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馬の疝痛検査 その4

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馬の疝痛診断における腹腔超音波検査について

馬の腹腔超音波検査(Abdominal ultrasonography)は、直腸検査(Rectal examination)では手の届かない範囲にある臓器の検査、および各臓器の詳細な病態を把握するために重要な診断法で、非侵襲的、安価、短時間で実施できるという利点があります。また、直腸検査よりも馬へのストレスは少ないため、小腸疾患の診断が下された症例(もしくは開腹術が行なわれた)において、毎日の経過観察をするケースでも頻繁に実施されます。

一般的に馬の腹腔超音波検査は、枠馬(Stocks)に保定した馬に対して行われ、鎮静剤の使用を要することは稀で、また、アルコール塗布によって充分に良好な超音波像が得られるため、剃毛が行われる症例はあまり多くありません(超音波誘導による生検を行う場合を除いて)。



腹腔超音波検査における左側腹腔の所見

左側腹腔における超音波検査では、比較的広範囲にわたって脾臓(Spleen)が観察され、その頭側縁は第7~8肋間に位置し、その尾側縁は左側膁部(Left paralumbar fossa)まで及んでいることが一般的です。正常な脾臓の厚さは、その体部で15cm前後であることが報告されており、脾臓の腹側縁は左側腹底部に位置していることが一般的ですが、腹側縁が正中線を越えて右側腹腔に達している症例も見られます。

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脾臓の疾患は馬では稀ですが、リンパ肉腫(Lymphosarcoma)に起因する脾腫大(Splenomegaly)の超音波検査では、脾臓の肥厚化(Thickening)および頭尾側方向への拡大(Craniocaudal enlargement)が認められ、正常間質像(Normal parenchyma)に囲まれるように、低音響性腫瘍病巣(Hypoechoic neoplastic lesions)が観察されます(上記写真)。また、分娩や転倒時などの外傷性に発生した脾臓血腫(Splenic hematoma)の超音波検査では、高反響性(Hyperechoic)の辺縁の内部に無反響性(Anechoic)の血腫病変が認められます(下記写真)。

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左側腹腔では脾臓の尾腹側において左腹側大結腸(Left ventral colon)が認められ、半円形で膨起の見られる外観(Semicurved and sacculated appearance)として観察されます。正常な左腹側大結腸の腸壁の厚さは、通常は3mm以下であることが報告されています。脾臓の背側縁の上部には左側腎臓(Left kidney)が観察され、腎臓長径(Longitudinal length)の正常値は15cm以下で、腎脾間隙(Nephrosplenic space)は正常時では閉じています。

大結腸左背方変位(Large colon left dorsal displacement)に伴う腎脾間捕捉(Nephrosplenic entrapment)の超音波検査では、脾臓の背側に大結腸が変位している所見と、それによって左側腎臓像が妨げられている所見が見られます(下記写真)。また、捕捉を起こした大結腸の膨満に伴って、脾臓の腹側縁が下方に変位して右側腹腔領域まで伸展している所見や、正常時では弧を描いている脾臓の背側縁が地面に平行線を成している所見、等が認められる場合もあります。

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大結腸捻転(Large colon volvulus)の超音波検査では、腸管のガス性膨満(Instestinal gas distension)や腸壁の浮腫と肥厚化(Intestinal wall edema and thickening)が観察され(下記写真)、約七割の症例において腸壁の厚さが9mm以上に達することが報告されています。しかし、左腹側大結腸(膨起あり)と左背側大結腸(膨起なし)の縦位置が入れ替わっている事を超音波検査で探知する手法は信頼性が低く、正常状態と360度捻転との鑑別も難しいと考えられています。

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左側腹腔の第9~12肋間では、胃の大弯(Greater curvature of stomach)が脾臓の内方に観察され、正常な胃壁の厚さは、通常は4~7mmであることが報告されています。胃拡張(Gastric dilatation)の超音波検査では、胃内容物の増量と三時間以上の絶食でも胃排出が起きない所見が認められます。下記写真では、左側の白矢印が摂食物と胃液の境界、右側の白矢印が胃液とガスの境界を示し、中央の無反響性シャドーは留置された胃カテーテルを示しています。

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左側腹腔の超音波検査では、腹側大結腸に貯留した砂(Sand accumulation)が高反響性帯像(Hyperechoic band)として見つかる症例もありますが、疝痛症状の原因となりうるほど有意な量の砂貯留が起きているか否かを判断するのは困難であると考えられています。



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腹腔超音波検査における右側腹腔の所見

右側腹腔における超音波検査では、比較的広範囲にわたって盲腸(Cecum)が観察され、第14~16肋間から右側膁部(Right paralumbar fossa)まで及んでいることが一般的です。盲腸尖部(Cecal apex)が盲腸体部に内反する盲腸盲腸重積(Cecocecal intussusception)の超音波検査では、外鞘部(Intussuscipiens)の内部に入り込んだ嵌入部(Intussusceptum)が、特徴的な“牛目”像(Bullseye appearance)、または“的”状像(Target appearance)として観察されますが(下記写真)、盲腸尖部が盲腸結腸開口部(Cecocolic orifice)を通過して右腹側大結腸(Right ventralcolon)の内部まで達した盲腸結腸重積(Cecocolic intussusception)の超音波検査では、盲腸そのものの超音波像上で発見できないこともあります。

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盲腸内に圧縮&硬化された糞便が詰まるタイプ1盲腸便秘(Type-1 cecal impaction)の超音波検査では、特徴的所見は認められない場合が殆どで、直腸検査によって診断が下されますが、盲腸内に液体と非硬化性の糞便が貯留するタイプ2盲腸便秘(Type-2 cecal impaction)の超音波検査では、病状の進行度によっては顕著な腸壁肥厚化(Marked intestinal wall thickening)が認められる症例もあります。

右側腹腔の第10~14肋間では、右背側大結腸(Right dorsal colon)が認められ、腹側大結腸よりも平坦で膨起の見られない外観(Smooth and nonsacculated appearance)として観察されます。右背側大結腸の腸壁の厚さは、2.2~5.9mm(10~14肋間)、2.3~5.1mm(12肋間)、3.3~3.5mm(13肋間)等の正常値が報告されており、また、右背側大結腸と右腹側大結腸(Right ventral colon)の厚さの比率の正常値は、0.7~1.6(10~14肋間)であることが報告されています。

非ステロイド系抗炎症剤誘発性の下痢症(Non-steroidal anti-inflammatory drugs-induced diarrhea)の原因となる右背側大結腸炎(Right dorsal colitis)の超音波検査では、腸壁の肥厚化(下記写真)が認められる症例が多く、低反響性壁層(Hypoechoic layer)の形成も確認されます。右背側大結腸炎の罹患馬では、大結腸壁の厚さが6.3~16.7mmに達し、右背側大結腸と右腹側大結腸の厚さの比率も、2.0~3.3に増加することが報告されています(10~14肋間において)。

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右側腹腔の第16~17肋間では、右側腎臓(Right kidney)のすぐ腹側に十二指腸(Duodenum)が認められ、頭側方向へと腸の走行を追った場合に、第11肋間前後で腸管が右背側大結腸と肝右葉(Right liver lobe)のあいだに位置している所見で、他の小腸部位との見分けが行われます。正常な十二指腸壁の厚さは3~4mmで、腸直径は3cm以下であることが報告されています。

十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)の超音波検査では、小腸径の拡大(5-7cm)と小腸壁の肥厚化(6mm以上)が認められることが一般的です(下記写真)。しかし、腹腔底部において空腸膨満(Jejunum distension)の所見が認められ、かつ小腸壁の肥厚化が3~5mmである症例においては、小腸便秘(Small intestinal impaction)や小腸絞扼(Small intestinal strangulation)等の、他の疾患に起因して十二指腸膨満を発症したことが疑われます。

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盲腸の背側縁の上方には右側腎臓(Right kidney)が認められ、腎臓長径(Longitudinal length)の正常値は18cm以下であることが知られていますが、右側腎臓は左側腎臓よりも発見できる位置に個体差が大きいことが知られています。

急性腎不全(Acute renal failure)の超音波検査では、腎臓肥大化(Renal enlargement)(下記写真左)が見られ、慢性腎不全(Chronic renal failure)の超音波検査では、腎臓のサイズは縮小するかもしくは変化が見られない事が一般的です(下記写真右)。また、両病態において病状が経過した症例では、腎周囲浮腫(Perirenal edema)、皮髄質境界の不明瞭化(Loss of corticomedullary junction)、腎皮質の肥厚化(Renal cortex widening)、腎盤膨満(Renal pelves dilation)などが確認される場合もあります。

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小結腸(Small colon)は右背側大結腸の尾内側に位置しているため、成馬では超音波検査で確認することは困難ですが、子馬の症例においては直径4~6cmの円状断面像(Circular cross-section)として観察することが可能です。小結腸便秘(Small colon impaction)等の小結腸疾患の診断は、通常は直腸検査(Rectal examination)で下されますが、直検の実施が困難である新生児やミニチュアホースの症例では、腹腔超音波検査によって糞石症(Fecalithiasis)や胎便貯留(Meconium retention)(下記写真)などの診断が有効である場合もあります。

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腹腔超音波検査における腹底部の所見

腹底部の超音波検査では、空腸(Jejunum)が円状断面像(Circular cross-section)として観察され、正常な空腸壁の厚さは3mm以下、腸直径は3cm以下であることが報告されています。小腸の超音波検査では、形態的異常所見の他にその運動性の評価も行って、蠕動機能不全の診断を実施することも重要です。

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有茎性脂肪腫(Pedunculated lipoma)や小腸捻転(Small intestinal volvulus)に起因する小腸絞扼(Small intestinal strangulation)の超音波検査では、小腸膨満(Small intestinal distension)によって内径拡大(Increased luminal diameter)を生じた複数の消化管が認められます(上記写真)。この際には、小腸壁の肥厚化(Intestinal wall thickening)はそれほど顕著ではない所見で、十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)との鑑別が可能な場合もあります。

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小腸重積(Small intestinal intussusception)の超音波検査では、小腸膨満を示す内径拡大と、腸壁浮腫を示唆する小腸壁の肥厚化が認められ、重積罹患部位が発見された場合には、特徴的な“牛目”像(Bullseye appearance)または“的”状像(Target appearance)として観察されます(上記写真)。

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ローソニア属菌(Lawsonia intracellularis)の感染に起因する増殖性腸疾患(Proliferative enteropathy)の超音波検査では、顕著な小腸壁の肥厚化(6-12mm)、粘膜面のヒダ状外観(Corrugated appearance of mucosa)、内腔狭窄化(Decreased lumen diameter)などの所見が見られます(上記写真)。

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ロドコッカスエクイ腸炎(Rhodococcus equi enteritis)の超音波検査では、腸壁および腸間膜リンパ節(Mesenteric lymph nodes)における化膿性肉芽腫(Pyogranulomatous pneumonia)を呈する症例もあり、また、病状の進行に伴って空腸周囲部の膿瘍形成(Abscess formation)が認められる場合もあります(上記写真)。

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臍帯ヘルニア(Umbilical hernia)の超音波検査では、動静脈の感染範囲を確認すると共に、臍帯ヘルニアと膿瘍(Abscess)の鑑別を行ったり、小腸壁の一部のみが部分嵌頓(Partial incarceration)を起こした病態(=リクターヘルニア)と、小腸の完全嵌頓(Complete incarceration)を伴った病態(上記写真)との鑑別診断を下すことも重要です。

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腹底部における超音波検査では、腹水(Abdominal fluid)の量と性状の評価を行うことも重要で、腹膜炎(Peritonitis)の超音波検査では、腹水増量(Increased abdominal fluid volume)、繊維素生成の亢進(Increased fibrin formation)、腸管癒着(Intestinal adhesion)などが認められます。また、腹水の量によっては、小腸および腸間膜が腹腔内に浮遊している所見が観察される場合もあります(上記写真)。一方、分娩時の子宮損傷(Uterine trauma)や脾臓破裂(Splenic rupture)に起因する腹膜腔出血(Hemoperitoneum)における超音波検査では、高細胞性(High cellularity)に由来して高反響性の貯留液(Hyperechoic fluid accumulation)が認められることが一般的です(下記写真)。

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馬の疝痛検査シリーズ
馬の疝痛検査 その1
馬の疝痛検査 その2
馬の疝痛検査 その3
馬の疝痛検査 その4
馬の疝痛検査 その5
馬の疝痛検査 その6







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