馬の疝痛検査5:腹水検査
診療 - 2022年08月01日 (月)

馬の疝痛診断における腹水検査について
腹水検査(Abdominocentesis)は安全かつ安価な疝痛の診断法で、腹水性状は多くの疾患において消化管異常の度合いを比較的正確に反映するため、急性疝痛症状(Acute colic signs)、慢性体重減少(Chronic weight loss)、慢性下痢症(Chronic diarrhea)等を呈した症例の診断に有用であることが示されています。
馬の腹水は、腹側腹部(Ventral abdomen)において、剣状胸骨(Xiphisternum)から尾側へ約10cmの位置で採取されることが一般的です。穿刺部位の剃毛&消毒を施した後、通常は18G-3.75cmの注射針の穿刺によって腹水の採取が試みられ、針を回転させたりシリンジで吸引することで検体の採取が容易となる場合もあります。また、重種馬および皮下脂肪の厚い患馬では、皮膚局所麻酔(Skin local block)と穿孔術創(Stab incision)を介して、ティートカニューレを用いての腹水採取が行われる事もあります。この際には、必ず両手でカニューレを操作すること、カニューレをガーゼ等で覆って検体中への血液混入を予防することなどが大切です。
腹水検査の異常所見
腹水検査では、採取された腹水の色、白血球数、蛋白濃度、細胞内細菌の存在、好中球含有率などの評価が行われます(下表)。一般に、小腸および大腸便秘(Small/Large intestinal impaction)の腹水検査では、腹水が正常に近い無色~黄色を呈し、軽度の白血球数および蛋白濃度の増加が見られるのみですが、腸管の虚血性壊死(Ischemic necrosis)を伴う重度の小腸絞扼(Small intestinal strangulation)の腹水検査では、腹水が赤色~茶色を呈し、中程度~重度の白血球数および蛋白濃度の増加、好中球含有率の上昇(95%以上)が認められます。

一方、十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)の腹水検査では、白血球数の顕著な増加を伴うことなく、軽度~中程度の蛋白濃度の上昇が見られることから、両病態の鑑別診断の一つの指標となる事もあります。また、腹腔膿瘍(Abdominal abscess)の腹水検査では、重度の白血球数および蛋白濃度の増加を呈しますが、小腸絞扼ほど重篤な好中球含有率の上昇が見られない場合が殆どです。
腹水採取の際に誤って腸管を穿刺してしまった場合には、緑色の腹水検体が見られますが、白血球数が極めて少ない所見で、胃および腸管破裂(Gastric/Intestinal rupture)との鑑別が行われます。また、腹水採取の際に誤って脾臓を穿刺してしまったり、穿刺部位の皮下出血が混入した場合には、濃赤色の血液様腹水検体が見られますが、この際には検体のPCVが静脈血よりも高い所見(=脾臓穿刺)、もしくは検体のPCVが静脈血と同程度である所見(=皮下出血の混入)を確認することで、検体のPCVが静脈血よりもかなり低い値(5%前後)を示すことの多い腹膜腔出血(Hemoperitoneum)との鑑別が行われます。
また、僅かな白血球数および蛋白濃度の増加を呈するのみである初期病態の腹膜炎(Peritonitis)においては、腹水のpH下降、ブドウ糖濃度の低下(Decreased glucose concentration)、フィブリノーゲン濃度上昇、および腹水と血清のブドウ糖濃度差の増加などが、高感度な診断指標となる可能性が示唆されています。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
・馬の腹水採取のためのエコー検査
・腹水検査での馬の肝疾患の診断
・腹水検査での産後牝馬の診断
・馬の敗血症での腹水MMP9濃度
・馬の寄生疝における腹水NGAL濃度
・馬の腹水検査での急性期蛋白
馬の疝痛検査シリーズ
馬の疝痛検査1:視診と聴診
馬の疝痛検査2:胃カテーテル
馬の疝痛検査3:直腸検査
馬の疝痛検査4:腹腔超音波
馬の疝痛検査5:腹水検査
馬の疝痛検査6:腹腔X線検査