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馬の蹄葉炎では蹄骨をプレート固定?

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馬の蹄葉炎に対する新しい外科治療法が検討されています。

馬の蹄葉炎は、背側蹄葉組織の変性によって、蹄骨が変位してしまう疾患です。急性期では、氷冷療法で蹄葉変性させる酵素活性を抑える内科療法が行なわれ、蹄骨変位に至った場合には、主に装蹄療法によって蹄骨の安定化が図られます。蹄葉炎が慢性化すると、切腱術で蹄骨への緊張を緩和しつつ、蹄骨角度の矯正(デローテーション)も施されます。

残念ながら、蹄葉組織が広範に変性すると、重度の蹄骨変位を起こして、蹄骨尖が蹄底を穿孔してしまうため、予後不良となることが一般的です。そこで、蹄骨の変位を根本的に防ぐため、ロッキング・コンプレッション・プレート(LCP: Locking compression plate)を用いて、蹄骨を蹄壁に固定する新治療法が試験されています。

参考文献:
N. E. Lean, S. T. Zedler, A. W. Van Eps, J. B. Engiles, M. Ford, D. Stefanovski, D. M. Walsh, C. C. Pollitt. Evaluation of locking compression plate fixation of the distal phalanx to the hoof wall as a potential therapy for laminitis. Equine Vet J. Epub: Aug16, 2022. doi.org/10.1111/evj.13877.

この研究では、6対の屠体肢を用いて、加熱で蹄葉変性させて蹄葉炎モデルを作成した後、T字型LCPによって蹄骨を背側蹄壁に固定したところ、体重の三倍の負荷を掛けても、蹄骨変位を防げることが示されました。この際、蹄壁と蹄骨の距離、蹄冠と伸筋突起の距離、および、蹄骨底と蹄底の距離などが有意に低値を示しており、蹄骨回転と蹄骨沈下の両方を予防できることが示唆されました。

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その後、健常な実験馬12頭を用いて(6頭は立位、6頭は麻酔下)、片方の前肢蹄骨に同様のLCP固定を施して、八日間にわたって歩様を評価してから、安楽殺後の蹄葉組織の病理組織学的検査が実施されました。その結果、術後にLCP固定は良好に許容され、殆どの馬(10/12頭)は速歩でも無跛行でしたが、組織検査では、広範囲の角化細胞アポトーシスを特徴とする蹄葉炎に類似した蹄葉組織の病態が確認されました。

このため、蹄骨を蹄壁にプレート固定して蹄骨変位を防ぐことで、急性蹄葉炎に対する潜在的な新治療法となることが示唆されました。しかし、蹄葉組織の微小脈管が医原性損傷したことによって、蹄葉炎様の病態が生じた点については、その発生機構を解明して、この治療指針の有用性を評価する必要があると考察されています。この論文では、LCP固定で蹄葉組織が静的状態になり、蹄機作用による微小循環が滞った可能性が示唆されています。

この研究で使用されたLCP固定は、螺子頭がプレートに固定され、創外固定具のように作用するため、変性した蹄葉組織が蹄骨を保持できなくなった状態でも、蹄骨を蹄壁に繋ぎとめて、変位を防ぐことが可能になると考えられます。ただ、この研究では、術後の一週間しか経過観察していないため、数ヶ月以上が経った時点で、螺子が緩んだり、蹄壁が割れてしまって、蹄骨が不安定化してしまう危険性もあると推測されます。

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この研究でも示されたように、蹄骨のLCP固定では、ロッキングスクリューを背側蹄葉に挿入するため、脈管組織の医原性損傷は避けられないと推測されます。そう考えると、この術式は、急性蹄葉炎の治療というよりも、蹄葉炎が進行して、蹄骨が蹄底を突き抜けそうになった馬に対する、いわゆるサルベージ療法として実施する方針も検討すべきだと感じます。また、切腱術はシンカー型蹄葉炎には治療効果が低いため、蹄骨が真下に沈下するのを食い止める方策として、LCP固定は有用かもしれません。

なお、過去の文献では、タイプ3蹄骨骨折に対する螺子固定術では、蹄壁を貫通させる際に感染が起こり易く、細菌性蹄骨炎や螺子の緩み、肉芽新生などが生じることが報告されています。このため、蹄骨のLCP固定においても、蹄骨に挿入したロッキングスクリューを、如何に細菌感染から守るかが課題になるかもしれません。この研究では、術後一週間の時点での、LCP固定された箇所の物理的強度試験は実施されていませんでした。

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