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馬の文献:息労(Rush et al. 1998a)

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「回帰性気道閉塞の罹患馬に対するベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的および非経口的投与後における気管支肺胞洗浄液の細胞学的検査」
Rush BR, Flaminio MJ, Matson CJ, Hakala JE, Shuman W. Cytologic evaluation of bronchoalveolar lavage fluid from horses with recurrent airway obstruction after aerosol and parenteral administration of beclomethasone dipropionate and dexamethasone, respectively. Am J Vet Res. 1998; 59(8): 1033-1038.

この研究では、馬の回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(息労:Heaves)に有用な治療法を検討するため、六頭の回帰性気道閉塞の罹患馬を用いて、カビた乾草および藁(Moldy hay and straw)に七日間暴露することで呼吸器症状を誘発してから、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的および非経口的投与(Aerosol and parenteral administration of beclomethasone dipropionate and dexamethasone)を行い、三週間にわたる気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid)の細胞学的検査(Cytologic evaluation)が行われました。

結果としては、抗原への暴露によって好中球性炎症反応(Neutrophilic inflammatory response)が誘発され、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの投与から10日後および14日後には、気管支肺胞洗浄液における好中球数は有意に減少していましたが、21日後には治療前の数値まで戻っていました。また、対照郡においては、炎症促進性のCD4陽性Tリンパ球とBリンパ球の分集団(CD4+/B+ proinflammatory lymphocyte subpopulations)が増加していましたが、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの投与郡では、このような変化は認められませんでした。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対しては、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的投与によって、肺における好中球性炎症の減弱(Attenuation of neutrophilic pulmonary inflammation)と、炎症誘導性リンパ球分集団変化の予防(Prevention of the alteration of lymphocyte subpopulations)が達成できる事が示唆されました。

一般的に、馬の回帰性気道閉塞は、カビや粉塵などの抗原に対する遅延性過感受性反応(Delayed hypersensitivity reaction)によって引き起こされ、気道炎症(Airway obstruction)、滲出物形成(Exudate formation)、壁在性浮腫(Mural edema)、気管支狭窄(Bronchoconstriction)などに起因して、咳嗽(Coughing)、頻呼吸(Tachypnea)、喘鳴音(Wheezes)、鼻汁排出(Nasal discharge)等の症状を示します。治療では、気管支拡張剤(Bronchodilator)であるベータ2作動薬(Beta2-adrenegic agonists)の投与に併行して、抗炎症剤(Anti-inflammatory agents)であるコルチコステロイドが用いられますが、全身性投与(Systemic administration)では副作用の危険性が高いため、簡易かつ安全な実施な可能な吸引療法(Inhalation therapy)による投薬が有用です。今回の研究では、噴霧化薬物(Aerosoled drugs)を介した吸引療法によって、経静脈投与(Intra-venous administration)と同程度の治療効果が達成できることが示され、馬主や馬管理者でも実施可能な抗炎症治療として有用であると考えられました。

この研究では、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的投与によって、気管支肺胞洗浄液中の好中球数が減少したものの、基底値(抗原暴露によって息労を誘導する前の検査値)までは回復おらず、また、投薬後には数週間で治療前の値(抗原暴露によって息労を誘導した時点の検査値)までリバウンドしていました。このため、回帰性気道閉塞の罹患馬が、抗原であるカビや粉塵が存在する環境下に置かれている限りでは、クスリによる治療だけで炎症反応を完全に抑え込んだり、長期間にわたる効能を維持するのは困難であることが示唆されました。つまり、息労の治療のためには、飼養環境の改善(Environmental improvement)を最優先に実施して、内科的治療は補助的に用いることが重要であるという、治療指針の大原則を再確認させるデータが示されたと言えます。

この研究では、気管支肺胞洗浄液中の細胞総数(Total cell count)や大食細胞数(Macrophage count)は、いずれの時点でも正常範囲内で、また、治療前と治療後でも有意には変化していませんでした。他の文献では、息労の罹患馬において、気管支肺胞洗浄液中の細胞総数が増加したり(McGorum et al. EVJ. 1993;25:261, Traub-Dargatz et al. AJVR. 1992;53:1908, Mair. EVJ.1987;19:463)、大食細胞数の減少が見られるという報告もありますが(McGorum et al. Res Vet Sci. 1993;55:57, Lapointe et al. AJVR. 1993;54:1310, Lapointe et al. EVJ. 1994;26:227)、一方で、息労の誘発やその後の治療によっても、これらの数値は変化しなかったという知見も示されています(Derksen et al. Am Rev Respir Dis. 1985;132:1066, Tremblay et al. EVJ. 1993;25:194)。このため、このような気管支肺胞洗浄液中の細胞総数および大食細胞数に関する相反する研究結果(Conflicting results)は、病気の経過の長さ(Disease duration)、環境抗原への暴露度合い(Degree of enviromental antigen exposure)、気管支肺胞洗浄の手技的な違い、二次性の細菌感染の有無や重篤度(Presence/Severity of secondary bacterial infection)、等の多くの因子に影響を受けている、という考察がなされています。

この研究では、気管支肺胞洗浄液中のリンパ球総数(Total lymphocyte count)は、実験前と息労の誘導後、および、治療前と治療後でも有意には変化していませんでしたが、対照郡(薬剤を含まない運搬噴霧粒子のみが投与された馬郡)においては、炎症誘導性リンパ球分集団の増加が確認されました。そして、同様な変化は、人間の喘息(Asthma)の文献でも報告されています(Gerblich et al. Am Rev Respir Dis. 1991;143:533, Djukanovic et al. Am Rev Respir Dis. 1992;145:669, Duddridge et al. Eur Respir J. 1993;6:489)。しかし、馬の回帰性気道閉塞における過去の文献では、今回の研究と同様に、炎症誘導性リンパ球分集団の増加が示されたという知見がある反面(McGorum et al. Vet Immunol Immunopathol. 1993;36:207)、有意には変化しなかったという報告もあります(Watson et al. Vet Pathol. 1997;34:108)。そして、これらの違いは、検査手技や使用された単クローン抗体(Monoclonal antibodies)の違いに起因している可能性がある、という考察がなされています。

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