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馬の疝痛検査 その3

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馬の疝痛診断における直腸検査について

馬の直腸検査(Rectal examination)では、左側大結腸(Left large colon)とその骨盤曲(Pelvic flexure)、盲腸底部(Base of cecum)、空腸(Jejunum)、回腸(Ileum)、小結腸(Small colon)、脾臓(Spleen)、左側腎臓(Left kidney)、腸間膜根(Mesenteric root)、内鼠径輪(Internal inguinal ring)、膀胱(Urinary bladder)、卵巣(Ovaries)、子宮(Uterus)、腹膜(Peritoneum)などの臓器が触知可能です。しかし、直腸検査で探索できる範囲は、腹腔容積全体の3~4割に過ぎないため、臨床症状および他の検査結果を合わせて、総合的に疝痛原因の特定を行うことが重要です。

馬の直腸検査は、一般に鎮静され枠場(Stocks)に保定した馬に対して行われ、充分な潤滑剤を用いること、蠕動波(Peristaltic wave)に逆らって手腕を動かさないこと、手腕を充分な深度まで伸展させて可動性を確保してから各臓器の触診を開始すること、等に注意して、医原性の直腸裂傷(Iatrogenic rectal tear)を予防することが大切です。また、過剰な直腸蠕動を抑制するため30~60mLのリドカイン浣腸が併用される場合もあります。



直腸検査での左側腹腔の触診

左側腹腔の触診では、まず尾腹側部(Caudoventral region)において大結腸の骨盤曲を触知します(上図)。大結腸便秘(Large colon impaction)では骨盤曲の硬化(Consolidation)、肥大化(Enlargement)、膨満(Distension)、膨起の消失(Disappearance of normal sacculations)などが認められ(下図)、便秘部位の大結腸が尾側腹腔域の大部分を占めて、他の臓器の触診が困難である症例も見られます。

大結腸捻転(Large colon volvulus)ではガス性膨満(Gas distension)や腸紐の緊張化(Tightened taenia coli)が認められますが、左腹側大結腸(腸紐と膨起あり)と左背側大結腸(腸紐と膨起なし)の縦位置が入れ替わっているなどの、捻転を直接示唆する所見の確認は困難である場合が殆どです。

大結腸右背方変位(Large colon right dorsal displacement)では、骨盤曲そのものが発見できないことを特徴としますが、大結腸左背方変位(Large colon left dorsal displacement)では、腸管の硬化や膨満が認められるものの、骨盤曲自体は正常位置付近に触知できることが一般的です。体格の小さい馬では、大結腸が脾臓の背側を走行しているのを触知可能なこともあります。

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左側腹腔の頭背側部(Craniodorsal region)では脾臓が触知され(下図)、大結腸左背方変位に伴う腎脾間捕捉(Nephrosplenic entrapment)や胃拡張(Gastric dilatation)では、脾臓の内方変位(Medial displacement)が認められます。

患馬のサイズによっては、脾臓の背方に左側腎臓が触知される場合もあり、急性腎不全(Acute renal failure)では腎臓の肥大や圧痛(Enlarged and painful kidney)、慢性腎不全(Chronic renal failure)では腎蔵の縮小を示すことが一般的ですが、診断の感度や信頼性はあまり高くなく、超音波検査(Ultrasonography)の併用を要することが殆どです。

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直腸検査での右側腹腔の触診

右側腹腔の頭背側部では盲腸底部が触知され(下図)、盲腸便秘(Cecal impaction)では硬化&膨満した盲腸底部が認められますが、盲腸尖端(Cupula cecum)に限局した病変は直腸検査では発見できない事もあります。また、慎重な触診によって、貯留内容物が硬化した糞便(タイプ1盲腸便秘)であるか、液体と非硬化性糞便(タイプ2盲腸便秘)であるかを鑑別することが重要です。また、盲腸鼓脹(Cecal tympany)では、ガス性膨満した盲腸基底部が触知できることが多いです。

盲腸尖部が盲腸体部に内反する盲腸盲腸重積(Cecocecal intussusception)では、罹患部位まで術者の手が届かない場合が殆どであるため、直腸検査での異常所見は顕著ではありませんが、盲腸尖部が盲腸結腸開口部(Cecocolic orifice)を通過して右腹側大結腸(Right ventralcolon)の内部まで達する盲腸結腸重積(Cecocolic intussusception)においては、盲腸変位(Cecal displacement)、盲腸壁の浮腫(Cecal wall edema)、盲腸そのものが触診できない、等の異常が認められます。

右側腹腔の尾背側部(Caudodorsal region)では小結腸が触知され、小結腸便秘(Small colon impaction)や糞石症(Fecalithiasis)の罹患馬では、小結腸の硬化および膨満が認められます。

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健常馬の直腸検査では、小腸は触知できない場合が殆どですが、諸病因によって小腸絞扼が起こすことで、小腸膨満(Small intestinal distension)を呈した症例では、肥大化した小腸ループが腹腔中央の腹側部に触診されます(下図)。また、慎重な直腸検査によって、小腸重積(Small intestinal intussusception)および回腸便秘(Ileal impaction)の罹患部位が硬化筒状腫瘤(Firm tube-like mass)として確認されたり、小腸絞扼を起こしている有茎性脂肪腫(Pedunculated lipoma)が触知される場合もあります。

尾腹側腹腔の正中線から外側へ10cmの位置では内鼠径輪が触知され、雄馬の疝痛症例では必ず内鼠径輪のサイズおよび消化管の迷入の有無を慎重に検査して、鼠径ヘルニア(Inguinal hernia)を除外診断することが重要です。

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直腸検査での腹腔中央部の触診

腹腔中央の頭背側部では、馬のサイズが小さい場合にのみ腸間膜根が触知され(下図)、普通円虫(Strongylus vulgaris)の感染に伴って、腸管膜動脈(Iliac artery)の血栓形成(Thrombus formation)を発症した症例では、腸間膜動脈拍動の虚弱化および消失(Weak/Absent iliac pulse)、動脈瘤性の動脈拡張(Aneurysmal arterial dilation)などが認められます。

腹膜炎の罹患馬では、腹膜の触診に伴って呻き声などの壁性疼痛症状(Parietal pain)が認められ、胃や腸管の破裂を起こした症例では、腹膜面の粗雑化(Roughened peritoneal surface)が触知される場合もあります。

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馬の疝痛検査シリーズ
馬の疝痛検査 その1
馬の疝痛検査 その2
馬の疝痛検査 その3
馬の疝痛検査 その4
馬の疝痛検査 その5
馬の疝痛検査 その6






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年齢: 40代
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