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熱射病の予防には競技前のクールダウン

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馬の熱射病を予防する方策として、競技前のクールダウンが推奨されています。

熱射病とは、暑熱や運動による体温上昇に、発汗による脱水が重なって、体温調節がうまく出来なくなり、深刻な健康障害をきたす病気を指します。馬においては、特に、総合馬術の野外走行競技においては、熱射病になる危険性が高いことが知られています。このため、この競技の開始前に馬体をクールダウンさせることで、熱射病の予防を図るという手法が提唱されています。

参考資料:
Lisa Klous, Esther Siegers, Jan van den Broek, Mireille Folkerts, Nicola Gerrett, Marianne Sloet van Oldruitenborgh-Oosterbaan, Carolien Munsters. Effects of Pre-Cooling on Thermophysiological Responses in Elite Eventing Horses. Animals (Basel). 2020; 10(9): 1664.
Tim Worden. Pre-cooling to manage heat stress in sport horses. Horse Network, Eventing, Horse Health: Jan20, 2021.



オランダの研究者が行なった検証では、総合馬術の競技馬10頭を用いて、野外走行の準備運動(約26分間)と、本番の競技(約21分間)のあいだに、馬体を流水でクールダウンさせる措置(プレクーリング:Pre-cooling)を8分間ほど実施しました。そして、その間の体温測定、血液検査、発汗性状評価などが行なわれました。

その結果、プレクーリングをした馬のほうが、本番の競技中における体温が有意に低くなっており(競技開始の20分後が特に顕著)、その際の発汗には影響を与えていませんでした。このため、総合馬術の競技馬では、野外走行の準備運動と本番のあいだにプレクーリング措置を取ることで、熱射病の予防につながると結論付けられています。

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一般的に、馬の熱射病を防ぐための措置としては、運動後に馬体を流水でクールダウンさせますが、競技中に重篤な高体温症となって、馬体の許容範囲を逸脱してしまうと、全身機能の障害を生み出す危険性があります。今回の研究で示されたプレクーリングでは、競技中の体温が上がりにくくなる現象が確認されたため、競技前のクールダウンによって、蓄熱の余裕(Margin of heat storage)を増やして、熱射病を防ぐのに寄与できると推測されました。

興味深いことに、プレクーリングによる体温の差は、運動開始の6分後までは現れていませんでした。これは、プレクーリングによって体躯の温度(=直腸温)を下げると言うよりも、末梢の筋組織をクールダウンすることで、末梢から体躯へと熱せられた血流が回って、体躯温度を上昇させるのを予防したためではないかと考察されています。今後は、更に気温の高い気候においても、プレクーリングの効果を評価すべきと考察されています。

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今回の研究では、全ての馬がプレクーリングに対して良い反応を示した訳ではないことが報告されています。このため、馬の気性や性格の違い、または、事前にプレクーリングの馴致を行なうか否か、などの要因を精査するのが望ましいと言えます。また、準備運動の時点で、プレクーリングが必要な個体を見分ける指針(呼吸数や発汗度合い)を検討するのも有用だと考えられました。

通常、総合馬術の野外走行は、馬体が汗びっしょりになる競技であるため、準備運動と本番の合間に、流水で馬体を濡らすことも大きな問題にはならなかったと推測されます。しかし、障害飛越や馬場馬術、または、日常のレッスンでの騎乗では、運動直前のタイミングで馬体を水冷するのは現実的ではないかもしれません。このため、馬体にアルコールを噴霧して扇風機で揮発させたり、氷点下の冷気を吹き付けるチャンバーに馬ごと入れるなど、馬体を濡らさずにクールダウンさせる方法で、同様のプレクーリング効果が得られるのか否か、についても検証する価値があると考えられました。

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