馬のお腹に溜まった砂を出そう
馬の飼養管理 - 2022年08月04日 (木)

馬の砂疝に関する基本事項
砂疝とは、大腸の内部に砂が貯留して疝痛を起こす馬の病気です。病態としては、砂の粘膜刺激から大腸炎を起こして下痢を呈する場合や、砂がコシ網のように作用して食滞を起こして疼痛症状を呈する場合があります。いずれも、重篤化すると開腹術と結腸切開による砂摘出を要するため、砂の貯留を予防することが大切になってきます。また、砂粒にミネラルが沈着すると結石が形成されるため、腸結石症を防ぐためにも砂貯留の予防は有用です。
砂貯留の予防対策としては、砂粒の摂食を防ぐための飼養管理法の改善が第一となります。具体的には、砂が露出している場所での放牧を止めたり、放牧中は口カゴを装着させたり、もしくは、馬房に岩塩を設置する(馬がミネラルを欲して砂を舐めるのを防ぐ)などが挙げられます。ただ、これらの対策は全頭に必要な訳ではありませんので、糞便の沈殿検査を行なって、砂貯留が疑われる馬を見つけることが推奨されます。

馬の砂疝の内科治療
一方、内科的に砂を排出させる方法としては、サイリウムの投与が挙げられます。腸内容物の粘稠度を上げる作用があるサイリウムは、膨張性下剤(Bulk laxative)として機能することに加えて、5-HT4受容体刺激を介して腸管蠕動を亢進させる効果も期待されます。一方、浸透圧性瀉下薬(Osmotic cathartic)である硫酸マグネシウムを併用することで、サイリウムの砂排出作用が増強されるという知見も示されています。
結腸内に砂貯留が認められた馬に対するサイリウム投与では、良好な砂排出の効果が認められたという報告がある反面、管理方法を改善さえすれば、サイリウムの給餌群と対照群で、砂排出の度合いに有意差は無かった、という知見も示されています。この理由としては、此処の馬の腸管蠕動の度合いや、腸内環境などの諸要因が関与していると推測されており、サイリウムによる砂排出には、個体差が大きいことが知られています。
馬へのサイリウム投与
砂疝の治療目的としては、約500gのサイリウムの投与が行なわれ(体重[BW]500kgの馬の場合)、色々な種類のサイリウムが市販されています。通常給餌する場合には、サイリウム500g(1g/kg-BW)を飼料添加するのを、10日間以上続けるというプロトコルが示されています。一方で、強制給餌する場合は、サイリウム500g(1g/kg-BW)と硫酸マグネシウム500g(1g/kg-BW)を、水7.5L(15cc/kg-BW)に溶解して、経鼻チューブで投与され、それを四日間連続するプロトコルが示されています。通常、砂疝によると思われる疝痛症状が頻発していたり、腹部レントゲンで非常に多量の砂貯留が確認された時には、迅速な砂排出を試みるため、経鼻チューブによる強制給餌が選択されます。また、サイリウム添加で飼料の嗜好性が落ちて、完食しなくなった馬に対しても、経鼻チューブによる投与が行なわれる事もあります。
砂疝の予防目的としては、約150gのサイリウムの投与が行なわれます(体重500kgの馬の場合)。この場合には、自発給餌として、サイリウム150g(0.3g/kg-BW)を飼料添加するのを、5日間以上続けるというプロトコルが示されています。この投与量では、砂貯留を継続的に予防する他にも、サイリウムを摂取した馬の腸内細菌叢は、機能的に優れていたという知見が示されました。つまり、サイリウムの飼料添加は、腸内細菌改善剤(プレバイオティック)として作用していると考えられます。

砂疝に関して重要なこと
馬によっては、寄生虫感染などで腸の動きが悪くなった箇所があると、そこに砂が溜まり易くなりますが、そのような場所は、腸蠕動機能も低いことから、サイリウム投与しても砂が排出されにくいと考えられます。また、非常に多量の砂が溜まってしまったり、高齢になって腸蠕動が自然低下したり、また、溜まった砂で腸壁が損傷を受けてしまった場合なども、やはり、サイリウム投与による砂排出が達成されにくくなります。
馬の重篤な砂疝を未然に防ぐためには、定期的に糞便の沈殿試験を行なって、砂貯留が疑われる馬を早期に見つけて、飼養環境の改善や内科的治療を早期に開始することが重要であると言えるでしょう。
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注意事項
一般的に、サプリメントは薬品と異なり、健康維持の効能のみを有し、病気の治療効果は示されていないため、獣医師の処方箋が不要であり、また、製品認可のときの科学的エビデンスも限定的であるという点に注意が必要です。このため、各馬の健康状態について獣医師の診断を仰ぎ、医学的な加療は不要であることを確認した上で、サプリの選別および飼料添加方針について指導を受けることが推奨されます。
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