FC2ブログ
RSS

馬の文献:喉頭蓋捕捉(Tate et al. 1990)

「内視鏡を介したネオジウムヤグレーザー手術による馬の喉頭蓋捕捉および軟口蓋背方変位の治療」
Tate LP, Sweeney CL, Bowman KF, Newman HC, Duckett WM. Transendoscopic Nd:YAG laser surgery for treatment of epiglottal entrapment and dorsal displacement of the soft palate in the horse. Vet Surg. 1990; 19(5): 356-363.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)および軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)に対する有用な外科的療法を検討するため、1986~1989年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉または軟口蓋背方変位(あるいは両方)の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位での内視鏡を介したネオジウムヤグレーザー手術(Transendoscopic Nd:YAG laser surgery)による、披裂喉頭蓋襞の軸性分割(Axial division of aryepiglottic fold))および口蓋帆切除術(Staphylectomy)が行われた十二頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、喉頭蓋捕捉を呈した十一頭の症例のうち十頭では、術後合併症(Post-operative complications)を起こすことなく捕捉部位の完全整復(Complete correction)が達成され、残りの一頭では、術後に披裂喉頭蓋襞組織の部分癒着(Partial adhesion)が認められましたが、喉頭切開術(Laryngotomy)を介しての再手術によって、完全な整復が達成されました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位での内視鏡を介したレーザー手術によって、良好な捕捉部位の整復が期待され、競技&競走能力の回復を示す馬の割合が高いことが示唆されました。そして、レーザー切開による披裂喉頭蓋襞の軸性分割では、鈎状柳葉刀(Hooked bistoury)を使う術式に比べて、切る過程がゆっくりかつ調節が効き易いため、分割が不十分であったり、切る箇所がズレてしまう可能性が低い、という利点が挙げられています。

この研究では、軟口蓋背方変位を呈した四頭のうち、完治したのは一頭、持続性の軟口蓋背方変位が残存した馬が一頭、鼻孔閉鎖等によって軟口蓋背方変位が誘導できた馬は二頭であったことが報告されています。このため、軟口蓋背方変位の罹患馬に対しては、レーザー手術後の瘢痕形成によって、軟口蓋の強直度の向上(Improved soft palate stiffness)が示され、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が見られる場合もあることが示唆されています。また、喉頭蓋捕捉と軟口蓋背方変位の両方を発症している患馬に対しては、まず最初に口蓋帆切除術を行い、次に披裂喉頭蓋襞の軸性分割という順番で手術を行うことで、軟口蓋の尾側縁(Caudal border of soft palate)をレーザー切除する際に、捕捉している組織によって喉頭蓋の表面がレーザーから保護されて、誤って喉頭蓋を傷付けてしまう危険性を減少できると提唱されています。

この研究で応用されたネオジウムヤグレーザー手術では、人工サファイア端(Synthetic sapphire tip)のレーザー導管を使用する場合には、低エネルギーのレーザーで切開を行えるため、術創の炎症や浮腫(Inflammation/Edema)、レーザーの狙いがずれた際の周囲組織への医原性損傷(Iatrogenic damage to surrounding tissue)が少ないという利点があります。しかし、導管の先端と切除しようとしている組織が直接的に接触(Direct contact)している必要があるため、軟口蓋背方変位への手術に際しては、前もって術部への局所麻酔(Local anesthesia)の塗布、および充分な鎮静および保定(Adequate sedation and restraint)を施すことが重要である、という考察がなされています。

一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対するレーザー手術においては、今回の研究のように、捕捉されている披裂喉頭蓋襞の組織を、上から下へ(尾側から吻側へ)切除する術式と、他の文献で報告されているように、下から上へ(吻側から尾側へ)切除する術式があります(Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971)。このうち、上から下へ切る方法では、分割が完了する前に喉頭蓋が披裂喉頭蓋襞から外れて軟口蓋の下方に潜ってしまい、充分な長さの切開ができない危険性がある反面、下から上へ切る方法では、喉頭蓋の尖端(Tip of epiglottis)に当たる箇所から切り始めるため、レーザー切除の深さを調節しにくく、喉頭蓋を医原性損傷させる危険性が高い、という問題点が指摘されています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:喉頭蓋捕捉





馬の文献:喉頭蓋捕捉(Tulleners. 1990)

Blog_Litr0505_002_Tulleners1990_Pict1.jpg

「馬の喉頭蓋捕捉の治療のための起立位手術による内視鏡を介してのネオジウムヤグレーザー的整復」
Tulleners EP. Transendoscopic contact neodymium:yttrium aluminum garnet laser correction of epiglottic entrapment in standing horses. J Am Vet Med Assoc. 1990; 196(12): 1971-1980.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1986~1988年にかけて、上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での、内視鏡を介してのネオジウムヤグレーザー的整復(Transendoscopic contact neodymium:yttrium aluminum garnet laser correction)が行われた88頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。

この研究の外科的療法では、鎮静剤(Sedation)の投与後、起立位で鼻ネジ(Nose twitch)をかけ、内視鏡での観察下で喉頭蓋周囲への局所麻酔(Local anesthesia)の塗布を行ってから、内視鏡の生検チャンネル(Biopsy channel)を介して、レーザー導管を咽頭部へと進展させました。そして、喉頭蓋を捕捉している披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の組織のうち、喉頭蓋の尖端(Tip of epiglottis)に当たると思われる箇所から、上方へと垂直にレーザーで切開して、切り終わった時点で馬に数回ほど嚥下(Swallowing)をさせて、喉頭蓋捕捉が起こらない事が確認されました。

結果としては、88頭の患馬のうち、レーザー手術によって喉頭蓋捕捉の完全整復(Complete correction)が達成された馬は85頭(97%)に及び、これ以外の三頭では、重度の喉頭蓋低形成(Severe epiglottic hypoplasia)や慢性肥厚性捕捉膜(Chronic and thick entrapping membrane)のため、治療不成功という判断が下されました。そして、殆どの症例は、入院(Hospitalization)を要しない外来症例(Outpatient basis)として治療され、術後の七~十四日間の休養および抗炎症剤(Anti-inflammatory drugs)の投与で、運動に復帰できたことが報告されています。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位での経内視鏡的なネオジウムヤグレーザー手術によって、罹患部が完全に整復され、早期に運動復帰できる馬の割合が非常に高いことが示唆されました。

一般的に、喉頭蓋捕捉の罹患馬への外科的療法では、喉頭切開術(Laryngotomy)を介して、捕捉されている披裂喉頭蓋襞の組織(Aryepiglottic fold tissue)を切除する手法が用いられますが、全身麻酔(General anesthesia)や長期入院を要するという欠点があります(Speirs. J Eq Med Surg. 1977;1:267,Fretz. Can Vet J. 1977;18:352)。一方で、内視鏡を介してのレーザー手術では、来院症例として治療でき、治療費が安く抑えられるという利点の他に、患馬に意識があるため、捕捉組織をレーザーで分割した後、実際に馬に嚥下運動をさせてみて、喉頭蓋が再捕捉しない事を確認できる、というメリットもあります。

この研究では、術後にレース復帰を果たした競走馬症例を見ると、術前に比べて競走能力の維持または向上(Maintenance/Improvement of racing performance)が達成された馬は、サラブレッド競走馬では90%、スタンダードブレッド競走馬では95%に上っていました。このため、競走馬の喉頭蓋捕捉に対しては、内視鏡を介しての起立位レーザー手術によって、十分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が見られ、競走能力の維持または向上を期待できることが示唆されました。

この研究では、術後に喉頭蓋捕捉の再発(Recurrence)を呈した馬は四頭(5%)で、このうち三頭では喉頭蓋低形成の併発が認められました。また、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)の術後合併症(Post-operative complication)が認められた馬は九頭(10%)で、これらの馬の全頭が喉頭蓋低形成を呈していました(この他に、術前から軟口蓋背方変位を起こしていたのが四頭)。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬の術前診断では、側方レントゲン像(Lateral radiographic view)などによって喉頭蓋低形成の評価を行って、適切な予後判定(Prognostication)に努める事が重要であると考えられました。

この研究で応用されたレーザー手術による喉頭蓋捕捉の整復では、鈎状柳葉刀(Hooked bistoury)によって軸性分割する術式に比べて、術創からの出血は少ないものの、術後に軽度~中程度の咽頭炎症(Mild to moderate pharyngeal inflammation)を続発することから、十分な抗炎症剤療法を併用することが重要である、という提唱がなされています。また、術後の二週間以内に観察される炎症反応は、かなりの個体差(Individual variability)があり、必ずしも長期的予後(Long-term prognosis)とは相関しないという知見が示された事から、経時的な内視鏡検査によって、術部の慎重なモニタリングをすることが重要である、という考察がなされています。

この研究では、レーザー的整復が難しかった場合として、喉頭蓋が薄く平坦で(Flat and thin epiglottis)、重度の喉頭蓋低形成を呈している病態が上げられています。このような症例では、喉頭蓋の弛緩性(Flaccidity)に起因して、喉頭蓋の尖端が捕捉されている組織内で折れ曲がり、全体が平たい箱状を成すため、適切な角度でレーザーを当てることが難しかった、という知見が示されています。そして、このようなケースでは、切り進めていくうちに尖端が横方向へ曲がってしまったり、軟骨組織が露出(Exposing cartilage tissue)してしまうという問題が生じ、また、切り終えた後でも、披裂喉頭蓋襞の断端が喉頭蓋に巻きついてしまう傾向にありました。このため、重度の喉頭蓋低形成が見られた症例に対しては、全身麻酔下での喉頭切開術を介して、より慎重かつ厳密に、捕捉されている軟部組織を切除するのが好ましいのかもしれません。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:喉頭蓋捕捉




馬の文献:喉頭蓋捕捉(Honnas et al. 1988)

「喉頭蓋捕捉:起立位の馬における経鼻腔アプローチによる披裂喉頭蓋襞の軸性分割」
Honnas CM, Wheat JD. Epiglottic entrapment. A transnasal surgical approach to divide the aryepiglottic fold axially in the standing horse. Vet Surg. 1988; 17(5): 246-251.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1980~1987年にかけて、上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での経鼻腔アプローチ(Transnasal surgical approach)による、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が行われた20頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

この研究の外科的療法では、起立位で鼻ネジ(Nose twitch)をかけ、内視鏡での観察下で喉頭蓋周囲への局所麻酔(Local anesthesia)の塗布を行い、これによって軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)が生じた場合には、鈍性フック(Blunt hook)を使って軟口蓋縁を前方に引っ張ることで、喉頭蓋を軟口蓋の上に戻しました。そして、鼻腔の腹側道(Ventral meatus)を通してステンレス鈎状柳葉刀(Stainless steel hooked bistoury)を咽頭部へと到達させて、この鈎の先端を捕捉されている披裂喉頭蓋襞組織に引っ掛けて、短く慎重な動作(Short and deliberate strokes)によって柳葉刀を吻側牽引(Rostral traction)することで、披裂喉頭蓋襞の軸性分割が施されました。

結果としては、20頭の患馬のうち、17頭の競走馬の症例では、術後に調教およびレースへの復帰(Returned to training and race)を果たした馬は88%に及んでいました。また、残りの三頭の非競走馬の症例では、一頭では症状の完治(Resolution of clinical signs)と運動復帰を示し、他の二頭は呼吸器症状(Respiratory signs)が残ったものの運動不耐性(Exercise intolerance)の完治と運動復帰を果たしたことが報告されています。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位手術での披裂喉頭蓋襞の経鼻腔的な軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、競走および運動に復帰できる馬の割合が高いことが示唆されました。

一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する古典的な治療では、喉頭切開術(Laryngotomy)または経口腔アプローチ(Transoral approach)によって、捕捉されている披裂喉頭蓋襞組織を切除する術式が報告されています(Speirs. J Eq Med Surg. 1977;1:267,Fretz. Can Vet J. 1977;18:352)。しかし、今回の研究で応用されたような、内視鏡を介しての経鼻腔的な分割手法では、入院を要せず来院症例(Outpatient basis)としての診療が可能で、手術時間が短く、手術費も安価で、全身麻酔(General anesthesia)も要しない、という利点が挙げられています。また、術後の休養期間(Post-operative resting period)を短縮できる(特に競走馬において重要)という大きな長所もあり、他の文献で行われている喉頭形成術を介しての治療法では、通常は四~六週間の休養を要するのに対して、今回の研究では、術後の平均休養期間は十八日間で、このうち七割の症例では、二週間以内の休養で調教および運動に復帰できた事が報告されています。

この研究では、喉頭蓋捕捉の臨床症状として、運動不耐性によるプアパフォーマンスを呈した馬が55%(11/20頭)と最も多く、次いで、運動不耐性に伴う呼吸器雑音(Respiratory noise)を呈した馬が三頭、呼吸器雑音のみを呈した馬が二頭、運動不耐性または呼吸器雑音に伴う咳嗽(Coughing)を呈した馬が二頭となっていました。また、術前の側方レントゲン検査(Lateral radiography)が行われた13頭の患馬のうち、喉頭蓋の長さ(Epiglottic length)が正常(8.5~9.1cm)であったのは九頭(69%)で、残りの四頭では喉頭蓋低形成(Epiglottic hypoplasia)(喉頭蓋の長さ:6.1~7.5cm)が認められました。他の文献では、喉頭蓋低形成に起因する喉頭蓋捕捉では、臨床症状の完治という意味では、予後が有意に悪化(Significantly poor prognosis)するという知見が示されています(Boles et al. JAVMA. 1978;172:338, Linford et al. AJVR. 1983;44:1660, Ordidge. Vet Rec. 1977;100:365)。

この研究では、20頭の患馬のうち17頭では、喉頭蓋捕捉に対する外科的療法のあと、術後の8~28日で、分割された披裂喉頭蓋襞の完全退縮(Complete retraction)が見られました。しかし、残りの三頭のうち、一頭では喉頭蓋捕捉が再発(Recurrence)し、二頭では分割された披裂喉頭蓋襞の断端組織が、喉頭蓋の尖端(Tip of epiglottis)に巻きつく所見が認められましたが、いずれも、二度目の分割手術によって完治していました。そして、このような合併症(Complications)は、軸性分割が完全に行われる前に鈎が外れてしまい、披裂喉頭蓋襞が部分的に残ってしまう事で生じると考えられました。

一般的に、馬における喉頭蓋下の披裂喉頭蓋襞は、アコーディオンのように伸び縮みすることで、嚥下の際に喉頭蓋を上方に反転できる余裕を持たせています(Reserve of tissue that can expand when the epiglottis is elevated during swallowing)。そして、馬の喉頭蓋捕捉における手術によって、この組織の炎症や瘢痕形成(Inflammation or scar formation)が生じると、喉頭蓋が前方に移動できる範囲が狭められて、軟口蓋背方変位の術後合併症を引き起こす危険性が高いことが知られています(Boles. Proc AAEP. 1975;21:29, Haynes.Proc AAEP. 1978;24:223, Cook. Proc AAEP. 1981;27:393)。このため、喉頭蓋を捕捉している披裂喉頭蓋襞の組織は、出来る限り軸性分割するだけにとどめ、広範囲にわたる組織切除は避けるべきである、という警鐘が鳴らされています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:喉頭蓋捕捉




新型コロナが犬や猫に感染?

20200817_Blog_Daily033_COVID_DogCat_Pict1.jpg

新型コロナウイルスが国内の犬や猫にも感染する可能性が報告されています。

国内の某ペット保険会社は、新型コロナに感染した飼い主から預かった犬二匹がPCR陽性を示したと発表しました。二匹とも健康状態には異常なく、他のペットや従業員はすべてPCR陰性だったそうです。また、東京大学医科学研究所は、新型コロナが猫のあいだで感染するという研究結果を発表しました。三匹の猫の鼻腔内に新型コロナを接種したところ、同居猫からウイルス粒子が分離され、IgG抗体価も上昇していました。以上のデータから、新型コロナがヒトから犬に感染したり、猫から猫へ伝搬する危険性が示唆されています。

しかし、私見としては、このような情報のみから、新型コロナの感染拡大に犬や猫が関わっているという警鐘を鳴らすのは早計であると考えます。まず前者のニュースの犬については、PCR検査によって、犬の鼻に新型コロナウイルスが「付着」していた可能性が示されただけであり、犬が新型コロナに「感染」した事にはなりませんし、その犬の鼻に付着していたウイルス量が、他のヒトへの感染を引き起こすほどの量なのか否かは分かっていません。この飼い主は、ウイルスの付いた手で犬にも触れていたと推測されますので、PCR陽性になっても何ら不思議ではないハズです。

一方、後者の研究結果については、抗体価の上昇やウイルス増殖も示唆されていることから、感染が起こったことは間違いないですが、あくまで感染量のウイルスを猫の鼻腔内に人為的に塗り付けるという実験環境下での出来事に過ぎません。著者らは、「猫からヒトへの感染を示すものではない」と述べていますが、それ以前に、新型コロナに感染した飼い主から、飼い猫にウイルスが伝搬するときのウイルス量を再現しているのかが不明です。たとえ、ヒト特有のウイルスであっても、猫がそのウイルスに多量に暴露すれば感染は成立しますが、感染者の飛沫にそれほどの量のウイルスが含まれているか否かは甚だ疑問です。

昨今のニュースや報道は新型コロナ一色であり、犬猫への感染が疑われるという事例や論文は注目されがちです。しかし、上述の犬や猫は、いずれも臨床症状を一切示しておらず、そもそも病気ではありませんし、この時勢で敢えて調べたから判明したレアな事象に過ぎないのかもしれません。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.





馬の文献:喉頭片麻痺(Raffetto et al. 2015)

「78頭のサラブレッド競走馬における反回神経病の治療のためのポリウレタン人工喉頭形成術とレーザー声嚢声帯切除術の術後における競走能力」
Raffetto JA, Wearn JG, Fischer AT Jr. Racing performance following prosthetic laryngoplasty using a polyurethane prosthesis combined with a laser-assisted ventriculocordectomy for treatment of recurrent laryngeal neuropathy in 78 Thoroughbred racehorses. Equine Vet J. 2015; 47(1): 60-64.

この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に対する有用な外科的療法を検討するため、2000~2011年にかけて、反回神経病(Recurrent laryngeal neuropathy)の診断が下され、ポリウレタン人工喉頭形成術(Prosthetic laryngoplasty using a polyurethane prosthesis)とレーザー声嚢声帯切除術(Laser-assisted ventriculocordectomy)が実施された78頭のサラブレッド競走馬における、術後の医療記録(Medical records)および競走成績(Racing performance)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、術後に少なくとも一回はレース出走できた馬の割合は、術前に既に出走していた馬では82%(46/56頭)、術前に未出走の馬では75%(15/20頭)であったことが示されました。また、競走能力の指標である、ベイヤー・スピード・ フィギュアズ(Beyer Speed Figures: BSF)および競走能力指数(Performance index: PI)を見ると、術後の3レースにおけるこれらの数値が、術前の3レースにおける数値まで回復していた馬の割合は、BSF値およびPI値でそれぞれ73%と78%であったことが報告されています。このため、馬の喉頭片麻痺に対する外科的治療では、ポリウレタン人工喉頭形成術およびレーザー声嚢声帯切除術によって、良好な上部気道の機能回復(Adequate restoration of upper airway function)が期待され、治療前と同程度の競走能力まで回復できることが示唆されました。

この研究で評価された治療法(ポリウレタン人工喉頭形成術とレーザー声嚢声帯切除術の併用)では、75%および82%の競走復帰率が達成されており、他の文献と比較しても、同レベルの治療効果が期待できるという結論付けがなされています。一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する外科的療法では、レース復帰を果たす馬の割合は、報告によって様々であるものの、おおむね70~94%に上ることが示されています(Strand et al. JAVMA. 2000;217:1689, Davenport et al. Vet Surg. 2001;30:417, Witte et al. EVJ. 2009;41:70)。

この研究では、二歳以下の症例と、三歳以上の症例で、術後の治療成績には有意差は認められませんでした。他の文献では、二歳以下の若齢馬のほうが、術後に優れた予後を示したという報告がある反面(Kidd et al. Vet Rec. 2002;150:481, Carpenter et al. J Eq Vet Sci. 2009;29:584)、患馬の年齢は予後とは相関しないという知見も示されています(Hawkins et al. Vet Surg. 1997;26:484)。

この研究では、競走能力の指標として、BSF値が応用されており、これは能力の客観的測定値(Objective measure)として信頼できると考察されています。BSF値は、競走クラスおよびその馬場の固有速度(Inherent speed of the track)に指標付けされた競走タイムに基づいて算出されることから、着順に関係なく、毎レースの成績を反映する指標として、極めて有用であると考えられています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:喉頭片麻痺




馬の文献:喉頭片麻痺(Rossignol et al. 2015)

「起立馬の喉頭形成術」
Rossignol F, Vitte A, Boening J, Maher M, Lechartier A, Brandenberger O, Martin-Flores M, Lang H, Walker W, Ducharme NG. Laryngoplasty in standing horses. Vet Surg. 2015; 44(3): 341-347.

この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に対する有用な外科的療法を検討するため、2008~2014年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)にて反回神経病(Recurrent laryngeal neuropathy)の診断が下された71頭の馬に対して、起立位手術による喉頭形成術(Standing laryngoplasty)が実施されました。

この研究の術式では、鎮静(Sedation)と局所麻酔(Local anesthesia)が行われた症例馬の頭頚部を、完全に伸展させた姿勢(Fully extended position)で保定して、通常どおりに、舌顔面静脈(Linguofacial vein)の腹側から輪状軟骨の尾側部(Caudal aspect of the cricoid cartilage)に到達するアプローチ法が選択されました。輪状軟骨への刺入は、パッサー器具、またはDeschamps針、または逆角針を用いて行われ、輪状咽頭筋と甲状咽頭筋(Cricopharyngeus and thyropharyngeus muscles)を分離して披裂軟骨筋突起(Muscular process of the arytenoid cartilage)を露出させてから、筋突起への刺入は、Jamshidi骨髄針+Crochet-styleフック、または逆角針、またはメイヨー針を用いて行われました。インプラントの設置角度は、僅かに頭内側から尾外側の向きで(Slightly craniomedial to caudolateral direction)、輪状披裂関節に垂直方向(Parallel to the cricoarytenoid joint)とされました。インプラントは、一本(n=49)または二本(n=18)使用され、二本使う場合には、正中軸よりも10cmほど内側または外側にそれぞれ設置されました。そして、内視鏡で観察しながら、最適な披裂軟骨外転(Optimal degree of abduction of the arytenoid cartilage)(グレード2または3)が得られるまでインプラントへの緊張が加えられました。その後、通常どおりの三層縫合を施してから、ステントバンテージが塗布され手術は終了されました。

結果としては、起立位での喉頭形成術は、重篤な合併症(Serious complication)を伴うことなく、全症例で安全に実施され、手術準備時間は約30分で、手術時間は35~60分であったことが報告されています。手術直後の内視鏡検査では、過半数の症例(41/71頭)でグレード2の披裂軟骨外転が確認され、術後の六週間目に内視鏡検査が行われた症例(22/46頭)では、グレード3の外転が確認されました。長期的予後(Long-term prognosis)を見ると、96%の症例(68/71頭)において、呼吸器雑音の減退(Reduced respiratory noise)と運動耐性の向上(Improved exercise tolerance)が達成されました。このため、馬の喉頭片麻痺に対しては、起立位での喉頭形成術によって、全身麻酔下(Under general anesthesia)での施術と遜色の無い治療成績が期待され、治療費を安価に抑えたり、麻酔覚醒の危険を避けられるという利点がある、という考察がなされています。また、手術が奏功しなかった三頭のうち、一頭は術後一週間目に喉頭形成術の損失が確認され、もう一頭は術後一ヶ月目に喉頭形成術の損失が確認されて、再手術によって運動能力が回復し、最後の一頭は、運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)を発症して転用されたことが報告されています。

この研究では、起立位での喉頭形成術において、披裂軟骨筋突起への外側アプローチは容易であったものの、筋突起を触ることで発咳(Coughing)が見られたため、局所麻酔薬を染み込ませたガーゼ(Local anesthetic soaked gauze)を周囲組織に当てる手法が実施されました。また、深刻な術中出血(Intra-operative bleeding)を起こした症例は無く、起立位での施術に際して頭部を挙上させていることが、出血を軽減するのに奏功した可能性があると考察されています。

この研究では、輪状軟骨と筋突起にかけたインプラントに緊張を加える際に、内視鏡で披裂軟骨の外転度合いを確認しながら緊張度を加減する手法が用いられ、術後に過剰外転(Over-abduction)を起こした症例はありませんでした。一方、全身麻酔下での喉頭形成術では、術中の外転グレードが、手術直後の起立位での外転グレードと一致しない事象もあると指摘されており、この要因としては、気管チューブによって披裂軟骨が外側に押されていること、および、馬の頭部の位置によっては喉頭軟骨が捻れてしまうこと、等が挙げられています。つまり、適切なインプラントの緊張度(=披裂軟骨の外転度合い)を判断する点においては、起立位での喉頭形成術のほうが、麻酔下での手術よりも優れている、という考察が可能なのかもしれません。

この研究では、起立位での喉頭形成術を行った馬外科医の印象として、インプラントに緊張を加えるのに必要な力が、麻酔下での手術よりも少なかったという知見が示されており、この要因として、披裂軟骨の外転の判定が容易であったり、喉頭軟骨が通常の位置(馬が立っている状態)にあったことが挙げられています。また、馬の喉頭形成術において、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)の際の激しい呼吸や嚥下(Intense breathing and swallowing)が、インプラントが破損する原因のひとつであると仮定すると、これが起立位での施術の利点になりうるという考察もなされています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:喉頭片麻痺




新型コロナはどう収束するのか?

20200515_Blog_Daily018_COVID_OneHealth_GIF1.gif

新型コロナウイルス感染症はどのように収束に向かうのでしょうか?

日経ビジネスのコラム(2020年8月7日)によると、過去の伝染病の収束には幾つかのパターンがありますが、完全な根絶を成し遂げたのが「天然痘」です。天然痘はポックスウイルスよって起こり、飛沫感染や接触感染をする点は新型コロナと同じですが、不顕性感染(=無症状感染)というケースが殆どないので、患者を発見・隔離するのが容易であることから、根絶が可能であったと言われています。また、治癒後に免疫抗体ができると二度と罹らなくなり、DNAウイルス(=変異しにくい)なのでワクチン接種による予防効果が高く、ヒトのみに感染するので他の動物が保菌して残存してしまうリスクも無い、などの特性があります。

残念ながら新型コロナは、無症状な感染を起こすことから、感染者を完全に発見・隔離するのは難しく、また、変異しやすいRNAウイルスであったり(=ワクチン接種による感染予防効果が低い?)、免疫抗体が数ヶ月しか持続しなかったり、ヒト以外の動物由来である(と予測されている)、などの点で天然痘とは異なっています。そう考えると、どんなに新型コロナ感染の予防対策を取っても、天然痘のように完全に根絶するのは困難なのかもしれません。実際、“旧型”コロナでもこの傾向は同じで、未だに根絶もワクチン開発も出来ていません。

もうひとつの収束のパターンが、普通の「風邪」と同じように、人類の多くが罹患して免疫を獲得して治るような病気になる、というものです。この場合には、ウイルスが弱毒化していくことで、集団免疫の獲得が進んで収束しやすいと言われています。新型コロナの死亡率は、国や時期によって様々ですが、少なくとも七月以降の日本においては、PCR陽性者が約三万人で死亡者が80人程度ですので、死亡率は0.3%以下であり、インフルエンザ(死亡率0.1%程度)とあまり差がないほど弱毒化しているようにも見えます。事実、厚生労働省のサイトでも、新型コロナは「ウイルス性の風邪の一種です」と明記されています。

このように考えていくと、風邪の一種である新型コロナを、指定感染症にしておくことの是非も議論されており、一部の専門家からは、他の風邪のウイルス(ライノウイルスやアデノウイルス等)と同じように指定感染症から解除したり、インフルエンザと同じ五類感染症までダウングレードするべき、という提案もなされています。そうすれば、軽症患者まで隔離する必要が無くなるので、医療崩壊を防ぐのに寄与したり、経済活動の再開も容易に達成できると考えられています。つまり、これまでのインフルエンザと同じように対策をしていくことが出来る訳です。

一方で、指定感染症の解除やダウングレードすることによるデメリットも考えられます。まず、指定感染症という法的位置づけが無くなると、水際対策が取りにくくなるので、海外から強毒性の新型コロナが入ってきてしまう危険性が危惧されます。また、指定感染症ほどの対策を取らなくなり、感染拡大が目に見えないスピードで進むと、高齢者の死亡者が急増する可能性も否定できません。さらに、新型コロナの感染によって、旧型コロナにはない後遺症が起こる可能性も示唆されているので、長期的な健康被害の懸念もあります。加えて、スウェーデンのような集団免疫政策だと見なされると、海外とのヒトの流通や貿易の再開、オリンピック開催などに悪影響が出てしまうかもしれません。

いずれにしても、新型コロナを指定感染症とする措置は、一年間の期限付きであり、2021年の二月初旬には終了しますので、それまでに、新型コロナの感染力や死亡率を詳細に分析して、どれくらい怖い病気なのかを判断するべきだと思います。正直なところ、新型コロナを「ただの風邪だ」と言い切ってしまうのは、まだ早計なような気がします。しかし、社会的距離政策の弊害は決して小さくありませんので、もし、指定感染症として対処することのメリットとデメリットのバランスが悪いのであれば、適切なタイミングで、インフルエンザと同程度の対策までダウングレードすることも検討するべきだと感じます。

新型コロナを放置するのは乱暴ですが、天然痘のように根絶を目指すのもナンセンスだとすれば、0と100のあいだで、最適なレベルの対策を見定めるしかありません。新型コロナを正しく恐れるためには、思考停止も、過小評価も、事なかれ主義も、楽観思想も、全てが好ましくないのだと思います。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.




馬の文献:喉頭片麻痺(Barnett et al. 2013)

「喉頭形成術後の33頭の馬における運動時の披裂軟骨外転および安定性の長期的維持」
Barnett TP, O'Leary JM, Parkin TD, Dixon PM, Barakzai SZ. Long-term maintenance of arytenoid cartilage abduction and stability during exercise after laryngoplasty in 33 horses. Vet Surg. 2013; 42(3): 291-295.

この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)の外科的療法に応用される喉頭形成術(Laryngoplasty)における、披裂軟骨外転および安定性(Arytenoid cartilage abduction and stability)の長期的維持(Long-term maintenance)を評価するため、2005~2010年にかけて、喉頭形成術が実施された33頭の馬における運動時の上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy during exercise)が、術後の4~71ヶ月(平均33ヶ月)にわたって行われました。

結果としては、33頭の症例における術後一週間目の披裂軟骨外転は、中央値でグレード2(正中軸から50~80度の外転角度)であり、術後六週間目に外転がグレード3(正中軸から45度の外転角度)まで低下する経過が、過半数の馬(16/33頭)に認められたものの、このグレード3の披裂軟骨外転は、その後の長期間にわたって維持されたことが分かりました。また、六週間目における披裂軟骨外転のグレードでは、その後の長期的維持とのあいだに良好な相関(Good correlation)を示した一方で、一週間目のグレードと長期的維持のあいだでは、相関はあまり良くありませんでした。このため、馬の喉頭片麻痺に対する喉頭形成術では、多くの症例において、長期間にわたる披裂軟骨の外転が維持されることが示され、また、術後六週間目以降における外転の損失は限定的(Limited loss of abduction)であることから、この時点での内視鏡所見が、長期的な予後指標(Prognostic parameter)として信頼できると考察されています。

この研究では、長期間にわたって維持されうる披裂軟骨の外転度合いは、グレード3(=中程度の外転:Moderate abduction)にとどまっており、これを不十分と見なす馬外科医もいると指摘されています。しかし、他の文献では、最大限の外転(グレード1)でなくても、適切な上部気道機能を回復(Restoration of adequate upper airway function)できるという知見があり(Radcliffe et al. Vet Surg. 2006;35:643, Rakesh et al. EVJ. 2008;40:629)、また、馬主や調教師への聞き取り調査(Survey)によると、外転グレードと術後の競走能力とのあいだにはあまり相関が無かった(少なくとも主観的な判断に寄れば)という報告もなされています(Russell et al. JAVMA. 1994;204:1235, Kidd et al. Vet Rec. 2002;150:481)。そして、喉頭形成術によって競走能力が同レベルの馬と同等まで回復した症例(Horses achieving similar levels of performance as their race‐matched peers)においても、披裂軟骨の外転は必ずしも最大グレードでは無かった、という知見も示されています(Barakzai et al. Vet Surg. 2009;38:934)。

この研究では、喉頭形成術後の六週間目までに、披裂軟骨の外転度合いが減退していく所見が認められ、同様の傾向は、他の文献でも報告されていることから(Dixon et al. EVJ. 2003;35:389, Brown et al. EVJ. 2004;36:420)、手術では充分な外転グレード(1または2)を達成できるよう努めるべきであるという見解があります。しかしその一方で、他の文献では、手術時にグレード1まで外転された披裂軟骨は、グレード3までしか外転されなかった披裂軟骨に比べて、六週間目までに外転が損失する危険性が高いという知見もあります(Barakzai et al. Vet Surg. 2009;38:934)、このため、喉頭形成術において施すべき披裂軟骨外転の度合いについては、それぞれの馬外科医から様々な論議がなされている上、手術時または手術直後の所見が、必ずしも長期的な治療成績(Long-term therapeutic effect)の予測には役立たない、という考察がなされています。

この研究では、喉頭形成術をうけた馬の約二割(7/33頭)において、運動中の披裂軟骨の不安定性(Arytenoid cartilage instability during exercise)が認められましたが、この所見は、披裂軟骨の外転グレードや、グレードの低下度合いとは相関していませんでした。一般的に、馬の喉頭形成術では、外側インプラントによって、喉頭周囲の癒着(Perilaryngeal adhesions)および披裂輪状関節の繊維化(Fibrosis of the cricoarytenoid joint)が生じたり(Cheetham et al. Vet Surg. 2008;37:588)、意図的に披裂輪状関節の強直術(Arthrodesis)を施す場合もあり(Davidson et al. Vet Surg. 2010;39:942)、これらが、披裂軟骨外転の維持に寄与していると考えられています。つまり、術後の六週間目までに外転が損失していく徴候は、この癒着や繊維化が完了するまでの期間に見られる現象であると推測されており、さらに、披裂軟骨の不安定性が生じたり、六週間目以降も外転が減退していく症例では、そのような癒着や繊維化が不十分であった可能性もある、という考察がなされています。

この研究の限界点としては、調査の対象となった33頭の症例の他にも、経過追跡ができなくなった症例がいたことが挙げられています。つまり、喉頭形成術が奏功しなかった症例では、他の用途に転用されたり廃用になるケースが多かったと仮定すると、この33頭のデータに基づく長期的な治療成績の検討は、過大評価(Over-estimation)された結果であるという可能性があります。また、クライアントへの聞き取り調査に基づく治療効果の評価では、馬主や調教師が持つ希望的観測(Wishful thinking)も影響することから、やはり治療成績の過大評価につながるという考察がなされています。さらに、内視鏡検査の際に実施される運動の強度についても、全症例で統一(Standardization)されている訳では無かったため、これもデータの偏向(Bias)をもたらした可能性が否定できないと考えられました。

この研究では、安静時の内視鏡検査(Endoscopy at rest)における披裂軟骨外転のグレードは、運動時の内視鏡検査におけるグレートとは相関しておらず、必ずしも有用な予測指標(Useful predictor)にはならないことが示唆されました。この結果は、安静時の内視鏡所見では、手術の治療効果において間違った結論(False conclusions)を導く危険性がある、という他の文献の知見を、再確認させるデータであると考察されています。そして、披裂軟骨の不安定性や、動的気道虚脱(Dynamic airway collapse)を確認して、再度の喉頭形成術を実施する場合(Laryngoplasty revision)には、運動時の内視鏡所見が特に重要である、という警鐘が鳴らされています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:喉頭片麻痺





馬の文献:喉頭片麻痺(Bischofberger et al. 2013)

「喉頭形成術の術後に声門裂最大領域を得るためのインプラントの最適な緊張、位置、および数」
Bischofberger AS, Wereszka MM, Hadidane I, Perkins NR, Jeffcott LB, Dart AJ. Optimal tension, position, and number of prostheses required for maximum rima glottidis area after laryngoplasty. Vet Surg. 2013; 42(3): 280-285.

この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、22個の馬の屍体喉頭(Cadaveric equine larynges)に対する喉頭形成術(Laryngoplasty)において、声門裂の最大領域(Maximum rima glottidis area)を得るためのインプラントの最適な緊張、位置、および数(Optimal tension, position, and number of prostheses)が評価されました。

この研究では、試験された三本のインプラントのうち最初の二本は、外側(輪状軟骨の正中から1cmの位置)および背側(輪状軟骨の正中の位置)に設置されており、これらは、背側輪状披裂筋(Cricoid arytenoid dorsalis muscle)の外側神経筋区画の走行(Orientation of the lateral neuromuscular compartment)に一致しており、最も一般的なインプラントの設置箇所とされています(Ahern et al. Vet Surg. 2010;39:1)。また、三本目のインプラントは頭側(輪状軟骨の中央堤)に設置されており、これは、背側輪状披裂筋の内側神経筋区画の走行(Orientation of the medial neuromuscular compartment)に一致しており、最も一般的な代替的・付加的な設置箇所(Alternative or additional location)として提唱されています(Perkins et al. AJVR. 2010;71:1003, Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)。

結果としては、声門裂の横断面積(Cross-sectional area)は、インプラントの緊張度合いが上昇するに連れて増加することが分かり(20ニュートンが最大)、15ニュートンの緊張を掛けた状態では、二本または三本のインプラントを設置した場合のほうが、一本だけの場合に比較して、有意に大きな声門裂の横断面積が達成されたことが報告されています(三箇所のどのインプラントと比較しても)。他の文献では、喉頭形成術におけるインプラントの牽引角度としては、0~30度の場合において、70度の場合に比べて、有意に優れた披裂軟骨外転(Arytenoid cartilage abduction)が達成できるという知見が示されています(Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)。そして、これらのインプラントの緊張度としては、14.7ニュートンまたは15.2ニュートンの牽引力において、最大の披裂軟骨外転が達成できることが報告されています(Perkins et al. AJVR. 2010;71:1003, Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)。

一般的に、馬の喉頭形成術では、ポリブチラート被覆されたNo.5のポリエステルの編み糸(5 braided polyester coated with polybutilate)などの非吸収性縫合糸(Non-absorbable suture)を、一本または二本用いて、それらを丸針(Taper needle)にて設置する術式が推奨されています(Ahern et al. Vet Surg. 2010;39:1)。このようなインプラントにおいては、嚥下や発声における生理学的な負荷(Physiologic loads during swallowing or vocalization)である25ニュートンが掛かっても、一本のインプラント破損にも至らないことが示唆されています(Rossignol et al. Vet Surg. 2006;35:49)。また、反復的な負荷試験においても、生理学的な負荷が一万回作用した場合にも、インプラント破損には至らないことが報告されています(Ahern et al. Vet Surg. 2010;39:1)。

この研究では、インプラントが二本使われる場合には、外側+背側に設置されることで声門裂の最大横断面積が達成されており、他の二種類の組み合わせパターン(外側+頭側、または、背側+頭側)よりも優れていたことが報告されています。このため、外側+背側の二箇所にインプラントが設置された場合に比べて、三本のインプラントを三箇所(外側+背側+頭側)に設置することの利点は低い(少なくとも15ニュートンに緊張度においては)という考察がなされています。しかし、他の文献では、これらの三箇所のインプラントは、それぞれ異なった機序で作用していると考えられており(Cheetham et al. EVJ. 2008;40:70, Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)、これらを組み合わせる際の相乗効果(Synergistic effect)については、更なる検証を要すると考察されています。また今回の研究では、声門裂の総面積(Total area)のみが評価対象となっており、披裂軟骨がどの程度の背側・外側・尾側への変位または回転(Dorsal, lateral, or caudal displacement or rotation)を生じているのかに関しては評価されていませんでした。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:喉頭片麻痺




馬の文献:喉頭片麻痺(Fjordbakk et al. 2012)

「頚部屈曲時の動的喉頭圧潰に対する新治療:改良型支持手綱」
Fjordbakk CT, Holcombe S, Fintl C, Chalmers H, Strand E. A novel treatment for dynamic laryngeal collapse associated with poll flexion: the modified checkrein. Equine Vet J. 2012; 44(2): 207-213.

この研究論文では、馬の動的喉頭圧潰(Dynamic laryngeal collapse)に有用な保存性療法(Conservative treatment)を検討するため、頚部屈曲(Poll flexion)に起因する動的喉頭圧潰の確定診断(Definitive diagnosis)が下された十四頭の速歩競走馬(Trotter racehorse)に対して、通常の支持手綱(Conventional checkrein)、または、頚部屈曲を制限するように頭頂部への緊張を掛ける改良型支持手綱(Modified checkrein)を装着させて、トレッドミル運動時の内視鏡検査(Endoscopy during treadmill exercise)、および、気管内圧(Tracheal pressure)の測定が行われました。

結果としては、改良型の支持手綱を装着させることで、効果的に頚部屈曲の制限が達成できたことが報告されています。その結果、内視鏡検査における披裂軟骨圧潰(Arytenoids cartilage collapse)および声帯圧潰(Vocal fold collapse)の病態スコアが有意に改善して、気管内陰圧(Tracheal negative pressure)も有意に減少していた事が示されました。このため、動的喉頭圧潰の罹患馬(もしくは発症が疑われる馬)に対しては、改良型支持手綱を用いて頚部屈曲を制限することで、圧潰の予防および上部気道機能の改善(Improvement in upper airway function)が期待できることが示唆されました。上写真左は、通常の支持手綱と、その装着時の内視鏡所見(動的喉頭圧潰が発現している)で、上写真右は、改良型の支持手綱と、その装着時の内視鏡所見(動的喉頭圧潰が予防できている)を示しています。

一般的に、馬における片側性動的喉頭圧潰は、片側性披裂軟骨圧潰(Unilateral arytenoid cartilage collapse)および同側声帯圧潰(Ipsilateral vocal fold collapse)を併発した病気で、初期経過(Early progression)の反回喉頭神経障害(Recurrent laryngeal neuropathy)において、背側輪状披裂筋(Cricoarytenoideus dorsalis muscle)と輪状甲状筋(Cricothyroideus muscle)の両方の異常が原因で、発症に至ると推測されています。一方、両側性動的喉頭圧潰は、披裂喉頭蓋襞軸性偏位(Axial deviation of aryepiglottic folds)や喉頭蓋縁背内側偏位(Dorsomedial deviation of the epiglottic margins)を併発した病気で、頚部屈曲を要するハーネスレース競走馬に好発し、吸気性陰圧の減少(Decreased negative inspiratory pressures)から二次性披裂軟骨圧潰を起こして、発症に至ると推測されています。

他の文献では、馬の両側性動的喉頭圧潰に対して、両側性の声嚢声帯切除(Bilateral ventriculocordectomy)による競走能力の回復(Restoration of racing performance)や呼吸器雑音の減退(Reduction of respiratory noise)は、期待できないことが報告されています(Fjordbakk et al. Vet Surg. 2008;37:501)。一方、馬の頭部位置(Head position)は、上部気道インピーダンス(Upper airway impedance)に影響することが確認されており(Petche et al. EVJ. 1995;18:18)、また、頚部屈曲を促すように手綱へと強い緊張力(Tension on reins)が掛けられた場合には、吸気時の気管内最大陰圧(Negative tracheal peak inspiratory pressures)が有意に上昇することが報告されています(Strand et al. EVJ. 2009;41:59)。そして、今回の研究においても、これらの知見を裏付けるように、過剰な頚部屈曲を制限するような改良型支持手綱を使うことで、動的喉頭圧潰の発現を防ぎ、上部気道機能を改善する効果が期待できる、というデータが示されました。

この研究で試験された改良型支持手綱は、プロトタイプであるため、かさばって扱いにくく、また、金属製のプレートが用いられているため、馬が突発的または予想外に頭部を振り動かした際には(Sudden or unexpected head tossing)、馬自身や御者に怪我の危険がおよぶ可能性が指摘されています。このため、この改良型の支持手綱を実用するためには、デザインの精錬(Refinement)を要すると考察されていますが、この場合にも、頭頂部手綱(Overhead rein)と頚部革紐(Neck strap)のバランス機能は失われてはならない、という提唱がなされています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:喉頭片麻痺





プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: 40代
住所: 神奈川県
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

ブログメニュー

推薦書籍

FC2カウンター

リンク

関連サイト

検索エンジン

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
198位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
25位
アクセスランキングを見る>>

検索フォーム

関連サイト

QRコード

QR