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馬の神経学検査 その4

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脳脊髄液検査(Cerebrospinal fluid analysis)について

脳脊髄液は、脳組織の細胞外液(Brain extracellular fluid)に由来し、その成分は髄腔内環境(Intrathecal milieu)の指標として神経器疾患の診断に有用です。馬の脳脊髄液は、大槽部採液(Cisterna magna tap)または腰仙脊髄部採液(Lumbosacral spinal tap)によって採取可能です。脳脊髄液は髄腔内を脳から尾方へと流れていくため、大槽部採液では脳組織疾患の診断指標とはなりますが、頚椎から尾方での脊髄疾患の検査としてはあまり有用ではありません。また、腰仙脊髄部採液は起立位での実施が可能であるのに対して、大槽部採液は全身麻酔(General anesthesia)が必要で、また頭蓋内圧上昇(Increased intracranial pressure)が生じている場合には、大後頭孔(Foramen magnum)からの脳ヘルニア(Brain herniation)を起こす危険があるため、実施は禁忌とされています。

大槽部採液では、全身麻酔下での横臥位(Lateral recumbency)において首を屈曲させた状態で、環椎後頭関節(Atlantooccipital joint)の背側頚部に脊髄針(Spinal needle)を穿刺します。針の挿入部位は、環椎翼の頭側縁(Cranial edges of atlas wings)を結んだ線と正中線(Midline)との交差点が最善とされ、皮膚に対して垂直に穿刺した後、馬の鼻先を狙うかたちで針を伸展させ、多くの場合に皮膚から約6cmの深さで脳脊髄液を採取できます。また、超音波誘導(Ultrasound-guide)を用いて、より正確に大槽部への穿孔を行う手法も試みられています。

腰仙脊髄部採液では、枠場内で馬を軽度に鎮静した後、第六腰椎(Sixth lumber vertebrae)と第一仙椎(First sacral vertebrae)のあいだの正中線上で、左右の仙結節(Tuber sacrale)の中間点の皮膚を剃毛、消毒、局所麻酔した後、脊髄針を穿刺します。針が髄腔内へと達した際には、弓間靭帯(Interarcuate ligament)を穿通した瞬間に針先が弾かれる感触(Snapping sensation)がある場合もあり、多くの場合に皮膚から約18cmの深さで脳脊髄液を採取できます。この際には、頚静脈(Jugular vein)は圧迫することで、腹側椎骨神経叢の怒張(Ventral vertebral plexus engorgement)が起こり、脳脊髄液圧が上昇して、採液が容易となる事もあります(頚椎部での脊髄狭窄が起きた場合も除いて)。

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髄腔内での出血においては、脳脊髄液の赤色化(数日以内の出血の場合)または黄色化(Xanthochromia)または茶色化(数日以上を経た場合)を呈し、変色が液中に均一でなかったり、吸引するにつれて変色が消失したりする場合には、医原性の血液混入(Iatrogenic blood contamination)であると考えられます。髄腔内での炎症においては、蛋白濃度の上昇(正常値:5~100mg/dL)、白血球数の増加(正常値:0~6 WBCs/dL)などが見られます。一般に蛋白濃度は、大槽部での採液よりも腰仙脊髄部での採液の方が僅かに高い傾向にあり、もしこの差が25mg/dL以上の場合には、疾患部位は高値を示した採液部位に近い可能性があります。脳脊髄液の混濁化が見られた場合には、重度の白血球数増加(>200 WBCs/dL)や細菌または真菌の増殖などが疑われます。

脳脊髄液中のアルブミン商(Albumin quotient: [CSF albumin÷Serum albumin]×100)が上昇した場合には(正常値:1.0~2.0)、血液脳関門の漏出(Blood-brain barrier leakage)または脳脊髄液への血液混入(Blood contamination)が疑われ、特に馬原虫性脊髄脳炎(Equine protozoal myeloencephalitis)の診断において、脳脊髄液中のS. neurona抗体の陽性反応を調べる際に重要です(アルブミン商が高い場合には偽陽性を示すため)。また、免疫グロブリンG指数(IgG index: [CSF IgG÷Serum IgG]×[Serum albumin÷CSF albumin])が上昇した場合には(正常値:0.12~0.27)、髄腔内での免疫グロブリンG生成(Intrathecal IgG production)または中枢神経組織の感染症(Infectious diseases of central nerve system)が疑われます。退行性脊髄疾患の症例では(原虫性脊髄脳炎、多発神経炎、運動ニューロン疾患、変性脊髄脳炎、etc)、CK濃度の上昇が起こり、特に高濃度(>1 IU/L)の場合には原虫性脊髄脳炎の可能性が大きいことが示唆されています。細菌性髄膜炎(Bacterial meningitis)の症例ではグルコース濃度の減少が見られます。また、東部馬脳炎(Eastern equine encephalitis)、頭部外傷(Head trauma)、脳膿瘍(Brain abscess)などの症例では、脳脊髄液中の乳酸濃度(Lactic acid concentration)の上昇を示すことも報告されています。

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馬の神経学検査シリーズ
馬の神経学検査 その1
馬の神経学検査 その2
馬の神経学検査 その3
馬の神経学検査 その4







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