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馬の神経学検査 その1

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精神状態および行動の検査について

小動物と比較した場合、馬は体が大きく犬猫ほどの従順さを持たないため、一般的な神経学検査においては、精神状態(Mentation)&行動(Behavior)の観察や、歩様(Gait)および姿勢反応(Postural reaction)の検査などの取扱いの簡易なものから開始して、脳神経試験(Cranial nerve test)等の細かい用手操作を要する検査へと進んでいくことが推奨されます。また、極めて稀ではありますが、狂犬病(Rabies)に羅患した馬に遭遇することもあるため、患馬の精神状態や行動様式の観察を第一段階に行うことを通例化する事で、鑑別診断を早期に行うことができ、万が一の場合に狂犬病ウイルスに暴露する人員および時間を最小限にできる点も重要です。

精神状態の異常は、周囲の環境に対する患馬の反応を観察することで評価されます。精神的認識度の減退(Decreased mental awareness)を呈した症例では、曳き手や獣医師の動作に無関心で、倦怠感(Lassitude)、鈍麻(Obtundation)、沈鬱(Depression)、痙攣(Convulsion)、頭部を挙げたがらない仕草、頭部を壁にもたれ掛ける仕草などの症状が見られ、病状の悪化に伴って昏迷(Stupor)や昏睡(Coma)を呈します。逆に、精神的認識度の亢進(Increased mental awareness)を呈した症例では、大脳辺縁系(Limbic system)の異常が示唆され、過剰興奮性(Hyperexcitability)、激怒(Rage)、好戦性(Belligerency)、馬房壁を蹴る仕草などの症状が見られます。 

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精神状態の異常は、大脳皮質(Cerebral cortex)もしくは上行性網様体賦活系(Ascending reticular activating system: ARAS)の損傷によって引き起こされます。大脳皮質は意識内容(Content of consciousness)を調節し、ARASは意識水準(Level of consciousness)を調節しているため、大脳皮質異常に比べてARAS異常の方が、昏睡などの重篤な沈鬱精神状態(Profound depression of consciousness)を起こすことが多いと言われています。またARAS異常では中脳区域(Midbrain segment)の損傷を併発している場合が多く、瞳孔散大(Pupillary dilation)や眼球回頭反射の喪失(Loss of oculocephalic reflexes)などの症状が観察されます。

癲癇発作(Seizure)は、大脳皮質の異常を起こした場合や毒物摂取による全身性症状の一つとして見られます。癲癇はその病状に応じて、意識喪失(Loss of consciousness)と不随意性運動器活動(Involuntary motor activities)を起こす場合(全身性癲癇発作:Generalized seizures)、意識は正常なままで局在性(Localized)の不随意性運動器活動を起こす場合(限局性癲癇発作:Focal seizures)、頭部振戦(Head tremor)などの局在性の不随意性運動器活動に引き続いて意識喪失と全身性の不随意性運動器活動を起こす場合(限局性癲癇発作に続発する全身性発作:Focal seizures with secondary generalization)の三つに分類されます。癲癇の発作後期間(Postictal phase)においては、嗜眠(Lethargy)、焦燥感(Restlessness)、不安症(Anxiety)などが見られ、この時期に他の神経症状の発現を確認することで、大脳皮質の異常による癲癇と毒物摂取による癲癇を鑑別診断する手助けとなる場合もあります。

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脱力発作(Cataplexy)とは、急性発現性(Acute onset)に睡眠状態に陥る病態を指し、横紋筋の完全麻痺(Complete paralysis of striated muscles)や虚脱(Collapse)を起こすため、癲癇発作と類似の臨告が示される場合もありますが、慎重に臨床症状を観察して不随意性の運動器活動が生じていない事を確認することで鑑別診断が下されます。

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馬の神経学検査シリーズ
馬の神経学検査 その1
馬の神経学検査 その2
馬の神経学検査 その3
馬の神経学検査 その4






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Author:Rowdy Pony
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性別: 男性
年齢: 40代
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