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馬の神経学検査2:歩様検査

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歩様検査および姿勢反応検査について

神経症状を示す症例における歩様検査(Gait evaluation)では、固有受容性欠陥(Proprioceptive deficit)の診断のため、直進、小径円運動、後退、障害物を跨がせる、傾斜を上り下りさせる、頭部を挙上させて歩かせる、などの動きをさせてその歩様を観察します。また筋虚弱(Muscle weakness)の診断のためには、直進の常歩をしながら尾を横方向に引っぱり(引く側の後肢が着地した状態で)、よろめき具合を観察します。

固有受容性欠陥を呈した馬での小径円運動では、外方後肢を大きく円運動させる肢運び(Circumduction)、内方後肢を挙上せず軸回転させる仕草(Pivoting)、左右後肢の蹄がぶつかり合う模様(Interfere between feet)などが観察されます。また障害物を跨ぐ際には、つまずき(Stumbling, Tripping)や必要以上に高く後肢を持ち上げて跨ぐ仕草が見られ、傾斜の上り下り時には、さらに頻繁につまずく仕草が見られます。頭部を挙上させた状態での常歩では、後肢のスムーズな運びが乱れたり、側対歩(Pacing)を示すこともあります。筋虚弱を呈した馬では、直進時に蹄を引きずる仕草や(Toe-dragging)、常歩時に尾を引っぱる事で過剰なよろめきを示し、後退時に正常よりも左右に広い歩幅を取ったり(Wide-base limb positioning)、後退や傾斜の上り下りを異常に拒絶する仕草が見られる事もあります。

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一般に歩様異常の重篤度の記述には、以下の段階評価法(Grading system)が用いられます。
グレード0:正常歩様
グレード1:慎重な歩様の観察を要する極めて僅かな歩様異常
グレード2:殆どの観察者に認知可能な中程度の歩様異常
グレード3:極めて明らかな重度の歩様異常で、傾斜や頭部挙上によって悪化が見られる場合
グレード4:よろめきを呈する重篤な歩様異常で、起立時にも異常な踏着位置が見られる場合
グレード5:起立不能

姿勢反応検査(Posture reaction evaluation)は、固有受容性欠陥の診断のために有効な手法で、起立状態で片方の前肢または後肢を持ち上げて正常踏着位置よりも外側に移動させたり、正中線を越えて反対側の前肢・後肢の前方に移動させて、患馬の反応を観察します。神経症状を示す馬では、正常踏着位置へと肢を戻すのに長時間を要したり、正常位置よりも過剰に内方または外方に肢を戻す、などの仕草が観察されます。

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神経器異常に起因する後肢の歩様異常は、運動器疾患に起因する跛行と混同される事もありますが、疼痛による跛行は、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)によって局所の無痛化を施して歩様が変化することを観察する事で鑑別診断が下されます。また、疼痛を生じない機械性跛行(Mechanical lameness)を生じる、鶏跛(Stringhalt)、線維化筋症(Fibrotic myopathy)、膝蓋骨上方固定(Patella upward fixation)などとの鑑別診断においては、飛節と膝関節の不随意性過剰屈曲(Involuntary exaggerated hyperflexion)(=鶏跛)、雁様踏着(Goose-step)(=線維化筋症)、速歩時には歩様異常が消失する(=膝蓋骨上方固定)などの特徴的所見を観察することが重要です。また一般的に言って、運動器疾患に起因する跛行が規則的な不規則性(Regularly irregular gait deficits)を示すのに対して、神経器疾患に起因する歩行失調は不規則な不規則性(Irregularly irregular gait deficits)を示すことが提唱されています。

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