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厩舎火災で馬を避難させる5つのコツ

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厩舎の火災では多くの馬達が命を落としています。

人間と民家と異なり、厩舎にはオガや乾草など燃えやすいものが多く、また、人間の就寝場所と少し離れていると、どうしても火災を発見するのが遅れがちになります。厩舎に火災が発生した場合には、多くの馬が馬房を出るのを拒否して焼け死んでしまうことが知られています。また、火災による馬の直接の死因は火傷ではなく、煙の吸引による窒息死であると考えられており、騒然とする火災現場の状況に怯えたり驚いたりした馬達は、呼吸数の増加から煙の吸引による弊害を受け易いことが示唆されています。ここでは、実際の厩舎火災が起こったときに、安全に馬を避難させるコツをまとめてみます。

参考資料:
The Horse Staff. 10 Barn Fire and Wildfire Resources from TheHorse. Topics, Emergency Planning, Farm and Barn, Sep14, 2020.
Alayne Blickle. Firewise Tips for Horse Owners. The Horse, Topics, Disaster Preparation, Farm and Barn, Jul2, 2013.
Laurie Loveman. Fire Safety In Barns: Evacuating Your Barn In A Fire.
Elaine Pascoe. Barn Fire! Find out how you can protect your horses, whether you're a barn owner or boarder. Practical Horseman, Jun25, 2012.
What to Do in Case of a Barn Fire. Horse Illustrated, Stable Management, Horse Barns, Nov30, 2006.



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馬を避難させるコツ1:避難させやすい馬から順に避難させる

一般的に、火災現場での火の回る速度は、時間の指数に比例して増していくことから、数十頭規模の厩舎では、全焼するのに6~10分間しか掛からない場合も多いことが知られています。一方で、一頭の馬に無口を装着して安全な場所まで連れ出すには、少なくとも一分以上を要すると考えられます。このため、飼養馬の全頭を助け出す時間は無いかもしれない可能性を考慮して、確実に救出できる馬から順に避難させる、という指針が提唱されています。

また、ホースマンにとって、難しい決断を迫られるのは、燃えさかる厩舎から出るのを拒否する馬がいた時です。頑固な性格の馬や、高齢馬にはその傾向があるとも言われています。その場合、素早く連れ出せる馬を優先して避難させ、馬房から出るのを拒否する馬は後回しにする、という判断が必要になってきます。



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馬を避難させるコツ2:厩舎外に出した馬は柵などに繋ぐ

外に連れ出した馬を自由にさせてしまうと、興奮して走り回った馬が怪我をしたり、馬の習性からラチを飛び越えてでも馬房に戻ろうとする可能性があります。このため、厩舎外に出した馬は、必ず柵に曳き手で繋ぐことが大切だと言われています。米国ケンタッキー州でのある厩舎火災では、放牧場にいた二十数頭の馬が、燃え上がる厩舎の馬房に“逃げ戻る”行動を取ったため、その全頭が焼死したという事例も報告されています。このため、馬を避難させた後の馬房の扉、および、退避が終わった厩舎の出入り口を閉じることも忘れてはいけないと言われています。



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馬を避難させるコツ3:目隠しの使用は極めて慎重に

厩舎から馬を避難させる時に、馬に目隠しをすることで、よりスムーズに馬房から連れ出すことが出来る、という考え方もあるのかもしれませんが、火災によって怯えてしまった馬にさらに目隠しをすることで、コントロールが効かなくなって、その馬のみならず曳き手の厩務員までも怪我を負う危険性が指摘されています。このため、馬に目隠しを着けるのは、その馬が落ち着いている場合のみにすることが推奨されています。



馬を避難させるコツ4:馬の避難計画を立てておく

普段から、厩舎火災に備えて、どの避難場所(放牧地、パドック、馬場など)にどの馬を連れて行くのか、および、馬を避難させる順番などを計画立てておくのが有用です。迅速な避難のため(上記のコツ1を参照)、各馬のハンドリングの難しさを鑑みて、避難させる順番を前もって検討しておくことが有用です。また、性格が臆病で、暴れてしまう馬は、避難後に柵に繋いでおく(上記のコツ2を参照)のが難しいため、一頭立てのパドック柵の中に入れる等の方針を決めておきます。さらに、避難に備えて、馬房扉に無口と曳き手を常備しておく(出来れば予備も置いておく)のも大切です。



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馬を避難させるコツ5:馬の避難訓練をしておく

普段から、厩舎火災に備えて、避難に関わる幾つかの要素を訓練しておくのも一案です。もし、そっぱる気性がある馬では、避難させる際、柵につないでおく(上記のコツ2を参照)のが難しくなります。このため、普段から、騎乗後の手入れの時などに、馬場や放牧地の柵に曳き手1本で繋がれることに慣れさせておくと、避難のときに役立つかもしれません。また、特殊な状況として、放牧地に面した場所にある厩舎では、全馬房の扉を開け放って、全頭を一斉に放牧地へ追い出すという方法も可能です。普段から、馬群管理の一手法として、このやり方に馬を慣らしておくことで、馬が冷静に集団避難できるようになる場合もあります。



もちろん、厩舎火災は、その発生自体を予防することが重要です。火災防止のポイントとしては、厩舎および周辺を禁煙とすること、ワラや乾草などの燃え易いものは可能な限り別の建物に貯蔵すること、電気機器(換気扇、ヒーター、暖房ランプ等)の管理を徹底すること、全ての電球を金網で覆って発火を防ぐこと、落雷時に電気柵の変圧器から発火する危険があるため、変圧器にアースを設置すること、等の予防策が示されています。

ホースマン達の努力によって、厩舎火災の犠牲となる馬が一頭でも少なくなる事を願わずにはいられません。

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