馬の病気:蜂窩織炎
馬の運動器病 - 2013年08月24日 (土)

蜂窩織炎(Cellulitis, Phlegmone)について。
皮下組織(Subcutaneous tissue)に広汎な感染(Diffuse infection)を起こす疾患で、前肢よりも後肢に好発します。StaphylococcusまたはStreptococcus属菌が原因となる症例が多いものの、感染源となる外傷部位は特定されない場合もあります。蜂窩織炎の症状としては、広汎な皮下浮腫(Subcutaneous edema)と硬化腫脹(Indurated swelling)、熱感(Heat)、圧痛(Pain on palpation)、中程度~重度の跛行(Moderate to severe lameness)を呈し、血液検査では、白血球数増加症(Leukocytosis)とフィブリノーゲン増加血症(Hyperfibrinogenemia)が見られます。
蜂窩織炎に対する治療としては、広域抗生物質(Broad-spectrum antimicrobials)と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の全身投与(Systemic administration)が行われます。しかし、不応性(Refractory)の症例においては、超音波検査(Ultrasonography)を介して、患肢の化膿巣排液(Abscess drainage)、および、排出物の細菌培養と抗生物質感受性試験(Antimicrobial susceptibility test)を実施して、有効な治療薬の選択を行うことが必要です。また、形成された蜂巣織内では血液循環が減少(Reduced blood circulation)しており、全身投与薬の分布が悪化しているため、圧迫包帯(Pressure bandage)と常歩運動による皮下浮腫の減退と、止血帯(Tourniquet)を用いて患部へと抗生物質を局所灌流(Regional limb perfusion)させる手法も試みられています。さらに、重篤な孤発性リンパ管炎(Sporadic lymphangitis)を呈する症例では、コルチコステロイド投与による蜂巣織減退が行われる場合もあります。そして、対側肢(Contralateral limb)の負重性蹄葉炎(Support laminitis)を予防するため、ブトルファノールの静脈内投与、フェンタニルパッチ貼付、モルフィン硬膜外注射などを用いての、積極的に患肢を鎮痛する方法(Aggressive analgesia of affected limb)も推奨されています。蜂窩織炎の治療に際して、フルオロキノロン系抗生物質であるエンロフロキサシンは、超抗原(Superantigen)として作用して、蜂窩織炎を悪化させる可能性も指摘されています。
蜂窩織炎は予後不良(Poor prognosis)を呈する症例も多く、報告されている短期生存率(退院した馬の割合)は77%(34/44 cases)または89%(56/63 cases)にとどまっています。蜂窩織炎の治療においては、対側肢の負重性蹄葉炎が最も重要な合併症で、また、入院時に発熱を起こしていた症例、もしくは、細菌培養で大腸菌(Escherichia coli)が分離された症例では、有意に予後が悪化することが報告されています。そして、退院後に蜂巣織が消失して、患肢の外観が元通りになるのは半数以下の症例に過ぎず(46%)、回復後における蜂窩織炎の再発率(Recurrence rate)も比較的に高いこと(23%)が報告されています。
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