馬の文献:息労(Rush et al. 1998b)
文献 - 2022年08月23日 (火)
「回帰性気道閉塞の罹患馬に対するベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的および非経口的投与後における肺機能」
Rush BR, Raub ES, Rhoads WS, Flaminio MJ, Matson CJ, Hakala JE, Gillespie JR. Pulmonary function in horses with recurrent airway obstruction after aerosol and parenteral administration of beclomethasone dipropionate and dexamethasone, respectively. Am J Vet Res. 1998; 59(8): 1039-1043.
この研究では、馬の回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(息労:Heaves)に有用な治療法を検討するため、六頭の回帰性気道閉塞の罹患馬を用いて、カビた乾草および藁(Moldy hay and straw)に七日間暴露することで呼吸器症状を誘発してから、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的および非経口的投与(Aerosol and parenteral administration of beclomethasone dipropionate and dexamethasone)を行い、三週間にわたる肺機能(Pulmonary function)の評価が行われました。
結果としては、抗原への暴露によって肺循環抵抗(Pulmonary resistance)および胸膜緊張最大変化(Maximal change in pleural pressure)の上昇、動的伸展性(Dynamic compliance)の低下が認められました。そして、ベクロメタゾンジプロピオネートの投与では、10日後において肺循環抵抗の減少、14日後と21日後において胸膜緊張最大変化の減少、14日後において動的伸展性の上昇が認められました。一方、デキサメサゾンの投与では、10~21日後において肺循環抵抗と胸膜緊張最大変化の減少、10日後と14日後において動的伸展性の上昇が認められました。また、主観的評価(Subjective assessment)による呼吸努力(Respiratory effort)は、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの投与から二~三日後に改善したものの、その後の一~三日後には治療前の状態までリバウンドしていました。
このため、回帰性気道閉塞の罹患馬に対しては、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびデキサメサゾンの噴霧的投与によって、肺機能の回復および呼吸器症状の改善が達成されることが示唆されました。一方、いずれの薬剤においても、経静脈投与(Intra-venous administration)のほうが噴霧的投与に比べて、高い治療効果を示す傾向が認められたため、噴霧的薬剤の投与によって最大限の効能を得るためには、投与濃度や頻度を上げる必要がある可能性もある、という考察がなされています。また、肺機能の長期的な回復のためには、抗炎症剤の吸引療法はあくまで補助的な治療と考えて、飼養環境の改善(Environmental improvement)を第一指針とするべきである、という提唱がなされています。
一般的に、馬の回帰性気道閉塞の治療においては、平滑筋弛緩作用(Smooth muscle relaxation)を有するベータ2作動薬(Beta2-adrenegic agonists)が、気管支拡張剤(Bronchodilator)として投与されますが、抗炎症作用を有するコルチコステロイドの投与が併用されなければ、気管支収縮(Bronchoconstriction)の改善効果は限定的であることが知られています(Robinson et al. EVJ. 1993;25:299, Derksen et al. EVJ. 1992;24:107, Tesarowski et al. Can Vet J. 1994;35:170)。このため、息労における呼吸器閉塞では、気道炎症や粘液蓄積(Mucus accumulation)が関与していると推測されています(Derksen et al. EVJ. 1996;28:306)。また、コルチコステロイドによる抗炎症作用は、気管支拡張剤の作用よりも遅れて現れる場合が多いものの、治療後の経過において症状再発が生じた際には、長期間にわたる抗炎症作用が継続される場合もある、という知見が示されています。
一般的に、人間の喘息(Asthma)に対する吸引療法では、コルチコステロイドによって持続的な病態改善(Sustained disease modification)が認められ(Varner and Busse. J Respir Dis. 1996;17:656)、ベクロメタゾンジプロピオネートは他の種類のコルチコステロイドに比べて、安全性が高いことが知られています(Reed. N Eng J Med. 1991;325:425, Barnes and Pedersen. Am Rev Respir Dis. 1993;148:S1)。しかし、抗炎症剤による効能は投与直後には生じないため、呼吸器閉塞症状の迅速な消失を要する救急医療(Emergency medicine)の場合には、気管支拡張剤が真っ先に用いられる事が一般的です。そして、コルチコステロイドと気管支拡張剤が併用された場合には、持続的な抗炎症効果と迅速な気管支弛緩効果の両方が期待できるだけでなく、コルチコステロイドによって肺細胞における新たなベータ・アドレナリン受容体の形成が促進(Corticosteroids can induce formation of new beta-adrenergic receptors on lung cells)されることで(Fraser and Venter. Proc Biochem Biophys Res Commun. 1980;94:39)、受容体の活性低下(Down regulation of the receptors)を予防できる(クスリが徐々に効きにくくなる現象を防げる)、という効能も指摘されています(Ellul et al. Lancet. 1975;2:1269)。
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