馬の文献:喉嚢蓄膿症(Munoz et al. 2008)
文献 - 2022年08月15日 (月)
「馬の喉嚢の外側区画に対する起立位手術での外科的アプローチ:忘れられていたガーム手技の改変」
Munoz JA, Stephen J, Baptiste KE, Lepage OM. A surgical approach to the lateral compartment of the equine guttural pouch in the standing horse: modification of the forgotten "Garm technique". Vet J. 2008; 177(2): 260-265.
この研究論文では、馬の喉嚢蓄膿症(Guttural pouch empyema)および類軟骨形成(Chondroid formation)に対する有用な治療法を検討するため、六つの屍体頭部(Cadaver head)を用いてガーム変法(Modified Garm method)の実行可能性(Feasibility)を確かめた後、三頭の健常馬、および、一頭の軽度喉嚢蓄膿症の罹患馬に対して、起立位手術(Standing surgery)でのガーム変法による、喉嚢への外科的アプローチおよび喉嚢洗浄(Guttural pouch lavage)の評価が行われました。
この研究の術式では、下顎間隙(Submandibular space)の脈管切痕(Vascular incisure)より尾側への2cmの位置から、顔面動脈&静脈(Facial artery/vein)と耳下腺管(Parotid duct)と平行になるように、尾側へと6cmの皮膚切開創(Skin incision)が設けられました。次に、下顎リンパ節(Mandibular lymph node)を内側へと押しやりながら、顎舌骨筋(Mylohyoid muscle)と顎二腹筋(Digastric muscle)を鈍性剥離(Blunt dissection)した後、翼突筋(Pterygoid muscle)の内側に沿うように、茎突舌骨(Stylohyoid bone)に到達するまで、45度の角度で尾背側方向へと切り進め、翼突筋と茎突舌骨のあいだに位置する喉嚢の外側区画(Lateral component)へとアプローチされました。喉嚢への穿孔の際には、金属製漸減端套管針(Metallic tapered end trochar)をプラスティック製鈍端鞘(Plastic blunt end rigid sheath)に入れた器具が用いられ、舌下神経(Hypoglossal nerve)や下顎腺管(Duct of the mandibular gland)を損傷させないよう、翼突筋よりも内側で、茎突舌骨のすぐ脇から、喉嚢内へと穿孔して、喉嚢内の内視鏡(Endoscope)から金属製套管針の先端が見えた時点で、套管針を引き抜きながら、プラスティック製鞘が3cm分だけ喉嚢内へと挿入されました。そして、この鞘内を通すように、プラスティック製粘膜拡張管(plastic mucosa dilator tube)が挿入され、その外端を皮膚に縫合固定してから、この管を介しての喉嚢洗浄および排液が実施されました。
結果としては、六つの屍体頭部、および、四頭の馬の全てにおいて、喉嚢の外側区画への直接的アプローチと、内側区画への間接的アプローチが達成され、神経や脈管組織への医原性損傷(Iatrogenic damage to nerve/vascular tissues)を生じることなく、良好な吻腹側排液路(Rostroventral drainage)の形成が可能であった事が示されました。そして、喉嚢蓄膿症の罹患馬に対する手術後に、粘膜圧潰(Mucous membrane collapse)が見られた事を除けば、ガーム変法の実施に伴う合併症(Complications)は認められず、治療終了後の12~14日間で二次性創傷治癒(Secondary wound healing)による切開創の閉鎖が完了したことが報告されています。このため、馬の喉嚢蓄膿症に対しては、起立位手術でのガーム変法によって、十分な喉嚢洗浄および排液と、原発病巣の治癒が期待されることが示唆されました。
一般的に、馬の喉嚢に対する外科的アプローチでは、ホワイトハウス変法(Modified Whitehouse method)、ヴァイボーグ三角域(Viborg’s triangle region)の切開、鼻骨椎骨部切開術(Hyovertebrotomy)等の術式が応用されています(Freeman. Equine Surgery. 1999:480)。しかし、これらのアプローチ法においては、喉嚢の内側区画には容易に到達できるものの、外側区画へのアプローチは限定的で、多数の類軟骨が外区画に形成されていたり、重篤な粘膜肥厚(Mucosal thickening)を生じた場合には、十分な外科的処置が難しいことが報告されています(Smyth et al. Can Vet J. 1999;40:802)。また、反対側の喉嚢(Contralateral guttural pouch)から、正中隔壁(Medial septum)に造窓術(Fenestration)を施すことで、罹患側の喉嚢に到達する手法もありますが(Hawkins et al. JAVMA. 2001;218:405, Gehlen and Ohnesorge. Vet Surg. 2005;34:383)、やはりこれも、内側区画へと造窓するため、外側区画の病巣の処置には適していないと考えられています。
過去の文献では、馬の喉嚢蓄膿症の治療においては、外側区画の吻側部(Rostral aspect of lateral component)へと穿孔することで、より良好な排液が可能になると仮説(Hypothesis)されていますが、喉嚢の外側区画には、非常に多数の重要な神経&脈管組織が走行しているため、この部位への外科的アプローチにおいては、許容できないほどの危険性(Unacceptable risk)を伴う、という提唱がなされています(Garm. Skandinavisk Veterin rtidskrift foer Bakteriologi. 1946;26:401)。今回の研究で検証されたガーム変法では、過去の術式に比べて、皮膚切開創の位置が4cmほど吻側よりになっており、喉嚢に到達するまでの距離(切開する深さ)は長いものの、筋肉郡(顎舌骨筋、顎二腹筋、翼突筋)のあいだを切り進めていく事から、顔面動脈や唾液腺管(Salivary duct)を傷付ける危険性が少ないという利点が挙げられています。また、今回の研究の術式では、内視鏡によって喉嚢内からの視診を併用することで、全身麻酔(General anesthesia)を要しない起立位手術として、ガーム変法の実施が可能であることが示されました。
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この研究論文では、馬の喉嚢蓄膿症(Guttural pouch empyema)および類軟骨形成(Chondroid formation)に対する有用な治療法を検討するため、六つの屍体頭部(Cadaver head)を用いてガーム変法(Modified Garm method)の実行可能性(Feasibility)を確かめた後、三頭の健常馬、および、一頭の軽度喉嚢蓄膿症の罹患馬に対して、起立位手術(Standing surgery)でのガーム変法による、喉嚢への外科的アプローチおよび喉嚢洗浄(Guttural pouch lavage)の評価が行われました。
この研究の術式では、下顎間隙(Submandibular space)の脈管切痕(Vascular incisure)より尾側への2cmの位置から、顔面動脈&静脈(Facial artery/vein)と耳下腺管(Parotid duct)と平行になるように、尾側へと6cmの皮膚切開創(Skin incision)が設けられました。次に、下顎リンパ節(Mandibular lymph node)を内側へと押しやりながら、顎舌骨筋(Mylohyoid muscle)と顎二腹筋(Digastric muscle)を鈍性剥離(Blunt dissection)した後、翼突筋(Pterygoid muscle)の内側に沿うように、茎突舌骨(Stylohyoid bone)に到達するまで、45度の角度で尾背側方向へと切り進め、翼突筋と茎突舌骨のあいだに位置する喉嚢の外側区画(Lateral component)へとアプローチされました。喉嚢への穿孔の際には、金属製漸減端套管針(Metallic tapered end trochar)をプラスティック製鈍端鞘(Plastic blunt end rigid sheath)に入れた器具が用いられ、舌下神経(Hypoglossal nerve)や下顎腺管(Duct of the mandibular gland)を損傷させないよう、翼突筋よりも内側で、茎突舌骨のすぐ脇から、喉嚢内へと穿孔して、喉嚢内の内視鏡(Endoscope)から金属製套管針の先端が見えた時点で、套管針を引き抜きながら、プラスティック製鞘が3cm分だけ喉嚢内へと挿入されました。そして、この鞘内を通すように、プラスティック製粘膜拡張管(plastic mucosa dilator tube)が挿入され、その外端を皮膚に縫合固定してから、この管を介しての喉嚢洗浄および排液が実施されました。
結果としては、六つの屍体頭部、および、四頭の馬の全てにおいて、喉嚢の外側区画への直接的アプローチと、内側区画への間接的アプローチが達成され、神経や脈管組織への医原性損傷(Iatrogenic damage to nerve/vascular tissues)を生じることなく、良好な吻腹側排液路(Rostroventral drainage)の形成が可能であった事が示されました。そして、喉嚢蓄膿症の罹患馬に対する手術後に、粘膜圧潰(Mucous membrane collapse)が見られた事を除けば、ガーム変法の実施に伴う合併症(Complications)は認められず、治療終了後の12~14日間で二次性創傷治癒(Secondary wound healing)による切開創の閉鎖が完了したことが報告されています。このため、馬の喉嚢蓄膿症に対しては、起立位手術でのガーム変法によって、十分な喉嚢洗浄および排液と、原発病巣の治癒が期待されることが示唆されました。
一般的に、馬の喉嚢に対する外科的アプローチでは、ホワイトハウス変法(Modified Whitehouse method)、ヴァイボーグ三角域(Viborg’s triangle region)の切開、鼻骨椎骨部切開術(Hyovertebrotomy)等の術式が応用されています(Freeman. Equine Surgery. 1999:480)。しかし、これらのアプローチ法においては、喉嚢の内側区画には容易に到達できるものの、外側区画へのアプローチは限定的で、多数の類軟骨が外区画に形成されていたり、重篤な粘膜肥厚(Mucosal thickening)を生じた場合には、十分な外科的処置が難しいことが報告されています(Smyth et al. Can Vet J. 1999;40:802)。また、反対側の喉嚢(Contralateral guttural pouch)から、正中隔壁(Medial septum)に造窓術(Fenestration)を施すことで、罹患側の喉嚢に到達する手法もありますが(Hawkins et al. JAVMA. 2001;218:405, Gehlen and Ohnesorge. Vet Surg. 2005;34:383)、やはりこれも、内側区画へと造窓するため、外側区画の病巣の処置には適していないと考えられています。
過去の文献では、馬の喉嚢蓄膿症の治療においては、外側区画の吻側部(Rostral aspect of lateral component)へと穿孔することで、より良好な排液が可能になると仮説(Hypothesis)されていますが、喉嚢の外側区画には、非常に多数の重要な神経&脈管組織が走行しているため、この部位への外科的アプローチにおいては、許容できないほどの危険性(Unacceptable risk)を伴う、という提唱がなされています(Garm. Skandinavisk Veterin rtidskrift foer Bakteriologi. 1946;26:401)。今回の研究で検証されたガーム変法では、過去の術式に比べて、皮膚切開創の位置が4cmほど吻側よりになっており、喉嚢に到達するまでの距離(切開する深さ)は長いものの、筋肉郡(顎舌骨筋、顎二腹筋、翼突筋)のあいだを切り進めていく事から、顔面動脈や唾液腺管(Salivary duct)を傷付ける危険性が少ないという利点が挙げられています。また、今回の研究の術式では、内視鏡によって喉嚢内からの視診を併用することで、全身麻酔(General anesthesia)を要しない起立位手術として、ガーム変法の実施が可能であることが示されました。
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