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馬の病気:屈曲性肢変形症

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屈曲性肢変形症(Flexural limb deformity: FLD)について。

関節の過屈曲(Hyperflexion)等によって、矢状面肢軸逸脱(Sagittal deviation of limb axis)を生じる疾患です。一般的に、深屈腱(Deep digital flexor tendon: DDFT)や浅屈腱(Superficial digital flexor tendon: SDFT)の硬化が触診されることから、“腱拘縮”(Contracted tendon)という名称が用いられる事もありますが、実際には骨格と軟部組織の成長速度の不均衡(Growth imbalance between bony and soft tissue structures)に起因し、腱自体の拘縮が認められる事は稀です。屈曲性肢変形症は、変形を呈する関節によって、蹄関節FLD、冠関節FLD、球節FLD、手根関節FLDなどに分類されており、特に蹄関節のFLDはその形状からクラブフット(Crab foot)と呼ばれます。先天性(Congenital)なFLDの病因としては、子宮内姿勢異常(Intrauterine malpositioning)、遺伝性素因(Genetic predisposition)、雌馬の毒性植物摂食(Toxic plant consumption)、甲状腺腫などが挙げられています。後天性(Acquired)なFLDの病因としては、急激な骨格成長に追いつけなくなった腱や靭帯の相対的短縮化(Relative shortening)と、それに伴う疼痛が挙げられています。

屈曲性肢変形症における歩様検査(Gait examination)では、蹄関節FLDと冠関節FLDの症例では蹄尖先着しての常歩(Toe landing walk)、球節FLDの症例では球節の前方座屈(Buckling forward)と球節を踏着しての常歩、手根関節FLDの症例では手根の前方座屈などが視診されます。また、重度の手根関節FLDでは、起立不能を呈します。蹄関節FLDの重篤度(Severity)は、背側蹄壁と地面との角度によって、ステージ1:<90°、ステージ2:≈90°、ステージ3:>90°などに分類されます。触診では、緊張を示している腱や靭帯の特定や、手動矯正(Manual correction)が可能か否かを判断します。一般的に、蹄関節FLDではDDFTの緊張、球節FLDではSDFTの緊張が触診され、レントゲン検査(Radiography)では、立方骨の未成熟(Immature cuboidal bone)や成長板(Growth plate)の異常を診断し、曳き馬などによる運動療法の是非を確かめます。

屈曲性肢変形症に対する内科的療法としては、まず栄養過多(Over-nutrition)の給餌内容を補正し、曳き馬運動で緊張している腱および靭帯の伸展を刺激するのに併行して、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)による疼痛緩和を試みます。また、数日齢までの先天性症例では、オキシテトラサイクリン投与によってマトリックスメタロプロテイナーゼ(Matrix metalloproteinase)を抑制することで、筋線維芽細胞(Myofibroblasts)による牽引性膠原質構築(Collagen tractional structuring)を軽減する治療法も有効です。そして、蹄関節FLDと冠関節FLDでは、蹄踵削切(Heel trimming)、蹄尖伸長蹄鉄(Toe extension)の装着、および、屈曲関節の副木もしくはギプス固定によって、腱や靭帯の伸展を促す方法も効果的です。球節FLDでは、蹄踵挙上(Raised heel)、蹄尖伸長(Toe extension)、および、垂直棒装着を施した蹄鉄(Vertical bar shoe)を装着して、この垂直棒の間に渡したゴムチューブで第三中手骨を掌側に押すことによって、球節屈曲を矯正する手法が試みられます。多くのFLD症例(特に先天性疾患)では、内科的療法のみで矯正されますが、肢変形が改善されなかったり、遅延や悪化を呈する症例では、外科的療法が応用されます。

屈曲性肢変形症に対する外科的療法としては、蹄関節FLDのうちステージ1の病態では、遠位支持靭帯切除術(Distal check ligament desmotomy)によってDDFTの緊張軽減を試みますが、ステージ2以上の症例では、深屈腱切断術(Deep digital flexor tenotomy)が必要となる場合もあります。また、冠関節FLDでは、遠位支持靭帯切除術もしくは深肢屈筋内側頭腱切断術(Deep digital flexor medial head tonotomy)が有効です。一方、球節FLDでは、近位支持靭帯切除術(Proximal check ligament desmotomy)によってSDFTの緊張軽減を試みますが、術後に繋靭帯への張力が増加して、繋靭帯炎(Suspensory desmitis)の危険が高まる可能性が示唆されています。そして、中程度~重度の病態では、近位支持靭帯切除術と遠位支持靭帯切除術の二つの手術を併用する必要がある場合もあります。さらに、整復困難な重度の球節FLDでは、延命処置として繋靭帯枝切断術(Suspensory branch desmotomy)が施されますが、術後に冠関節亜脱臼(Pastern joint subluxation)の合併症を引き起こすこともあります。手根関節FLDでは、外側尺骨筋腱切断術(Ulnaris lateralis tenotomy)と尺側手根屈筋腱切断術(Flexor carpi ulnaris tenotomy)によって、掌側手根部の緊張を軽減させる方法が試みられています。

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