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馬の文献:喉嚢蓄膿症(Gehlen et al. 2005)

「喉嚢内の類軟骨の治療のため正中隔壁のレーザー造窓術が行われたポニーの一症例」
Gehlen H, Ohnesorge B. Laser fenestration of the mesial septum for treatment of guttural pouch chondroids in a pony. Vet Surg. 2005; 34(4): 383-386.

この研究論文では、喉嚢蓄膿症(Guttural pouch empyema)に起因する喉嚢内の類軟骨(Chondroids)の治療のため、正中隔壁(Mesial septum)のレーザー造窓術(Laser fenestration)が行われたポニーの一症例が報告されています。

患馬は、十六歳齢のウェルシュポニーの去勢馬(Gelding)で、数年間にわたる鼻汁排出(Nasal discharge)の病歴で来院し、左側の耳下腺領域(Parotid region)における腫脹が認められました。内視鏡検査(Endoscopy)では、左側喉嚢の膨満(Distension)に起因する左側咽頭部の腹内側圧迫(Ventromedial compression)が見られましたが、左側の咽頭開口部(Pharyngeal orifice)からの進入は困難であり、右側喉嚢からの視診では、正中隔壁の肥厚化および変位(Thickening and deviation)が認められました。そして、レントゲン検査(Radiography)では、左側喉嚢における多数の類軟骨の形成が示されました。

治療としては、枠場(Stocks)の中で鎮静(Sedation)および保定(Restraint)された後、右側喉嚢内へと進展させた内視鏡を介してNd:YAGレーザー(ネオジウム・ヤグ・レーザー:Neodymium:yttrium-aluminum-garnet laser)を挿入して、レーザー焼烙(Laser ablation)によって左右の喉嚢のあいだの正中隔壁に、直径15cmの造窓術が実施されました。そして、右側喉嚢から正中隔壁の造窓部を通して左側喉嚢へとアプローチする事で、ワイヤースネアーを用いた類軟骨の摘出が、六回の手術に分けて行われました。その後は、内視鏡を介した喉嚢洗浄(Guttural pouch lavage)が実施され、患馬は一週間後に退院しました。

患馬は、良好な予後(Good prognosis)を示し、二ヶ月後の内視鏡による再検査では、造窓部の連絡路は残存しており、左側の喉嚢内には少量の浸出物が認められたものの、左側喉嚢→右側喉嚢→右側咽頭開口部という、排液路(Drainage tract)が確立されていた事から、それ以上の喉嚢洗浄は要しませんでした。そして、患馬は症状再発(Recurrence of clinical signs)を起こすことなく、術後の八ヶ月目から意図した用途への使役(Intended use)に復帰したことが報告されています。このため、喉嚢蓄膿症の症例において、慢性経過に伴う罹患側の喉嚢開口部の通過障害(Obstruction of guttural pouch opening)が認められた場合には、レーザー造窓術によって反対側の喉嚢からの類軟骨摘出、および排液路の形成を施すことで、十分な病巣治癒と良好な予後が期待できることが示唆されました。

一般的に、馬の喉嚢蓄膿症において、罹患側の咽頭開口部が閉塞してしまった場合には、ホワイトハウス変法(Modified Whitehouse approach)、ヴァイボーグ三角域(Viborg’s triangle region)の切開、環椎翼(Wing of atlas)の頭側を切開するアプローチ法(鼻骨椎骨部切開術:“Hyovertebrotomy”)、等の術式を介した外科的療法が必要になる場合が殆どです。しかし、これらの手法では、外科的侵襲(Surgical invasion)の高さから、嚥下障害(Dysphagia)や脳神経の医原性損傷(Iatrogenic damage to cranial nerves)などの術後合併症(Post-operative complications)が引き起こされる危険性が大きい、という知見が示されています(Freeman. Equine Surgery. 1999:372)。

今回の研究で応用された術式では、通常の外科的治療と異なり、全身麻酔(General anesthesia)を要することなく、罹患側の喉嚢における脳神経損傷の危険性を抑えられるという利点があり、同様の術式は、喉嚢鼓張症(Guttural pouch tympany)の罹患馬にも試みられ、比較的に良好な治療成績が示されています(Tate et al. Vet Surg. 1995;24:367, Ohnesorge et al. Tierarztl Prax. 2001;29:45)。また、他の文献では、レーザー焼烙を介して、罹患側の喉嚢から咽頭内へと瘻孔形成させる術式も報告されていますが(Hawkins et al. JAVMA. 2001;218:405)、この場合には、瘻孔が存在することで上部気道の動的平衡(Upper airway dynamic equilibrium)が阻害されてしまい、競走能力に有害作用(Adverse effect on racing performance)を及ぼす可能性は否定できない(特に、高速運動を要するサラブレッド競走馬において)、という考察がなされています。

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