馬の疝痛検査6:腹腔X線検査
診療 - 2022年08月01日 (月)

馬の疝痛診断における腹腔レントゲン検査について
馬における腹腔レントゲン検査(Abdominal radiography)は、特に、子馬やミニチュアホースなどの消化器疾患の診断に有用で、小腸捻転(Small intestinal volvulus)、小腸重積(Small intestinal intussusception)、胎便貯留(Meconium retention)などでは、小腸および大結腸における顕著なガス貯留(Gass accumulation)と腸管膨満(Intestinal distension)が認められ(上記写真)、背腹方撮影像(Dorso-ventral radiographic view)を介してより正確に罹患部位を把握することが出来ます。
また、胎便貯留の症例では、直腸からの造影レントゲン検査(Contrast radiography)において、造影剤が小結腸(Small colon)で停滞し、横行結腸(Transverse colon)まで到達していない所見を特徴とします。一方、経口造影レントゲン検査において小腸重積を示唆する“林檎の芯”様所見(Apple-core appearance)は、小腸容積の大きい馬においては診断指標としての有用性があまり高くないため、小腸重積の確定診断は超音波検査を介して行われることが一般的です。

馬における腹腔レントゲン検査は、腸結石症(Enterolithiasis)の診断にも有効で、右背側大結腸(Right dorsal colon)および横行結腸に存在する腸結石(Enteroliths)では77%の診断感度(Diagnostic sensitivity)、小結腸に存在する腸結石では42%の診断感度が報告されており、また、偽陽性を示す可能性は低い診断法であるため(=高特異度:High specificity)、その陽性適中率(Positive predictive value)は96%に達することが知られています。
このため、間欠性疝痛(Intermittent colic)や食欲不振(Anorexia)などの特徴的症状にあわせて、好発品種(Arabian、Morgan、Saddlebred、etc)、好発年齢(10~15歳)、好発地域(米国ではフロリダ州&カリフォルニア州)、アルファルファ乾草の給餌などの危険因子(Risk factors)に当てはまる症例においては、積極性に腹腔レントゲン検査を実施することが推奨されています。腸結石が発見された症例では、腹腔の背腹側&頭尾側方向に対する石の位置、馬体の左右から撮影した像での石の大きさを比較して、結石の停滞部位を出来るだけ正確に推測して、手術時間と外科侵襲を最小限にすることも重要です。

大結腸に砂の貯留(Sand accumulation)を起こして慢性下痢症(Chronic diarrhea)などの症状を呈した症例においては、聴診(Auscultation)や腹腔超音波検査(Abdominal ultrasonography)によっても砂の存在を推測することは可能ですが、砂の量の判定には腹腔レントゲン検査が最も有用であると考えられています。このため、糞便の沈渣試験で砂の存在が確認された症例では、メタムシル(=Psyllium hydrophilic mucilloid)の経口投与や粗飼料(Roughage feeding)の給餌量増加などの内科的治療に併行して、数ヶ月~一年にわたる経時的な腹腔レントゲン検査を介して、貯留している砂の減少度合いを慎重にモニタリングすることが推奨されています。
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馬の疝痛検査シリーズ
馬の疝痛検査1:視診と聴診
馬の疝痛検査2:胃カテーテル
馬の疝痛検査3:直腸検査
馬の疝痛検査4:腹腔超音波
馬の疝痛検査5:腹水検査
馬の疝痛検査6:腹腔X線検査