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高齢馬の飼養管理の基礎

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自馬が高齢になりつつあるホースマンの中には、飼料に関する疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

近年の栄養学や獣医学、飼養管理に関する知見の蓄積によって、馬は高齢になっても活躍できる時代になってきました。しかし、栄養学の発展で分かってきたのは、高齢馬には特有のエサが必要という事だけでなく、給餌内容を変更するタイミングには個体差が大きいということです。つまり、高齢馬用のエサに変更する時期は、年齢の数字で決まるのではなく、体格や体重の維持に苦労すると言った個々の馬の健康状態に応じて、ケースバイケースで判断する必要があります。



インフラメージング

加齢に伴って免疫機能が低下することを免疫老化(Immunosenescence)と呼び、たとえば、ワクチン接種しても抗体が上がりにくいなどの現象が含まれます。これに加えて、加齢によって炎症性サイトカインの分泌も亢進して、全身的な炎症反応を起こしていくことが知られている、これをインフラメージング(Inflamm-aging:炎症での老化)と呼んでいます。これらの反応が起こる時期には個体差が大きく、遺伝や生活スタイル、栄養などの諸要因が関与していると考えられています。ただ、確かなことは、高齢馬の栄養として大事なのは、このインフラメージングを生じた馬体を補助してあげる事になります。

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代謝性および内分泌系の問題

ヒトの医療では、インフラメージングと関節炎および糖尿病のあいだに相関があることが知られています。馬においても、インフラメージングと免疫老化によって、複数の炎症性・感染性疾患に罹りやすくなることが知られており、これには、関節炎、蹄葉炎、下垂体中葉機能異常(旧名:クッシング病)などが知られています。また、インスリン抵抗性やウマ代謝性症候群なども、高齢馬での発症率が高いことが分かっています。このため、高齢馬は、年一回の健康診断で内分泌機能を評価して、エサや治療について判断することが推奨されます。

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歯科的な問題

高齢馬が、削痩、咀嚼したものを何度も吐き出す仕草(Quidding)、活力の低下などを示すときには、歯科的な問題が疑われます。加齢によって、乾草を長時間かけて咀嚼するのが難しくなった馬でも、やはり粗飼料を給餌してあげる必要があります。そんなとき、私たちは創造性を発揮して、牧草ペレットやヘイキューブをふやかしたり、ビートパルプ、高齢馬用飼料を給餌することを検討します。そして、高齢馬には、年1~2回の歯科検診が重要であり、小さな歯の不整を矯正することで、消化吸収の低下や全身状態の悪化につながらないように努めてあげるのが大切になってきます。

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インスリン調整不全では糖分の制限を

インスリンの調整不全を起こした高齢馬に対しては、非構造炭水化物(NSC: Nonstructural carbohydrate)の給餌量を制限することが推奨されます。もし、NSCを過剰摂取すると、危険なインスリン濃度上昇を生じて、インスリン抵抗性を引き起こすのみならず、蹄葉炎を続発する危険性があるからです。このため、インスリン調整不全の高齢馬には、低澱粉飼料を給餌するのが望ましく、また、過肥の個体には、安全なカロリー制限も併行して実施する必要があります。そして、そのような飼料の効能は、血液検査でインスリン測定することで判断していくのが好ましいと言えます。

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消化しやすい繊維質や完全飼料の検討

多くの馬は、加齢に伴って粗飼料の消化吸収が困難になってきます。そんな時は、消化しやすい繊維質を含有した完全飼料への変更を検討すべきだと考えられます。そのような完全飼料は、高齢馬でも十分に消化吸収ができて、必要なカロリー量と栄養素を得られる組成に調整されています(中には“完全”ではなく粗飼料の追加を要する製品もある)。ただ、日本では、このような高齢馬用の完全飼料はあまり輸入されておらず、また入手しても高額になります。このため、牧草サイレージなどの発酵しやすい繊維質に、必要量の濃厚飼料を加え、さらに、植物油を添加する飼料内容が推奨されます。

高齢馬用の飼料に変更する指標:
指標1:摂食行動の変化や食欲低下
指標2:体重やボディ・コンディション・スコアの低下
指標3:体格の変化、特に背中のラインが下がって背弯姿勢になること
指標4:免疫機能に伴って頻繁に病気になったり怪我の治癒に時間が掛かること
指標5:活力の低下および馬体の可動性低下
指標6:咀嚼が困難になったり咀嚼したものを何度も吐き出す仕草



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プロバイオティクス&プレバイオティクス

馬は年齢に関わらず、腸内細菌による大腸での発酵作用によって、繊維質の消化吸収を行なっており、健常な腸内細菌叢の維持は、高齢馬にとっては特に重要であると言えます。このため、腸内細菌を補うための生菌剤(プロバイオティクス)と腸内細菌を活発にする製剤(プレバイオティクス)の給餌は有用であり、消化機能の他にも、免疫機能や代謝機能を向上させる効果も期待されます。これらは、通常のサプリメントと同様に、製品によって組成が異なるため、シッカリとした理解と給餌計画が大切になってきます。



高齢馬の飼料として、好ましい効能を謳ったものは多いですが、製品の成分を熟読することに加えて、個々の馬の健康状態を小まめに検査して、いま何が必要であるかを判断してあげるのも非常に重要なのだと思います。

参考資料:
Robert Jacobs, Amanda Adams, Lucile Vigouroux. What to feed old horses. The Horse, Topics, Special Features, Horse Care: Jul, 2022.

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