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馬の疝痛検査1:視診と聴診

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馬の疝痛診断における視診(Inspection)について

馬の疝痛の診断に際しては、まず最初に腹痛症状(Abdominal pain)の重篤度を的確に評価して、緊急の開腹術(Emergency celiotomy)を要するか、内科的治療を適用するかを判断する必要があります。腹痛を示す臨床症状としては、食欲不振(Anorexia)、ケン部をかえりみる仕草(Looking at the flanks)、繰り返し排尿姿勢を取る仕草(Repeated attempt to urinate)、前掻き(Pawing)、腹部を後肢で蹴る仕草(Kicking at the abdomen)、寝起きを繰り返す仕草(Repeated lying down)、発汗(Sweating)、転げ回る仕草(Rolling)などが見られます(軽度→重度の疼痛度合いの順)。

極めて一般論としては、小腸の膨満(Small intestinal distension)では急性発現性に重度疝痛症状(Acute onset of severe lameness)を示すのに対して、盲腸や大結腸の膨満(Cecal/Large intestinal distension)では、漸進発現性(Gradual onset)に軽度~中程度疝痛(Mild to moderate colic)を呈します(小腸の方が膨満を許容できる容積が小さいため)。しかし、捻転(Volvulus)、重積(Intussusception)、絞扼(Strangulation)などの腸壁虚血(Intestinal wall ischemia)を生じる病態では、小腸および大腸の病態において、共に急性発現性の重度疝痛が認められることが一般的です。

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緊急の開腹術が必要であると判断される視診所見としては、鎮静剤の投与によっても制御困難な重篤な腹痛症状(Severe abdominal pain unresponsive to sedatives)、重度の腹部膨張(Marked abdominal distension)(多くの場合に盲腸&大結腸の膨満に起因)、重度の内毒素血症(Endotoxemia)を示唆する粘膜うっ血(Congested mucous membrane)、毛細血管再充満時間の遅延(Prolonged capillary refilling time)、歯肉粘膜への毒素線の出現(Toxic line on gingival mucosa)などの症状が挙げられます。

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この場合には、速やかに血液検査を行いその結果に基づいて、補液療法(Fluid therapy)を介しての再水和(Rehydration)と電解質不均衡(Electrolyte imbalance)の補正を行ってから緊急開腹術を適用するか、そのまま安楽死処置(Euthanasia)を選択するかを判断します。初診時に上述のような症状が認められなかった症例においては、聴診(Auscultation)、直腸検査(Rectal examination)、経鼻胃管挿入(Passage of nasogastric tube)、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)、腹水検査(Abdominocentesis)、腹部レントゲン検査(Abdominal radiography)などの精密検査を実施して、正確な病態把握に努めることが重要です。



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馬の疝痛診断における腹部聴診(Abdominal auscultation)について

馬の腹部聴診は、一般的に大腸の運動性(Large intestinal motility)の評価に有効とされていますが、小腸における進行性および非進行性運動性(Progressive or nonprogressive motility)の判別は難しいことが知られています。健常馬における腹鳴音(Abdominal borborygmi)は、“Rumbling”(=ゴロゴロ鳴るような音)、“Bubbling”(=泡立つような音)、“Splashing”(=水飛沫が上がるような音)等のように表現され、術者は腹鳴音の頻度(Frequency)、強度(Intensity)、音調(Tone)、長さ(Duration)、聴取部位を出来るだけ正確に記録することが重要です。一般的に大腸の腹鳴音は、小腸の腹鳴音よりも低強度で深音調(Lower intensity and deeper tone)を示すことが知られていますが、摂食が低下している症例においては、消化器疾患の有無に関わらず小腸腹鳴音が聴取できない場合も多いことが知られています。

腹部聴診では、主に盲腸(Cecum)および大結腸(Large colon)における腹鳴音の聴取によって、推進性および後退性収縮(Propulsive/Retropulsive contractions)の頻度と強度の評価が行われ、正常馬では3~4分間に一回の頻度で、遷延性流動音(Prolonged rushing sound)が盲腸&腹側大結腸の広範囲にわたって聴取されます。しかし、蠕動中または蠕動間に生じる混合収縮(Inter- and intra-haustral mixing contraction)では、非特異性の液体および腸内容物の動揺(Nonspecific movement of fluid and ingesta)が起こり、小腸収縮にともなう腹鳴音との区別が困難であることが殆どです。

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大腸の聴診では、右側ケン部(Right flank)から肋骨尾側縁(Caudal costal margin)および剣状骨(Xiphoid)に掛けての領域において盲腸の腹鳴音が聴取され(上図)、左側腹壁の同領域においては骨盤曲(Pelvic flexure)および上行結腸(Ascending colon)の腹鳴音が聴取されます(下図)。

腹鳴音の頻度が3~4分間に一回以下の頻度である場合には、大腸蠕動の有意な低下が疑われますが、食欲不振(Anorexia)、緊張した精神状態(Nerveousness)、アルファ2アドレナリン作動薬(Alpha2-adrenergic agonists: Xylazine, etc)の投与による薬剤性運動性抑制(Phoarmacologic inhibition of motility)においても同様の所見が認められます。腹鳴音の完全な消失が聴取された場合には、大腸閉塞(Large intestinal ileus)などのより重篤な病態が疑われますが、聴診のみでの罹患部位の特定は難しいと考えられています。

腹鳴音の頻度および強度の増加は、正常馬の摂食直後や大腸膨満の初期(Early stage of large intestinal distension)に認められます。また、副交感神経刺激薬(Parasympathomimetic drugs: Neostigmine, etc)の投与時にも腹鳴音の頻度増加が聴取されますが、この場合には分節性収縮(Segmental contractions)を生じることから、進行性腸蠕動そのものは抑制されていると考えられます。

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左側腹部の剣状骨尾方における腹部聴診(上図)では、上行結腸の収縮(Contraction of ascending colon)にともなって貯留した砂(Accumulated sand)および腸結石(Enteroliths)が擦れ合う音(Grinding sound)が聴取される場合もあり、特に砂疝(Sand colic)の罹患馬では、聴診によって疝痛や下痢などの臨床症状を生じない程度の少量の砂の存在を推定診断できることが示唆されています。

聴診と腹壁叩打(Abdominal wall percussion)を併用しての腹部打診(Ping auscultation)では、異常量のガスが貯留している領域を探知することが可能で、特に直腸検査(Rectal examination)の実施が困難である、子馬やミニチュアホースの症例における疝痛検査に有用であることが提唱されています。

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