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乾草を先に与えて疝痛予防

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ホースマンの中には、自馬が頻繁に疝痛を起こすことにお悩みの方もいらっしゃるようです。

馬の疝痛とは、消化器疾患によって疼痛反応を示している状態を指す用語で(症状名であり診断名ではない)、現在でも、馬の死亡原因の第一位は疝痛だとも言われます。軽度疝痛を繰り返す馬においては、胃潰瘍や寄生虫感染など、潜在的要因を持つケースもありますが、消化管の蠕動機能の低下が起きていて(加齢、疲労、季節性、子馬のときの寄生虫迷入など)、内容物の停滞(いわゆる便秘疝)を生じやすい場合もあります。そのような疝痛を予防する一案として、飼い付け時に、乾草を先に与えてから次に濃厚飼料を与えるという給餌法について紹介されています。

参考資料:
Juliet M. Getty, Ph.D. Hay Before Grain? Should your horse eat his hay before getting his grain? An equine nutritionist explains. Horse Illustrated, Horse Care, Horse Nutrition: Feb13, 2018.

飼い付けのときに、乾草と濃厚飼料のどちらを先に給餌すべきか?という疑問は、自然な馬の生活では心配しなくて良い事項です。なぜなら、馬は本来、一日の時間の三分の二以上を、牧草を食べるのに費やす生活スタイルであるからです。しかし、現在社会では、多くの馬が厩舎飼いされており、24時間のうち摂食に当てられる時間が短い傾向にあるため、馬のナチュラルな食生活に近づけるような給餌方法を考える必要が出てきます。

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一般的に、乾草と濃厚飼料を同時に与えると、馬は甘味があって嗜好性の高い濃厚飼料のほうを先に摂食する傾向にあると言われています。その際、空っぽの胃袋に濃厚飼料が入ると、胃酸の分泌が増加して胃潰瘍のリスクを増すのみならず、粒子の細かい濃厚飼料は、粗飼料よりも素早く胃袋を通過してしまいます。そうなると、その濃厚飼料は小腸で十分に消化される前に後腸(盲腸や結腸)に達することになります。その結果、澱粉成分が発酵過程を受けることになり、内毒素やガス産生が増加して、全身性の炎症反応症候群(いわゆる敗血症)や盲腸鼓脹(いわゆる風気疝)のリスクが高まります。

逆に、胃袋の中に既に乾草がある状態であれば、濃厚飼料が急激に胃袋を通過してしまうのを妨げる物理的バリアーとなってくれます。通常、澱粉は胃では完全には分解されませんので、濃厚飼料は乾草片と混ざって、半水様状の食物塊となって小腸に達し、ゆっくりとブドウ糖へと変換されていきます。その結果、後腸での内毒素・ガス産生を抑えるのみならず、ブドウ糖の吸収と血糖値の上昇も緩やかになりますので、インスリンが急激に分泌されることもなく、代謝系異常による疾患(馬メタボリック症候群、インスリン抵抗性、蹄葉炎など)の心配も減ります。

もう一つ、濃厚飼料よりも乾草を先に与えるメリットとしては、食渣に含まれる水分を増加させることが挙げられます。飼い付け時に、まず最初に乾草を摂食した場合、ドライな食物が消化管に入ることで口渇感が増し、自発的な飲水を促すという生理反射が起こります。馬の食道閉塞や小結腸食滞などは、飲水量の不足で発症するとも言われています。さらに、濃厚飼料と異なり、乾草は十分に咀嚼しないと嚥下できないため、唾液の分泌量も増えます。その結果、充分な量の唾液が胃袋に入ることで、食渣の軟化や潤滑という作用がもたらされ、食滞や便秘を発症しにくくなる事に加えて、唾液が胃液を中和して、胃潰瘍の危険性を下げる利点もあります。

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以上のように、飼い付け時に、乾草をまず先に与え、その次に濃厚飼料を与えることで、幾つかの疝痛の病因を取り除ける効能が期待されます。このためには、胃袋のなかに一定量の乾草片が入っている状態が望ましいですので、乾草の給餌後、時間にして20~30分くらい待ってから濃厚飼料を与えるのが有益だと考えられます。たとえば、全頭に乾草を与えた後、別の厩舎作業をして時間を置き、そして濃厚飼料を与えるという給餌方法もあると思います。そうすることで、特に、回帰性疝痛の示す馬に対して、給餌方法の工夫で疝痛の予防につなげ、馬のウェルフェア向上にも貢献できるのではないでしょうか。

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