乗馬のDDSPはクスリで治せる
馬の飼養管理 - 2022年08月17日 (水)

乗馬のDDSPについて
DDSPとは、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate: DDSP)の略称で、特に、競走馬などの襲歩運動をする馬において問題となる上部気道疾患です。この病気では、本来は軟口蓋の上に乗っかっている喉頭蓋が、その下方に落ち込んでしまい、軟口蓋が気管の入り口を部分的に閉塞するため、呼吸器雑音や発咳、運動不耐性(プアパフォーマンス)を起こしてしまいます。このDDSPと、下部気道炎症とのあいだには相関があり、治療方針の検討にも関与すると考えられています。
一般的に、乗用馬における主要な呼吸器病は、肺炎や息労などの下部気道疾患で、上部気道疾患の発症率は低く、また、外科手術で治療する疾患が多いことが知られています(喉頭片麻痺のタイバック手術や喉頭蓋捕捉の正中分割術など)。しかし、DDSPは乗用馬にも発症し、一般的な外科的治療(タイフォワード手術等)ではなく、内科的治療で回復できることが示されています。
参考資料:
Larson E. Managing DDSP in Sport Horses Medically. The Horse, Topics: Dec21, 2018.

乗馬のDDSPでの内科的治療
ベルギーの獣医師による調査では、呼吸器症状(雑音、発咳、運動不耐性)を呈して内視鏡検査が行なわれた270頭の乗用馬のうち、約一割(27頭)の馬においてDDSP発症が確認され、このうち約八割(22/27頭)では発咳が主訴となっていました。また、これらの馬に、気管洗浄又は気管支肺胞洗浄検査を行なったところ、その全頭で下部気道炎症の徴候が認められ、また、細菌培養が試みられた16頭のうち14頭(88%)で細菌及び真菌が分離されました。
このため、DDSPの病因は下部気道炎症であると推測されたため、内科的治療が選択されました。内容は、抗炎症剤(ニトロフラゾン又はDMSO)の局所投与、および、ネブライザー治療によるコルチコステロイド、気管支拡張薬、抗生物質のエアロゾル投与が実施されました。また、息労と同様の飼養環境の改善も施されました(敷料をウッドチップに変更、湿らせた乾草の給餌等)。その結果、平均3週間の治療で、九割近く(22/25頭)の馬が完治(呼吸器症状の消失と意図した用途での使役に復帰)していました。

乗馬のDDSPで重要なこと
以上の結果から、乗馬のDDSPに対しては、下部気道炎症の治癒を目的とした内科的治療によって、良好な予後が期待できることが示唆されました。また、内科療法に不応性の症例においては、外科的治療が選択肢となりますが、病因がアレルギー性でなりことを再確認することが重要であるという警鐘が鳴らされています。なお、前述の治療内容のうち、ニトロフラゾン投与は、日本の食品衛生法では禁止されており使用できません。
このため、乗馬の発咳においても、すぐに肺の病気だと思い込むのではなく、上部気道疾患を疑うことが必要であると考えられます。また、内視鏡で推定診断が下された場合でも、必ず下部気道炎症の検査も実施して、内科治療が適応できるか否かを精査することも重要であると言えるでしょう。
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