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馬の文献:喉嚢蓄膿症(Perkins et al. 2006)

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「十頭の馬における喉嚢内の濃縮浸出物(類軟骨)に対する起立位での外科的摘出」
Perkins JD, Schumacher J, Kelly G, Gomez JH, Schumacher J. Standing surgical removal of inspissated guttural pouch exudate (chondroids) in ten horses. Vet Surg. 2006; 35(7): 658-662.

この研究論文では、喉嚢蓄膿症(Guttural pouch empyema)に起因する喉嚢内の濃縮浸出物(Inspissated exudate)(類軟骨:Chondroids)に有用な治療法を検討するため、2001~2005年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)およびレントゲン検査(Radiography)で類軟骨形成の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)でのホワイトハウス変法(Modified Whitehouse method)を介しての外科的摘出(Surgical removal)が行われた十頭の馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

この研究の術式では、枠場(Stocks)の中で鎮静(Sedation)および保定(Restraint)された後、下顎垂直縁(Vertical ramus of mandible)と胸骨頭筋腱(Sternocephalicus muscle)のあいだで、舌顔面静脈(Linguofacial vein)の腹側部を局所麻酔(Local anesthesia)してから、この部位において舌顔面静脈と平行になるように皮膚切開創(Skin incision)が設けられました。次に、頚静脈(Jugular vein)に対する肩甲舌骨筋(Omohyoideus muscle)の筋膜付着部(Fascial attachment)を切開してから、喉頭より外側になる筋膜を吻背側方向へと剥離(The fascial plane lateral to the larynx was separated in a rostrodorsal direction)することで、茎突舌骨(Stylohyoid bone)の内側に、喉嚢の内側区画壁(Medial component of guttural pouch)が触知されました。そして、この喉嚢内側区画への切開創を設けてから、喉嚢の内部から内視鏡で視診しながら、スポンジ鉗子を使って類軟骨が摘出され、茎突舌骨に邪魔されて鉗子が届きにくい外側区画(Lateral component)に存在する類軟骨は、内視鏡端を使って内側区画へと移動させてから摘出されました。その後は、喉嚢洗浄(Guttural pouch lavage)を行ってから、Foleyカテーテルを留置して、皮膚切開創は二次的治癒(Second intention healing)での閉鎖が促されました。

結果としては、十頭の全ての症例において、起立位でのホワイトハウス変法によって、全ての類軟骨が外科的摘出され、術中における顕著な疼痛や不快感(Intra-operative obvious pain/discomfoet)を示した馬はありませんでした。術後には、十頭のうち八頭の症例は、臨床症状を再発(Recurrence of clinical signs)することなく、手術前と同レベルの能力まで回復(Returned to their previous level of athletic activity)したことが報告されています。また、他の二頭の症例のうち一頭は、術前に認められた嚥下障害(Dysphagia)の症状が完治せず安楽死(Euthanasia)が選択され、残りの一頭は、術後の一週間目に斃死(原因不明)しました。以上の治療成績から、喉嚢蓄膿症に起因して喉嚢内に類軟骨が形成された患馬に対しては、起立位手術でのホワイトハウス変法を介した外科的摘出によって、充分な原発病巣の治癒(Adequate healing of primary lesions)が期待され、良好な予後を示す馬の割合が比較的に高い(完治率:80%)ことが示唆されました。

一般的に、喉嚢蓄膿症および類軟骨形成を呈した馬において、内科的療法に不応性(Refractory)を示したり、喉嚢の咽頭開口部が閉塞(Obstruction)された場合には、外科的療法による浸出物の排出&摘出を要することが知られています。そして、喉嚢への外科的アプローチとしては、ホワイトハウス変法の他にも、ヴァイボーグ三角域(Viborg’s triangle region)の切開や、環椎翼(Wing of atlas)の頭側を切開する術式(鼻骨椎骨部切開術:“Hyovertebrotomy”)などが応用される事もあります(Baker. Eq Med & Surg. 1972:780, Schneider. Textbook of LA Surg. 1974:340, Hayes. The Practice of Eq Surg. 1984:388, Freeman. Eq Resp Disorders. 1991:305, Barber. Eq Med & Surg. 1999:501, Hardy and Leveille. Vet Clin Eq. 2003;19:123)。

今回の研究では、ホワイトハウス変法によって類軟骨を摘出する手法は、起立位での実施も可能であることが示され、全身麻酔(General anesthesia)のための設備や費用を要しないという長所が挙げられています。しかし、喉嚢内には重要な動脈や脳神経(Vital arteries and cranial nerves)が走行しているため、起立位手術の最中に馬が暴れる危険性が心配される症例に対しては(神経損傷や、多量の出血を起こす可能性がある場合)、全身麻酔下での施術を選択するほうが賢明な場合もあるのかもしれません。また、他の文献では、レーザー焼烙(Laser ablation)を介して喉嚢から咽頭への瘻孔形成(Fistulation)を施す手法も報告されており(Hawkins et al. JAVMA. 2001;218:405)、今回のような起立位でのホワイトハウス変法と比べた場合の治療効果については、更なる検討を要すると考えられました。

この研究におけるホワイトハウス変法では、喉嚢内側区画の尾腹側部(Caudoventral aspect)を切開する際に、喉嚢が膨満している場合にはそのまま切開されましたが、膨満していなかった場合には、馬の首を伸展させた状態で、助手が鼻咽頭開口部(Nasopharyngeal orifice)から喉嚢内にカテーテルを挿入し、術者がそのカテーテル先端を触診することで、正確な位置への切開が行われました。一般的に、喉嚢への外科的アプローチに際しては、重要な動脈や脳神経の医原性損傷(Iatrogenic damage)を引き起こす危険性が指摘されており(Hayes. The Practice of Eq Surg. 1984:388, Freeman. Eq Resp Disorders. 1991:305, Mansmann and Wheat. Proc AAEP. 1972;18:337)、今回の研究でも、動脈および神経組織を避けながら喉嚢壁を切開するため、細心の注意が払われていました。

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