馬の文献:喉嚢蓄膿症(Schaaf et al. 2006)
文献 - 2022年08月11日 (木)
「広範囲にわたる喉嚢内の類軟骨形成に対する外科的療法が応用されたウォームブラッドの一症例」
Schaaf KL, Kannegieter NJ, Lovell DK. Surgical treatment of extensive chondroid formation in the guttural pouch of a Warmblood horse. Aust Vet J. 2006; 84(8): 297-300.
この研究論文では、喉嚢(Guttural pouch)の内部での、広範囲にわたる類軟骨形成(Extensive chondroid formation)に対する外科的療法(Surgical treatment)が応用された馬の一症例が報告されています。
患馬は、三歳齢のウォームブラッドのメス子馬(Filly)で、慢性の膿性鼻汁排出(Chronic purulent nasal discharge)の病歴で来院し、全身性の抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)には不応性(Refractory)を示していました。そして、内視鏡検査(Endoscopy)およびレントゲン検査(Radiography)では、喉嚢内の蓄膿(Empyema)と、二百個以上に及ぶ多量の類軟骨の形成が確認されました。
治療では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での鼻骨椎骨部切開術(Hyovertebrotomy)によるアプローチを介して、類軟骨の摘出および喉嚢洗浄(Guttural pouch lavage)が実施されました。患馬は、術後合併症(Post-operative complications)を起こすことなく、極めて良好な予後を示し、手術から三年間にわたる長期経過追跡(Long-term follow-up)においても、臨床症状の再発(Recurrence of clinical signs)は見られなかった事が報告されています。
一般的に、馬の喉嚢に対する外科的切開法としては、Hyovertebrotomyの他にも、ホワイトハウス変法(Modified Whitehouse method)やヴァイボーグ三角域(Viborg’s triangle region)の切開、等の術式が報告されています。しかし、いずれの手法においても、脳神経の医原性損傷(Iatrogenic damage of cranial nerves)などの合併症を引き起こす危険性が排除できないため、馬の喉嚢蓄膿症(Guttural pouch empyema)および類軟骨形成の診療においては、内科的療法に難治性を示したり、喉嚢の咽頭開口部が閉塞(Obstruction of pharyngeal orifice)されている場合に限り、外科的療法に踏み切るべきである、という提唱がなされています。
また、外部からの外科的切開を要しない治療法としては、内視鏡を介したアプローチ後、ワイヤー器具を用いて類軟骨を掴み出したり、レーザー焼烙によって咽頭部へと排出路を設ける手法も試みられています。しかし、今回の症例では、非常に広範囲かつ多数の類軟骨の形成が認められた事から、よりアグレッシブな治療指針として、鼻骨椎骨部切開術の応用が選択されましたが、上述のような合併症の危険を考慮して、喉嚢切開の時点では、重要な動脈や神経組織(Vital artery/nerve tissues)を傷付けないように細心の注意が払われた事が報告されています。
この研究では、喉嚢内に非常に多くの類軟骨が発見されたにも関わらず、臨床症状としての喉嚢の膨満(Distension)は認められておらず、外観的に腫脹していない事だけで、類軟骨形成を除外診断(Rule-out)するのは適当ではない、という警鐘が鳴らされています。また、今回の症例は、左側喉頭機能障害(Left laryngeal dysfunction)の症状も併発していましたが、これは、喉嚢の床部の沈下に伴う喉頭の腹側圧迫(Ventral compression)に起因すると推測され、喉嚢内の蓄膿や類軟骨による神経損傷が生じた可能性は低い、という考察がなされています。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:喉嚢蓄膿症
Schaaf KL, Kannegieter NJ, Lovell DK. Surgical treatment of extensive chondroid formation in the guttural pouch of a Warmblood horse. Aust Vet J. 2006; 84(8): 297-300.
この研究論文では、喉嚢(Guttural pouch)の内部での、広範囲にわたる類軟骨形成(Extensive chondroid formation)に対する外科的療法(Surgical treatment)が応用された馬の一症例が報告されています。
患馬は、三歳齢のウォームブラッドのメス子馬(Filly)で、慢性の膿性鼻汁排出(Chronic purulent nasal discharge)の病歴で来院し、全身性の抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)には不応性(Refractory)を示していました。そして、内視鏡検査(Endoscopy)およびレントゲン検査(Radiography)では、喉嚢内の蓄膿(Empyema)と、二百個以上に及ぶ多量の類軟骨の形成が確認されました。
治療では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での鼻骨椎骨部切開術(Hyovertebrotomy)によるアプローチを介して、類軟骨の摘出および喉嚢洗浄(Guttural pouch lavage)が実施されました。患馬は、術後合併症(Post-operative complications)を起こすことなく、極めて良好な予後を示し、手術から三年間にわたる長期経過追跡(Long-term follow-up)においても、臨床症状の再発(Recurrence of clinical signs)は見られなかった事が報告されています。
一般的に、馬の喉嚢に対する外科的切開法としては、Hyovertebrotomyの他にも、ホワイトハウス変法(Modified Whitehouse method)やヴァイボーグ三角域(Viborg’s triangle region)の切開、等の術式が報告されています。しかし、いずれの手法においても、脳神経の医原性損傷(Iatrogenic damage of cranial nerves)などの合併症を引き起こす危険性が排除できないため、馬の喉嚢蓄膿症(Guttural pouch empyema)および類軟骨形成の診療においては、内科的療法に難治性を示したり、喉嚢の咽頭開口部が閉塞(Obstruction of pharyngeal orifice)されている場合に限り、外科的療法に踏み切るべきである、という提唱がなされています。
また、外部からの外科的切開を要しない治療法としては、内視鏡を介したアプローチ後、ワイヤー器具を用いて類軟骨を掴み出したり、レーザー焼烙によって咽頭部へと排出路を設ける手法も試みられています。しかし、今回の症例では、非常に広範囲かつ多数の類軟骨の形成が認められた事から、よりアグレッシブな治療指針として、鼻骨椎骨部切開術の応用が選択されましたが、上述のような合併症の危険を考慮して、喉嚢切開の時点では、重要な動脈や神経組織(Vital artery/nerve tissues)を傷付けないように細心の注意が払われた事が報告されています。
この研究では、喉嚢内に非常に多くの類軟骨が発見されたにも関わらず、臨床症状としての喉嚢の膨満(Distension)は認められておらず、外観的に腫脹していない事だけで、類軟骨形成を除外診断(Rule-out)するのは適当ではない、という警鐘が鳴らされています。また、今回の症例は、左側喉頭機能障害(Left laryngeal dysfunction)の症状も併発していましたが、これは、喉嚢の床部の沈下に伴う喉頭の腹側圧迫(Ventral compression)に起因すると推測され、喉嚢内の蓄膿や類軟骨による神経損傷が生じた可能性は低い、という考察がなされています。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:喉嚢蓄膿症