陰性反応を示す所見で、飛節内腫の確定診断を下す指針も提唱されています。



遠位足根骨間関節(Distal inter-tarsal joint)(=中心遠位足根関節:Centrodistal tarsal joint)の診断麻酔では、通常は起立位で、馬体の反対側からアプローチしながら、頭側脛骨筋の内側腱(Medial tendon of cranial tibialis muscle:いわゆるCunean tendon)のすぐ上部に触診される中心足根骨(Central tarsal bone)、第三中足骨(Third tarsal bone)、癒合した第一&第二足根骨(Fused first and second tarsal bone)の関節形成部位(Articulation)において、皮膚表面に垂直に2.5cm-22Gの注射針を穿刺させて関節腔に到達する手法が用いられます(下図a)。遠位足根骨間関節では滑液検体を吸引できない場合も多いものの、注射針を1.0~1.5cmの深さまで抵抗なく穿刺できる時には、針先が関節腔に達していると考えられ、通常は4~5mLの麻酔薬を注射して、10~15分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察します。この際に、5mL以上の麻酔薬が容易に注入できる場合には、近位側の足根関節に針先が迷入している可能性が高いと考えられます。遠位足根骨間関節麻酔では、飛節内腫や関節内骨折などの疾患において陽性反応を示します。



足根下腿関節(Tarsocrural joint)(=脛骨足根関節:Tibiotarsal joint)の診断麻酔では、通常は起立位において、脛骨内側踝(Medial malleolus of tibia)のすぐ遠位側で、伏在静脈(Saphenous vein)の内側部において、底外側方向(Plantamedial direction)に向かって2.5cm-20Gの注射針を穿刺させて関節腔に到達する手法が用いられます(上図b)。滑液検体を吸引して針先が関節腔に達したことを確認してから、20~30mLの麻酔薬を注射して、10~15分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察します。

足根下腿関節麻酔では、離断性骨軟骨炎(Osteochondritis dissecans)、足根下腿関節炎(Tarsocrural arthritis)、足根下腿関節内骨折などの疾患において陽性反応を示します。また、外傷などで関節頭側面の充分な滅菌が困難である症例や、顕著な底部関節膨満(Plantar joint effusion)が認められる場合には、底外側アプローチによる足根下腿関節麻酔が実施される事もあります(上図c)。



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飛節には近位から遠位方向に、(1)下腿足根関節(=脛骨足根関節)、(2)近位足根骨間関節(=距骨踵骨中心第四足根骨関節:Talocalcaneal-centro-quatral joint)、(3)遠位足根骨間関節(=中心遠位足根関節)、(4)足根中足関節、の四つの主要な関節があり、(1)と(2)は常に連絡しているのに対して、(2)と(3)が連絡しているのは4%、(3)と(4)が連絡しているのは8~35%の馬に過ぎない事が報告されています。このため、飛節内腫などの診断において関節麻酔を要することの多い(3)と(4)は、別々の関節であるという認識で、各個に麻酔薬の注入を行うことが必要です。

また、飛節内腫の治療に際しては、足根中足関節に先にコルチコステロイド&ヒアルロン酸注射を行ってから、次に遠位足根骨間関節の注射を行うことが一般的ですが、二番目の関節を穿刺した際に最初の関節に注入した薬液が漏出してくる事があります。しかし、この場合にも、この二つの関節が連絡していたと安易に判断するのは不適切であるという警鐘が鳴らされており、遠位足根骨間関節に刺したつもりの注射針が、足根中足関節の底側関節嚢に迷入してしまった可能性を考慮して、慎重に針を穿刺しなおしてから、二番目の関節へのステロイド注射を行う指針が提唱されています。



一方、膝関節(Stifle joint)には、(1)内側大腿脛骨関節(Medial femorotibial joint)、(2)外側大腿脛骨関節(Lateral femorotibial joint)、(3)膝蓋大腿関節(Femoropatellar joint)の三つの関節がありますが、(1)と(2)は決して連絡しておらず、(1)と(3)が連絡しているのは60~70%の馬、(2)と(3)が連絡しているのは3~18%の馬であることが報告されています。このため、膝関節麻酔においても飛節と同様に、三つは別々の関節であるという認識で、各個に麻酔薬の注入を行うことが必要です。



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内側大腿脛骨関節の診断麻酔では、内側膝蓋靭帯(Medial patellar ligament)と内側側副靭帯(Medial collateral ligament)のあいだで、内側脛骨高平部(Medial tibial plateau)から近位側へ1~2cmの位置において、皮膚表面に垂直に4cm-18Gの注射針を穿刺させて関節腔に到達する手法が用いられます(上図a)。滑液検体を吸引して針先が関節腔に達したことを確認してから、20~30mLの麻酔薬を注射して、10~30分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察します。



外側大腿脛骨関節の診断麻酔では、長指伸筋腱(Long digital extensor tendon)と外側側副靭帯(Lateral collateral ligament)のあいだで、外側脛骨高平部(Lateral tibial plateau)からすぐ近位側において、地面に水平方向で、かつ僅かに内尾側方向(Slightly caudomedial direction)に向かって、4cm-18Gの注射針を穿刺させて関節腔に到達する手法が用いられます(上図c)。また、外側膝蓋靭帯(Lateral patellar ligament)と長指伸筋腱のあいだで、外側脛骨高平部からすぐ近位側において、同様な穿刺方向で関節腔に到達する手法が用いられる場合もあります(下図d)。内側大腿脛骨関節と同様に、滑液検体を吸引して針先が関節腔に達したことを確認してから、20~30mLの麻酔薬を注射して、10~30分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察します。



膝蓋大腿関節の診断麻酔では、中間膝蓋靭帯(Middle patellar ligament)の外側において、皮膚表面に垂直に4cm-18Gの注射針を穿刺させて関節腔に到達する手法が用いられます(上図b)。滑液検体を吸引して針先が関節腔に達したことを確認してから、20~30mLの麻酔薬を注射して、10~30分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察しますが、膝蓋大腿関節では、滑膜絨毛(Synovial villi)に阻害され滑液の吸引が困難である場合も多いことが知られています。他のアプローチ法としては、外側膝蓋靭帯の尾側、かつ大腿骨外側滑車(Lateral trochlear ridge of femur)の外側で、外側脛骨高平部から近位側へ5cmの部位に位置する膝蓋大腿外側盲嚢部(Lateral cal-de-sac of femoropatellar compartment)において、脛骨軸に垂直方向に4cm-18Gの注射針を穿刺させて関節腔に到達する手法が用いられる事もあります(下図e)。この手法では、遠位アプローチと比較して、関節軟骨(Articular cartilage)を傷付ける危険が少なく、滑液吸引がより容易であることが報告されています。



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膝関節の診断麻酔に際しては、三つの関節腔が互いに連絡しあっている可能性が常にあることから、足根関節の診断麻酔と異なり、三つの関節に対して同時に麻酔薬の注射が行われることが殆どで、どれかひとつの関節を麻酔してから跛行改善を観察することはあまりありません。また、深部に及ぶ注射針の操作を要することから、穿刺部位の皮下局所麻酔を施すことで、馬が後肢を動かして針を破損させるのを防ぐ手法も有効です。膝関節麻酔では、離断性骨軟骨炎、軟骨下骨嚢胞(Subchondral bone cyst)、十字靭帯損傷(Cruciate ligament injury)、半月板損傷(Meniscal injury)などの疾患において陽性反応を示しますが、軟骨下骨嚢胞が関節腔と連絡していない場合には、僅かな跛行の改善しか見られなかったり、跛行改善に30分以上を要することもあります。



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股関節(Hip joint)(=腸骨大腿関節:Coxofemoral joint)の診断麻酔では、大腿骨大転子(Great trochanter of the femur)の頭側結節(Cranial process)と尾側結節(Caudal process)のあいだにおいて、頭内側方向(Craniomedial direction)で僅かに遠位側方向(Slightly distal direction)に向かって15cm-18Gの注射針を穿刺させて関節腔に到達する手法が用いられます(上図a)。この際には、大腿骨頸部に沿わせるように針を伸展させることで(Walking the needle off the femoral neck)、股関節への到達が容易になることもあり、また、深部に及ぶ注射針の操作を要することから、穿刺部位の皮下局所麻酔を施すことが推奨されています。滑液検体を吸引して針先が関節腔に達したことを確認してから、25~30mLの麻酔薬を注射して、20~30分後に速歩させて基線グレードからの跛行の改善を観察します。股関節周囲に麻酔薬が漏出した場合には、一過性の坐骨神経麻痺(Sciatic nerve paralysis)を起こす危険があるため、滑液が吸引できず針先が関節内にあることが不確定な場合には、麻酔薬の注入は禁忌とされています。

Photo courtesy of Adam’s Lameness in Horses, 5th edition. Eds: Stashak TS, 2002, Lippincott Williams & Wilkins (ISBN 0-6830-7981-6), and Diagnosis and Management of Lameness in the Horse. Eds: Ross MW and Dyson SJ, 2003, WB Sounders (ISBN 0-7216-8342-8).

馬の跛行検査シリーズ
馬の跛行検査 その1
馬の跛行検査 その2
馬の跛行検査 その3
馬の跛行検査 その4
馬の跛行検査 その5
馬の跛行検査 その6
馬の跛行検査 その7
馬の跛行検査 その8
馬の跛行検査 その9
馬の跛行検査 その10
馬の跛行検査 その11
馬の跛行検査 その12
馬の跛行検査 その13
馬の跛行検査 その14
馬の跛行検査 その15






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