馬の病気:管骨骨膜炎
馬の運動器病 - 2013年08月23日 (金)

管骨骨膜炎(“Bucked shins”)について。
第三中手骨(Third metacarpal bone)(=管骨:Cannon bone)の背側皮質(Dorsal cortex)に、骨膜炎(Periostitis)および疲労骨折(Stress fracture)を生じる疾患です。2歳以下の若馬において、活発な二次性骨単位(Secondary osteon)の活動によって管骨の硬度(Stiffness)が一過性に減退し、運動時の骨表面の歪度(Strain)が上昇する事(管骨がしなり易くなる)で発症すると考えられています。
管骨骨膜炎の症状としては、強運動後の第三中手骨背側面の熱感(Heat)、腫脹(Swelling)、圧痛(Pain on palpation)が見られます。一般的に、皮質骨の膨隆(いわゆる“Bucked shins”の外観)は主に背内側面(Dorso-medial surface)に起こり、皮質骨折(Cortical fracture)は主に背外側面(Dorso-lateral surface)に起こります。管骨骨膜炎の診断は通常、視診と触診で下されますが、皮質骨折の確定診断(Definitive diagnosis)では、レントゲン検査(Radiography)によって(DMPLO撮影像)、特徴的な凹状骨折線(いわゆる舌形骨折:Tongue fracture)の所見を確かめます。稀に骨折線が皮質面に半円状に伸展し、円盤状骨折(Saucer fracture)の形態を呈する事もあります。また、核医学検査(Nuclear scintigraphy)を用いて、骨代謝度定量(Bone metabolism quantification)をすることで、レントゲンで探知できない程の僅かな骨折線と、純粋な皮質骨膨隆を鑑別診断(Differential diagnosis)することが可能です。
管骨骨膜炎の治療では、皮質骨膨隆のみの症例に対しては、馬房休養(Stall rest)、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の全身投与(Systemic administration)、冷水療法(Cold hydrotherapy)、圧迫包帯(Pressure bandage)などが実施されます。しかし、疲労骨折を併発した場合においては、保存的療法のみでは4~6ヶ月の休養を要する可能性もあるため、骨折部位の中性骨螺子固定術(Neutral screw fixation)を施して、治癒を促進させることが推奨されています。この場合、骨螺子は背側皮質のみに穿孔させること(背側と掌側の皮質骨では歪度が異なるため)、骨折線部での圧縮螺子固定(Lag screw fixation)は行わないこと(手技的に簡易であるため)、約二ヵ月後に螺子除去手術を行うことなどが提唱されています。一方、疲労骨折部に5~7箇所のドリル穿孔を施すことで骨新生を促す術式(いわゆるOsteostixis)も試みられており、骨折治癒の加速と、競走および競技への復帰の早期化に有効であることが示されています。また、皮質骨折のサイズによっては、骨螺子固定術とOsteostixisを併用することも可能です。
管骨骨膜炎に対する他の治療法としては、電気刺激療法(Electrical stimulation)、衝撃波療法(Shock wave therapy)、オレイン酸の患部注射、抗炎症剤の局所注射、焼烙療法(Thermocautery:いわゆるPin firing)、化学発疹療法(Chemical vesication:いわゆるBlistering)、冷凍療法(Cryotherapy)などが行われる事もありますが、いずれも治療効果についての科学的裏付けを欠くため、使用には賛否両論(Controversy)があります。
一般的に、管骨骨膜炎の予後は良好で、殆どの症例において競走復帰を果たす事が報告されています(レース復帰率:80~98%)。また、ウッドチップなどの軟らかい足場において、鉄頭歯鉄(Toe grabs)を用いずに調教することが、管骨骨膜炎の予防(Prevention)に効果的である可能性も示唆されています。
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