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馬の“ヘルペス禍”にはワクチンより行動制限?

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馬の“ヘルペス禍”について

ご存じのように、ヒト社会が“コロナ禍”に見舞われてから二年以上が経ち、ワクチンの普及に伴って、ようやく事態の沈静化に向かいつつあります。一方、欧州のウマ社会における“ヘルペス禍”は、一年半が経った現在も、未だに深刻なエピデミック(地域的大流行)が続いています。通常、馬ヘルペスウイルス1型(EHV-1)は、肺炎・流産・神経症状などを起こし、日本では馬鼻肺炎の病原体として繁殖地でのワクチン接種が実施されますが、現在の欧州では、神経型EHV-1の感染拡大が続いています。

今回のヘルペス禍は、昨年二月にスペインで始まり、三月にFEIが流行を宣言したあと、乗馬競技会の中止や、馬の移動制限などの対策を取ってきましたが、腰萎や起立不能などの髄膜脳炎の症例が報告され続けています。今回は、そのようなEHV-1の報告を8つ集めて、ワクチンの有効性に関するメタ分析をして、相対危険度(RR: Relative risk)を算出した研究をご紹介します。

参考文献:
「馬ヘルペスウイルス1型の感染に対するワクチン効果」
Maria Luisa Marenzoni, Chiara De Waure, Peter J. Timoney. Efficacy of vaccination against equine herpesvirus type 1 (EHV-1) infection: systematic review and meta-analysis of randomized controlled challenge trials. Equine Vet J. Epub. Aug10, 2022: doi.org/10.1111/evj.13870.

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馬のEHV-1ワクチンの効果について

結果としては、ワクチン接種馬と未接種馬を比較した場合、発症リスクは3%下がったのみで(RR=0.97)、また、重症化リスクも24%下がったのみであり(RR=0.76)、いずれも統計的な有意差は無く、ワクチン接種によって発症および重症化を防ぐ効果は、限定的であったと結論付けられています。なお、ここでは、EHV-1の諸症状のうち、一つでも示した場合を発症とし、発現した症状の個数が減らせることを重症化予防としました(死亡率ではないので、病気の“進行予防”のほうが適正な言い回しかもしれません)。

一方、ワクチン接種馬と未接種馬を比較した場合、ウイルス排出馬となるリスクは14%下がったのみで(RR=0.86)、さらに、ウイルス保有馬になるリスクも12%下がったのみであり(RR=0.88)、いずれも統計的には有意ではなく、ワクチン接種によって感染拡大を抑える効果についても、やはり限定的なレベルに留まったと考察されています。なお、ここでは、鼻腔スワブでウイルス検出された場合を排出馬とし、血液サンプルからウイルス検出された場合を保有馬としました。

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馬のEHV-1対策について

この研究の結果から、EHV-1のワクチンを打っても、発症したり重症化する危険性はあまり減少しておらず、予防接種しておけばウイルスに曝露されても心配ないとは到底言えないという状況が示されました。さらに、EHV-1のワクチンを打った馬が感染した場合でも、ウイルスを排出する割合は有意には減っておらず、予防接種を推進するだけで感染拡大を抑えることは出来ないという結果も示されました。これらに関しては、今後、流行株に合致したワクチンを製造することで、発症や感染拡大を抑える効果が向上していくのかもしれません。

少なくとも現時点では、ワクチン接種だけでは、個体レベルでの発症を予防したり、集団レベルでの感染拡大を防ぐことは難しいと結論付けられており、やはり、行動制限によって、物理的にウイルス拡散を減少させていくことが必要なのかもしれません。具体的には、競技参加や売買などの目的で馬を移動させるのは控え、牧場などに新しい馬を導入するときには、一定期間、隔離した別厩舎に繋留させる(着地検疫)などの方策を取るのが望ましいと言えます。また、ホースマンが馬に触れるときにも、一頭ごとに手指をアルコール消毒するのも一案なのかもしれません。

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馬のEHV-1は、潜伏期間が長いため、感染馬を見つけるのが遅れたり、不顕性感染したウイルス保有馬から、持続的にウイルス拡散が起こってしまうなど、エピデミック対策を難しくする要素が多いウイルスであると言われています。ある意味では、ヒト社会がコロナ禍で学んだ集団感染対策の方法を、馬のヘルペス禍での感染対策にも応用していくことで、EHV脳炎で死亡する馬を一頭でも減らしていくことが可能になるのかもしれません。

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