馬の病気:手根管症候群
馬の運動器病 - 2013年08月23日 (金)

手根管症候群(Carpal canal syndrome)について。
手根管(Carpal canal)という滑液嚢(Bursa)の内部に位置する骨組織および軟部組織の異常に起因して、屈筋支帯刺激(Flexor retinaculum irritation)や、手根管滑液増量および腫脹(Increased synovial fluid and swelling)を呈する疾患です。手根管症候群においては、手根管の腫脹による神経脈管束(Neurovascular band)の圧迫と血流減少を介して、疼痛を生じることが示唆されています。手根管症候群の病因(および病態)としては、遠位橈骨骨軟骨腫(Distal radial osteochondroma)、深肢屈筋腱炎(Deep digital flexor tendinitis)、副手根骨骨折(Accessory carpal bone fracture)、上位支持靭帯炎(Superior check ligament desmitis)などが挙げられています。
手根管症候群の症状としては、軽度の間欠性跛行(Intermittent lameness)と外掌側橈骨での手根管の膨満(Carpal canal effusion)が見られます。手根管症候群の診断に際しては、レントゲン検査(Radiography)による骨軟骨腫および副手根骨骨折の発見、超音波検査(Ultrasonography)による深肢屈筋腱炎と上位支持靭帯炎の発見が試みられますが、跛行との因果関係(Causality)を証明するには、手根管の滑液嚢麻酔(Intra-synovial anesthesia)によって、跛行改善または消失(Improvement/Elimination of lameness)を確認することが必須です。また、手根管滑液を採取して、蛋白濃度上昇、白血球数増加、赤血球数増加(Increased protein concentration, WBC counts, and RBC counts)などを検査することも重要です。触診においては、骨軟骨腫と副手根骨骨折を触知できる場合もあり、また近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の下部において、肢動脈拍動の減退(Reduced digital pulse)が認められる症例もあります。そして、副手根骨骨折に起因する病態では、手根関節の屈伸展に際して捻髪音(Crepitation)の聴診を試みます。
手根管症候群における疼痛は、主に屈筋支帯刺激と手根管腫脹に起因するため、屈筋支帯切開術(Flexor retinaculum resection)を介して、手根管の緊張減退(Tension release)が施されます。手根管内へのコルチコステロイド注射は一過性の効果(Transient effect)しか無いため、副手根骨骨折および上位支持靭帯炎が起きていない事が確かめられた場合にのみ実施することが推奨されています。副手根骨骨折に起因する症例では、螺子固定術(Lag screw fixation)を用いての外科的整復も可能です。遠位橈骨骨軟骨腫に起因する症例では、関節鏡手術(Arthroscopy)を用いての、骨軟骨腫の外科的切除(Surgical removal)と病巣清掃(Debridement)が行われます。
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